[2013_12_03_03]遺跡からの警告 3000年前の浜名湖大津波 秘密兵器で住宅調査(東奥日報2013年12月3日)
 大津波がみるみる砂州を乗り越え、浜名湖(浜松市)へ流れ込む。湖底を激しく削りながら、湖の奥へ。押し波と引き波が2度繰り返し、海とつながっていた湖口が大量の土砂で埋まる。閉塞(へいそく)した湖はその後、徐々に淡水化していったー。
 産業技術総合研究所の藤原治主任研究員(地質学)は2009年、浜名湖東岸で約3400年前(縄文時代晩期)の津波堆積物を見つけ、砂の成分や粒度、水流の向きを示す堆積構造、生物化石を丹念に観察。津波に襲われた湖の状況を再現し、学界を驚かせた。
 05年から静岡、三重県で300カ所以上を調査。「地層からは津波の有無だけでなく、津波による土砂の移動、地形変化、環境への影響も知ることができる」という。
 浜名湖を激変させた大津波は、どこから来たのか。手がかりは、約80キロ東の静岡市にあった。
 北村晃寿静岡大教授(古環境学)が12年、静岡平野で約4千年前と3500年前、さらに東の清水平野で約9千年前、5600年前、4300年前、3400年前など6層の津波堆積物を新たに発見した。
 「遡上(そじょう)範囲から、静岡平野では約3500年前の津波が過去6千年間で最大。浜名湖や清水平野と年代が近く、同じ津波ではないかと北村教授。津波が広範囲に及ぶことから、東海地震の可能性が高くなった。
 内閣府が12年に発表した南海トラフで最大級の地震の被害想定で、県別死者数が約11万人と最多の静岡県。過去の地震や津波に関心が高まる中、四国や紀伊半島に比べて沿岸部の開発が進み、調査の適地が少ないのが悩みの種だった。
 藤原さんに、住宅密集地の調査を可能にする「秘密兵器」ができたと聞いて今年3月、静岡県磐田市の現場を訪ねた。
 ダッ、ダダッ。水を抜いた田んぼに、リズミカルな音が響く。作業員がドリルのような小型機械で、直径9センチ、長さlメートルのパイプを地面に打ち込んでいた。引き上げて二つに割ると、パームクーヘンのようなしま模様の地層が現れる。
 「日本で一番小さいボーリング装置です。縦60センチ、横90センチの面積を確保できれば、深さ10メートルの地層を抜き取ることができる。1メートルで約千年分。狭い路地でも、数千年分の調査が可能です」
 調査は海岸から陸へ一直線に、何カ所も行う。砂層が海側で厚く、陸側は薄いなら津波、逆なら洪水と判断し砂粒が見えなくなるまで続け、津波の遡上範囲を推計する。
 「地層には千年、万年分の津波が記録されている。まずは一つ一つ、年代や規模を調べたい」と藤原さん。小型ボーリング装置が、機動力を発揮しつつある。
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