[2016_06_14_02]原発地震想定 過小評価か 元規制委・島崎氏指摘 西日本で危険性 見直し是非 早急検討を 防災判断と科学は別 入倉孝次郎・京都大名誉教授(強振動地震学)の話(東奥日報2016年6月14日)
 
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 原子力規制委員会の委員当時に地震や津波関係の審査を担当した島崎邦彦・東京大名誉教授(地震学)は13日、原発の基準地震動(耐震設計の目安となる滞れ)の算出に使う一部の計算式に問題があり、審査に合格した関西電力高浜原発(福井県).など、主に西日本の原発で過小評価されている危険性があると指摘した。共同通信の取材に答えた。
 原発審査では最新の科学的知見を反映する必要があり、審査の見直しにつながる可能性がある。島崎氏は今月、大飯原発3、4号機の運転差し止め訴訟控訴審が行われている名古屋高裁金沢支部に宛てて、同原発の見積もりに過小評価の可能性があるとの陳述書を提出しているが、他の原発でも同様の問題が起きる危険性があるという。
 島崎氏は2014年9月に規制委の委員長代理を退任した後、この計算式の問題点を検証。4月の熊本地震で得られた詳細な観測結果を説明できないことから、計算式の問題点を確認した。
 島崎氏は「新しく分かった科学的知見として、この計算式を用いた原発の基準地震動を見直す必要がある」として、審査基準の見直しや審査のやり直しの必要性に言及した。
 過小評価は能登半島以西の原発で可能性が高く、審査が相当程度進んだ関電大飯原発(福井県)や九州電力玄海原発(佐賀県)も含まれる。合格したうちの四国電力伊方原発(愛媛県)と九電川内原発(鹿児島県)では、この計算式の影響は小さいとみられる。
 計算式は、入倉孝次郎・京都大名誉教授らが提唱し、想定される断層の面積から地震規模(地震モーメント)を求める。地下の断層面が地表に対して直角に近く、水平方向にずれる「横ずれ断層」などは、過小評価の傾向が特に強くなるという。
 熊本地震ではこのタイプの横ずれ断層が発生した。計算式は複数あるが、入倉氏の手法を多くの電力会社が採用している。
防災判断と科学は別
入倉孝次郎・京都大名誉教授(強震動地震学)の話
 (自らが提唱した)手法は学界でも認められ、有効性も検証されている。ただし、この手法で震源断層の面積を地震発生前に推定するのには難しさもあり、地震の揺れや津波の予測に用いる上で注意すべき点は多々ある。手法を原発の防災対策で用いる上で、どのような注意が必要なのかは行政が判断するもの。手法が科学的に正しいかどうかとは別だ。
【解説】
 東京電力福島第1原発事故後の地震津波審査を作り上げた島崎邦彦・東京大名誉教授による地震想定の「過小評価」指摘は極めて重い。原子力規制委員会は指摘を真摯(しんし)に受け止め、原発の審査結果や基準の見直しが必要かどうか、早急に検討するべきだ。
 原発の耐震設計の根拠となる基準地震動を設定する際に必要な地震規模(地震モーメント)の算出方法は複数ある。旧原子力安全・保安院時代から、地震動の計算は断層の面積を重視した手法が認められてきた一方、津波の規模の想定は断層の長さを重視した手法が認められてきた。
 だが、同じ地震モーメン卜なのに、津波の想定が地震の想定を大きく上回る場合があることが知られており、「二重基準」との批判があった。島崎氏によると、在職中に原子力規制庁職員に指摘されて二重基準の問題を知ったが、審査などに追われて検証する時間が得られなかった。今年4月の熊本地震で精密な観測データが得られ、より確実な検証が可能になったという。
(共同通信 鎮目軍司)
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