[2014_03_15_04]川内原発を安全審査刷新の証しにせよ日経新聞社説 (日経新聞2014年3月15日)
 

川内原発を安全審査刷新の証しにせよ日経新聞社説

 原子力規制委員会が九州電力の川内原子力発電所鹿児島県の安全審査を優先的に進めることを決めた。後に続く原発の模範とすべく、適切で納得のゆく手順に沿って再稼働につなげるよう九電や政府、立地自治体に求めたい。
 再稼働を急ぐあまり安全確認がおろそかになってはいけない。ただ再稼働が遅くなるほど、電力会社の経営が苦しくなり電気料金の再値上げにつながるのも事実だ。ここで景気の回復基調に冷水をかける事態は望ましくない。
 昨年7月の審査申請からすでに8カ月たった。「少なくとも半年かかる」と田中俊一原子力規制委員長は当初述べていたが、遅れは否めない。優先審査を受けない原発はさらに審査が長引く。
 福島事故の教訓を取り込んだ新規制基準による審査は規制側も事業者も初めてだ。規制庁は少ない陣容で17基を審査している。その労は多とするが、より合理的で円滑な運営ができるはずだ。適否を左右する重要課題の判断が後回しにされて土壇場で浮上し、結果的に審査が長引く印象を与えている。改善を求めたい。残る15基の審査も着実に進めてほしい。
 規制委は最終判断の前に公聴会を開くという。立地地域の意見には常時、耳を傾けるべきだ。審査がほぼ終わった段階では、規制委は自らの科学的、技術的な見識に基づき判断を下すのが適切だ。
 政府には再稼働への道筋が今のままでよいのか問いたい。福島事故の重要な教訓は原子力防災対策の不備にあった。原発周辺地域の避難計画や防災体制は実効性を伴っているのだろうか。それをだれが確認するのか。
 米国では原発施設の安全は原子力規制委員会NRCが判断し、避難計画は連邦緊急事態管理局FEMAが実効性をチェックするという。参考にすべきだ。
 最初から完璧な計画はできないだろう。しかし少なくとも防災の専門家が吟味し、地域住民が納得できる計画なしで再稼働に踏み切ったのでは、福島事故の教訓に学んでいないと批判されても反論できまい。政府や電力会社こそ避難や防災に関する公聴会を責任を持って開く責任がある。
 川内原発を、原子炉の安全のみならず防災を含めたあらゆる点で再稼働の模範例とし、日本の原子力政策が変わったことの証しとすべきだ。目前の再稼働を焦り長期的な展望を見失ってはならない。

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