[2015_05_01_02]能登半島南西岸変動地形と地震性隆起_渡辺満久_中村優太_鈴木康弘_Vol.88_No.3_2015年5月_235-250(地理学評論2015年5月1日)
 
参照元
能登半島南西岸変動地形と地震性隆起_渡辺満久_中村優太_鈴木康弘_Vol.88_No.3_2015年5月_235-250

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 能登半島南西岸地域の隆起の原因を明らかにするため,沿岸の変動地形調査を実施した.本地域の海成段丘面は,高位のものから H1 面 〜 H4 面,M1 面・M2 面,A 面に区分できる.また,岩石海岸には離水ベンチが認められる.M1 面は MIS 5e に形成された海成段丘面である.それより古い H1 面 〜 H4 面には赤色風化殻が認められる.A 面は,11 世紀以前に離水した完新世段丘面(ベンチ)であると考えられる.これらの段丘面の高度には,累積的な南への傾動が認められる.調査地域北部では,富来川南岸断層が海成段丘面を変位させており,MIS 5e 以降の累積鉛直変位量は約 30 m である.その活動性は MIS 5e 以降に高まったと考えられる.複数のベンチは間欠的な隆起を意味しており,調査地域の隆起運動は,南東 〜 東傾斜の逆断層運動によってもたらされたと考えられる.このため,富来川南岸断層は沿岸から 3 〜 4 km 沖合にある海底活断層に連続する可能性がある.
 キーワード: 海成段丘,離水ベンチ,地震性隆起,活断層,能登半島南西部

 I は じ め に

 海成段丘は,海面高度の変化と海岸部の隆起運動によって形成される(吉川ほか 1964).したがって,海成段丘は変動地形ともいうべきものであり,その分布高度や段丘面の形態などをもとに沿岸地域の隆起をもたらした原因を考察することは,変動地形学における重要な研究課題の一つである.
 日本の沿岸部における地殻変動の特徴については,約 12.5 万年前の酸素同位体ステージ 5e(MIS5e)に形成された海成段丘面の旧汀線高度や形態の違いによって,いくつかのタイプに区分されている(Ota 1975; 日本第四紀学会 1987; 小池・町田 2001).これらの研究によれば,隆起運動が顕著な地域が二つ指摘されている.第 1 は,内陸への傾動が顕著な相模・駿河・南海トラフに面する地域である.室戸半島(吉川ほか 1964)や紀伊半島南部(米倉 1968)がその典型例であり,巨大地震の繰返しにともなう隆起運動と段丘形成との関係が明らかにされている.
 第 2 は,北海道 〜 能登半島にいたる日本海東縁地域である.この地域は,短波長で隆起速度 0.5 mm/yr 以上の隆起地域として定義されており(小池・町田 2001),隆起運動は沿岸における断層活動と関わる可能性が高いとされている(宮内 1988; 太田 1999).日本海東縁部では多数の歴史地震が発生しており,象潟(平野ほか 1979),西津軽海岸(Nakata et al. 1976),奥尻島(宮浦 1975; 三好ほか 1985),粟島(太田ほか 1988),佐渡島(太田ほか 1976a)などにおいて,歴史地震時の地震性隆起量分布と海成段丘面高度との関係が検討されてきた.ただし,能登半島においては,2007 年まで大きな隆起・沈降をともなうような歴史地震が発生していなかったため,同様の研究は進んでいなかった.
 2007 年 3 月 25 日,能登半島西部において能登半島地震(M6.9)が発生し,顕著な地殻変動が観測された(Awata et al. 2008 ; Ozawa et al. 2008).震源域周辺地域においては,陸域の隆起運動と海成段丘面高度との関係(浜田ほか 2007),ヤッコカンザシ化石の分布高度と年代測定値に基づく最近約 1,000年間の海面高度変化(Shishikura et al. 2009)が論じられた.
 しかし,これらの研究では,震源域南方地域の海成段丘面の旧汀線高度が急激に変化する可能性があることが指摘されている(Ota 1975; 太田・平川 1979)にもかかわらず,そのような現象は考慮されていない.このため,この地域のテクトニクスが正しく理解されていない可能性がある.
 本研究では,2007 年能登半島地震の震源域南方地域を調査対象地域とし,海成段丘面の分布を明らかにする.従来,不確実なまま残されていた海成段丘面の対比・編年を確実にし,陸域の活断層の存在を詳しく検証する.また,間欠的地震性隆起の発生を暗示する離水ベンチの分布も提示し,能登半島南西岸の隆起をもたらす原因を考察する.海岸域の隆起に関わるような大きな変位量を示す動きに注目するので,陸側が相対的に低下するような変動に関しては,簡単に紹介するにとどめる.

(後略)


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