[2014_04_12_02]【社説】原発回帰の危険な道 新エネルギー基本計画(東京新聞2014年4月12日) |
新しい国のエネルギー基本計画は、福島の事故はもう忘れ、原発を使い続けようという宣言なのか。国の指針として、危険な道を示すべきではない。 やっぱり原発回帰である。 国のエネルギー基本計画は、原案通り、原発を、基本的な電力供給源の役割を担う「ベースロード電源」と位置付け、使用済み核燃料を再利用する核燃料サイクルを維持する方針を打ち出した。 安倍政権は、原子力規制委員会が審査を終えた原発の再稼働を急ぐ方針だ。“神話”も、3・11もなかったかのように、である。 ◆万に一つも許されない 万一の原発事故に備えた各地の避難計画づくりが遅れているという。二度目はない。万に一つもあってはならない−。それが福島第一原発事故の手痛い教訓だったはずである。だとすれば、なぜ避難計画が必要なのか。 福島の事故処理にかかる費用は、すでに十四兆円に膨れ上がったという試算もある。 トラブル続出の高速増殖原型炉「もんじゅ」福井県敦賀市さえ、実験施設として残す。すべてが原発回帰のための計画なのだ。 原発は、決して安定的な電力供給源ではないし、安くもない。 省エネ、そして風力や太陽光など再生可能エネルギーを増やすことにより、原発依存度を可能な限り低減させるという。 だが、電源の構成比は結局明記せず、「二〇三〇年に約二割」とするその導入目標は、本文ではなく脚注に追いやった。実行する必要のない、ただの参考数値ということだ。 世界には、再生可能エネルギーの風が、文字どおり吹いている。 ドイツでは、二〇五〇年に80%を目指す。スペインや米国、中国も、再生可能エネルギー大国だ。 風力や太陽光はまさに風任せ、お日さま任せで、出力が安定しないとされる。そうでもない。どこかで必ず風は吹き、太陽は照っている。欧州では、お互いの需要に合わせ、電力を補い合う関係をすでに築いている。 日本では、3・11からちょうど三年のその日、地産地消の発電を目指す市民グループや消費者団体などが集まって、「全国ご当地エネルギー協会」を六月までに発足させると申し合わせた。 もちろん規模は比ぶべくもない。それでも「もう一つの電事連電力会社の集まり、電気事業連合会」を目指すという。 ◆雇用の維持と創造は 私たちは長い間、電気は、大手電力会社にしかつくれない、供給できないという思い込みにとらわれてきたようだ。そのせいで、地方に巨大な原子炉を設置して、大量の電気を都会へ送り込むというシステムを、培ってきたのではなかったか。 日本は再生可能エネルギーの宝庫である。北は風、南は地熱や太陽光に向いている。水力も豊富にある。長い海岸線を持つ島国の特性として、海に浮かべる洋上風力発電の潜在力も極めて高い。 再生可能エネルギーは、地域の可能性である。原発維持は、その可能性を潰つぶしかねない。 「もう一つの電事連」の「もう一つの目標」は、電力の地産地消を進めて地域でお金を回し、雇用を生み出すことだという。 立地地域の人々は長い間、原発事故の恐怖と隣り合わせに暮らしてきた。脱原発だからといって、その人たちの暮らしを奪ってはならない。これからの産業、そして雇用が必要なのだ。 新たな基本計画は、「ポスト原発の時代」を語っていない。今現在の責任を散々強調しておきながら、未来に無責任なのである。 原発の寿命は法律上は四十年。老朽化とともに資産価値は目減りする。地方税収も、次第にダウンする。 当面は、蓄積した技術を生かし、廃炉ビジネスで雇用を拓ひらく道がある。だが、本当に必要なのはその次なのだ。既存の送電網を生かした自然エネルギーによる発電も、地方に雇用を生み出す有力な産業の一つに違いない。 ◆新しいネットワークへ 福井では、原発の跡地を液化天然ガスLNGの供給基地にする構想が浮かんでいる。北海道と本州を結ぶ送電網の拡充も必要になるだろう。十電力会社の寡占から、融通のネットワークに踏み出すことが、再生可能エネルギー普及のかぎになる。 大手電力会社も含め、いつまでに、どこに、どんな発電所を配置して、どのようなネットワークを築くのか−。原発立地地域の雇用の維持と創出を常に視野に入れながら、もう一つの基本計画を、政府は提示すべきである。 それはそのまま、脱原発依存社会の未来図にもなるはずだ。後戻りしてはいけない。 |
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