[2015_02_05_01]東京地検が東電旧経営陣らを再び不起訴 福島原発告訴団、新たな告訴へ(ふえみん2015年2月5日)
 東京電力福島第1原発事故をめぐり、「福島原発告訴団が2012年に東京電力の旧経営陣らを業務上過失致死傷罪などで告訴・告発した件で、東京地検が不起訴にした後、検察審査会が14年7月に旧経営陣を「起訴相当」にしたが、1月22日、東京地検は再び不起訴にした。一方、1月13日、「福島原発告訴団」団長の武藤類子さんら14人が、新たな告訴・告発を行い、16日に受理された。

 「再度の不起訴処分に、深い悲しみと怒りの中にいます」。不起訴処分が伝えられた1月22日の翌日、東京地検前で抗議行動が行われ、武藤類子さんは声を振り絞って話した。「さまざまな困難の中にいる原発事故被害者は、事故の責任がきちんと取られなければ、本当の人生の再建はないのです。同じ悲劇を食い止めることもできません」

■新たな事実判明

 検察審査会が「起訴相当」として以降も、検察が東電を強制捜査することはなかった。不起訴理由書には、2002年に政府の地震調査研究推進本部が出した、三陸沖から房総沖日本海溝沿いでマグニチュード8クラスの地震が起きうるという「長期評価」は「学術的成熱性・説得性」が高くなかったとした上で、(1)今回の規模の地震とそれに伴う津波の予知は不可能で、(2)「長期評価」に基づいた対策(防潮堤設置、重要設備の高台移設、建屋の水密化など)をしても結果を回避できなかったなどとした。
 しかし昨年末に公にされた新たな資料(昨年11月に出版されたサイエンスライターの添田孝史さんの著作『原発と大津波 警告を葬った人々』(岩波新書)と裏付け資料、同年12月25日に公開の政府事故調査委員会の調書)では、旧経営陣のみならず、東電の津波対策の担当者、及び経産省原子力安全・保安院(以下、保安院)関係者らが、今回の津波と同程度の津波の危険性と、対策が緊急に必要なことを認識しながら怠ったことが明らかになっており、告訴団は上申書も提出していた。
 不起訴処分を受け、事件は再び検察審査会にかけられる。再度「起訴相当」と議決されれば、裁判所が指定した弁護士が強制的に起訴をすることになる。
 一方、告訴団は新たな資料で明らかになった事実に基づき、新告訴(2015年告訴)を1月13日に行った。被告訴人は、福島第1原発の津波対策の検討実施に当たっていた東電関係者と、旧保安院関係者ら9人(別表)だ。

 ■東電と保安院の癒着

 告訴・告発状によると、(1)2002年の「長期評価」が出る前の1997年にすでに、7省庁による「津波防災の手引き」で、福島沖でマグニチュード8クラスの津波地震が想定された(2)2000年に東電も加盟する電気事業連合会の解析で、福島原発は想定(5・7b)のたった1・2倍の津波で原子炉冷却に影響があると判明した(3)06年から始まった「耐震バックチェック」の過程で、東電は「長期評値に基づき最大津波15・7b(今回の津故に匹敵)の試算を08年に得たが、保安院に事故直前まで報告しなかった(4)武藤栄元副社長が15・7bの数値を知り、対策を指示したが、その後取りやめ、電力会社社員が構成員のほとんどを占め、資金も提供する「土木学会」に「長期評価」の扱いの検討を委ねた(5)08年に論文が出て、明らかになりつつあった「貞観地震」(869年)」の試算で最大9・2bの津波の試算を得るも、保安院に低い数値を報告した、などとなっている。
 今回の被告訴人のうち、東電の関係者は、耐震バックチェックのほか、土木学会の津波評価部会にも関わっていた。
 また、4人は旧保安院関係者で、現在も原子力規制行政を担っている人もいる。告訴状によれば、森山善範・元保安院原子力発電安全審査課長は、10年に福島第1原発3号機で初めて「ウラン・プルトニウム混合酸化物燃料」を装荷するプルサーマル発電が計画される中、09年に東電から8〜9bの試算を受けたが(東電の津波想定は5・7b)、「貞観津波は敷地高を大きく超える恐れがある。対策が必要になる可能性あり」とメールで送信し、耐震バックチェック終了を先延ばしにし、プルサーマル開始を優先した。
 また、名倉繁樹・安全審査課審査官は、貞観津波の東電試算を聞いたが、耐震バックチェックの中間報告で、東電が貞観津波に触れていないと再三摘摘する専門家の声を故意に封じ、野口哲男・元原子力発電安全審査課長と原昭吾・元原子力安全広報課長は、津波対策を取るベきと主張する部下に対し、「余計なことをするな」「クビになるよ」などと脅したとされる。
 告訴に参加を

 告訴団弁護団の河合弘之さんは、「今回東電と一緒になって津波対策を怠った旧保安院関係者を告訴できた。その中には現在も、原子力の安全規制担当者として、再稼働を精力的に進めている人もいる」と話した。
 告訴人の1人で、福島県富岡町(帰宅困難区域、居住制限区域、避難指示解除準備区域に指定から避難し、会津若松市の借り上げ住宅に住む古川好子さんは、「私たちは被害者と言われるが、肝心の加害者は『仕方ない』で済まされ、罰せられていない。これだけ証拠が出ているのだから、検察はきちんと捜査をしてほしい」と話す。同じく告訴人の武藤類子さんは、「被災地で暮らすだけでも大変で、私たちもクタクタになっています。でも原発事故被害者がどんどん忘れられている流れを止めるには、被害者が声を上げるしかないのです」と訴える。
 2015年告訴は、全国から告訴人を募集する。新たな告訴のため、2012年告訴で告訴人になった人もなれる。多くの人が原発事故の真相と費任者を明らかにするために参加してほしい。

2015年告訴の被告訴人(9人)

(1)酒井俊朗 東京電力の福島第1原発の津波対策に検討実施に当たっていた者
(2)高尾誠 同上
(3)西村某 同上
(4)森山善範 保安院原子力発電安全審査課長(2008年〜09年当時)、現在は日本原子力研究開発機構理事
(5)名倉繁樹 保安院原子力発電安全審査課審査官(当時)、原子力規制委員会安全審査官
(6)野口哲男 保安院原子力発電安全審査課長(当時)、ついで保安院主席統括安全審査官、(独)原子力安全基盤機構企画部長
(7)原昭吾 保安院原子力安全広報課長(当時)、ついで保安院関東東北産業保安監督部長、保安院原子力災害現地対策本部統括班
(8)名前不詳の原子力安全委員会の津波対策担当者
(9)名前不詳の電気事業連合会の津波対策担当者

福島原発告訴団の歩み

2012年8月 福島県民1324人が東京電力と東電役員、政府関係者、学者ら33人を公害罪と業務中過失至死傷罪で、福島地検に告訴・告発。その後合計1万4716人の告訴・告発に(2012年告訴)
2013年9月・告訴団団長・副団長3人が、東電と役員(当時)32人を公害罪で福島県警に告発(汚染水告訴)
・2012年告訴、東京地検に移送後に不起訴に
2013年10月 検察審査会に申し立て
2014年7月 東京第五検察審査会が、勝俣恒久元会長、武黒一郎・武藤栄元副社長に起訴相当、小森明夫元副社長に不起訴不当の議決
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