[2013_11_01_02]【第5部 汚染水の行方】(4)タンクの不安 溶接型への変更 急務(福島民報2013年11月1日)
 
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【第5部 汚染水の行方】(4)タンクの不安 溶接型への変更 急務

 「東電は耐久期間を五年としているが、関係した業者から二年しかもたないとの話を聞いた。こんなタンクで対応できるのか」
 8月19日に東京電力福島第一原発の地上タンクから約300トンの汚染水漏れが発覚してから四日後の23日。国会内で開かれた民主党の汚染水対策本部で、本部長代行の増子輝彦(参院本県選挙区)は、出席した東電の担当者に厳しい口調で詰め寄った。「作り替えて新しいものにしていくことも含め検討する必要がある」。増子の問いに東電側は答えに窮した。
 「汚染水用のタンクの部材を三カ月で50基分、加工してほしい」。今年六月ごろ、増子が指摘した業者に、別の業者から下請けの依頼が舞い込んだ。だが、業者は喜んで引き受けるわけにはいかなかった。
 設計図に描かれていたのは鋼鉄製の部材の接合部にパッキンを挟み、ボルトで締める「フランジ型」と呼ばれるタンクだった。直径は約12メートル、高さは約11メートル。業者の工場の広さと人員で部材を加工できるのは一カ月に一基が限度。しかも、発注額は相場の半分程度だった。「うちじゃ無理ですよ」。そう言うと、発注額が一気に数百万円も上乗せされた。通常ではあり得ない反応だった。
 そもそも根本的な疑問もあった。「放射性物質を含んだ汚染水を入れるのに、どうして溶接型ではなく、漏れやすいフランジ型を使うのか」。業者が依頼を断ってから約二カ月後、懸念は現実となった。

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 なぜフランジ型にしたのか−。東電は、一日400トンのペースで増える汚染水に対応するためだったと説明する。溶接型タンクが製造から設置まで六カ月かかるのに対し、フランジ型は半分の三カ月で済むからだ。
 接合部に使用されているパッキンのメーカー推奨耐用年数は五年。東電は「接合部を点検・補修することで長期間、適切に使用できる」と踏んでいた。
 「原子力の人間から見て、はっきり言ってフランジ型タンクには違和感がある。ろ過水タンクにしても何にしても原発は溶接型が当たり前だから」。第一原発所長の小野明(54)のフランジ型タンクに対する印象だった。一方で、実際に見ると、「ちゃんと作ってあるじゃないか」とも思った。
 小野は原子力に精通したプロだ。事故直後の混乱期に、溶接型タンクを作る時間が無かったことはよく覚えている。ただ、フランジ型タンクの建設当初から「接合部があるから経年劣化するだろうし、補修も必要になるだろう。きちんと作らないといけない」と考えていた。
 しかし、下請けの依頼を断った業者は「五年もつ丈夫なパッキンを使える金額じゃなかった」と振り返る。東電はタンク製造に掛かる契約額を明らかにしておらず、十分な耐久性が確保できる予算を投入したのかは不明だ。業者は「何重にも下請けに出され、うちのような現場に下りてくるころには、予算がかなり目減りしてしまうということはあり得る」と推測した。

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 東電は今後、設置するタンクを溶接型に切り替え、フランジ型タンクから移送するための計画策定を急いでいる。今なお汚染水は一日400トンペースで増えており、その分のタンクも確保する必要がある。
 間もなく冬が訪れる。業者はこれからの季節が極めて気掛かりだという。「パッキンはゴムなので、寒くなれば縮む。さらにフランジ型タンクから漏えいが起きても不思議ではない」

(文中敬称略)

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