[2014_08_29_01]社説 日本海側の津波 国の推計踏まえた対応を(東奥日報2014年8月29日)
 日本海側で大規模地震が発生すれば、深浦町と中泊町の沿岸に最大17メートルを超える津波が押し寄せる。
 政府の調査検討会が、北海道から長崎まで10道府県沿岸を襲う恐れのある津波の高さの推計を初めてまとめ、公表した。県内では深浦町から東通村までの17市町村が対象となり、深浦町の17・4メートル、中泊町の17・3メートルは、北海道内5町村に次ぐ全国6、7番目の高さになるとされた。
 県海岸津波対策検討会が2013年1月にまとめた津波浸水予測では、深浦町が最大10・7メートル、中泊町が11・5メートルだったが、新たなデータや知見を加えた政府の推計は、それを大きく上回った。17メートルといえば、5階建てのビルの高さに相当する。地元で暮らす人たちにとって衝撃的な推計だが、危機感をあおることが本来の目的ではない。
 日本海側の地震メカニズムの解析は研究途上で、太平洋側に比べ遅れているとされる。政府の推計を踏まえて、県や市町村は地域の実情に即した対応を急がなければならない。
 政府の検討会は、海岸線から内陸に200メートル程度で標高8メートル以下の「平地部」の津波高も推計した。本県で高かったのは深浦町9・3メートル、中泊町8・1メートル、鯵ヶ沢町7・1メートルなどで、最大クラスの津波が発生すれば、内陸部にまで浸水が広がる可能性がある。
 また、地震発生から高さ30センチ超の津波が各市町村に到達するまでの最短時間も公表、深浦町2分、中泊町と鯵ヶ沢町15分などだった。日本海側は海岸に近い断層が多いのが特徴で、津波が沿岸に到達するまでの時間が短い傾向がある。
 30センチの津波であっても油断はできない。その程度の高さでも大人が立っていられなくなる恐れがあり、2メートルを超えると木造家屋が全壊するという。
 到達までわずか2分という推計に、深浦町では「そんな短時間で、どうやって逃げればいいのか」「避難場所までの経路は急なため、2分で要介護者や高齢者が移動するのは困難」といった困惑の声が相次ぐ。
 ただ、政府の検討会が公表した津波高や到達時間は市町村単位に限られ、最大津波が到達する地域や住宅地への浸水状況など、詳細な影響は分からない。
 県の検討会が昨年まとめた浸水予測は、政府の検討結果を受けて見直す暫定版との位置づけだった。あらためて検討し、年度内をめどに陸上の浸水域や浸水深を設定し直すことにしている。国が示した複数の断層の影響をそれぞれシミュレーションし重ね合わせることになれば、浸水域が拡大する可能性がある。
 東日本大震災に伴う津波被害は記憶に新しいが、日本海側に関しては、1983年の日本海中部地震から30年以上、93年の北海道南西沖地震からも20年以上が既に経過した。
 災害の記憶や防災意識は長い年月を経て薄れがちだが、白然災害はいつ再び起こるか分からない。だからこそ、迅速で周到な備えが求められる。
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