[2015_02_27_02]世界に伝えたい 国連防災会議を前に 東北大災害科学国際研究所所長 今村文彦さん 津波 予測重要 監視を強化(東奥日報2015年2月27日)
 災害に強い世界を目指して各国が話し合う第3回国連防災世界会議が3月14〜18日、東日本大震災の被災地、仙台市で開かれる。大震災の教訓をどう生かすのか。この間、現場で奮闘してきた関係者が、国際社会に伝えたい思いを語った。

 <2011年3月11日に発生した東日本大震災は地震規模がマグニチュード(M)9・0、最大震度7。太平洋沿岸を巨大津波が襲い、戦後最悪の自然災害となった。1年後、東北大は災害科学国際研究所を開いた>
 想定を超える規模の地震と津波、火災、原発事故が同時発生する複合災害でした。あの日、目にした仙台市荒浜に津波が押し寄せる映像は、まさに悪夢。現実として捉えられませんでした。防災ワークショップや避難訓練で何度も訪れた身近な場所で、想像よりはるかに悲惨な実態だと瞬間的に分かりました。
 宮城県沖では地震がいつ起きてもおかしくないとの思いで備えてきましたが、十分ではありませんでした。津波予測も住民にうまく伝わらず、命を守るはずの情報が足りませんでした。
 研究機関は地域と一緒に防災を進めなくてはなりません。われわれの役割は巨大地震と津波が起きたメカニズムを解明し、しっかり分析すること。そうすれば減災対策もより効率的になります。
 M8の前提で耐震や避難訓練、ハザードマップ作りを進めましたが、実際はM9。(数字が)1増えるとエネルギーは32倍で、浸水域が事前予測より数倍に拡大したのは大きな反省です。正確な観測網があれば、シミュレーションで予測値を作れます。リアルタイムの監視態勢を強化させようと、海底ケーブルの設置を始めています。
 一方、ハード面の防災技術はあるレベルに到達したと言っていい。例えば、宮城県気仙沼市本吉町の海岸では防潮堤の高さ12bが基本。どんな整備をすれば安全の程度がどこまで確保できるか、科学的に証明できます。
 防潮堤を低くするのも一つの手段でしょう。その分、沿岸部の土地利用を制限したり、地震直後すぐに避難するよう注意喚起したり、住民の理解を得て丁寧に進める必要があります。多重防御の考え方です。
 避難タワーなどの防災施設をまちづくりでしっかり位置付けて、防災意識を高める。訓練だけでなく学びの場にもしたいです。
 震災の記憶継承も大事です。研究所では震災アーカイブ事業「みちのく震録伝」にも力を入れています。当時の記録や復旧復興の過程もしっかり残し、学校教育でも活用していきたいです。
 〈国運防災世界会議では、国際的な防災指針が策定される。死亡率や経済的損失など、被害軽減に向けた数値目標を盛り込むかどうかが焦点だ〉
 環境問題のように数値目標を掲げ、到達度をしっかり押さえる必要があると思います。災害は予測そのものが難しいですが、具体的数字を盛り込めれば大きなステップです。各国政府が責任を持って統計データを示し、国連が全体の到達度を評価する仕組みにつなげるベきです。
 東日本大震災は今なお「現在進行形」であり、終わっていません。被災地の仙台市で世界会議を開くことで、復興への課題も共有したいと思います。各地の復興の進み具合は異なります。世界各国の参加者は、ぜひ現場に行っていただきたいです。
 (聞き手・玉井和紗、写真・伊藤暢希)
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