[2012_02_16_03]3.11大震災 青森考 フクシマの教訓 第6部 断層問題5 安全委の追加調査困難 予算乏しく事業者頼み (東奥日報2012年2月16日)
 
 「電力事業者の断層の過小評価を、国が見逃してきた事例があった」。電源開発大間原発周辺や東北電力東通原発の敷地内に「未知の活断層が存在する」と主張している広島大学の中田高・名誉教授(変動地形学)はこう指摘する。
 例に挙げたのは中国電力島根原発。中電は同原発の建設に際して、周辺に安全上考慮すべき活断層は「ない」とし、国もそれを了承だが、稼働後になって活断層の存在が判明。調査が進むにつれ、認定された断層の長さは8キロ、10キロ、22キロと延びていった。
 過小評価が見落とされた背景には何があったのか。
 自身も原子力安全委員会で審査の手引きを策定する検討委に加わった経験がある中田名誉教授は「事業者が全ての調査資料を出し、原子力安全・保安院がそれを基に審査用の資料を書く。審査ではそれが通る。しかも、以前ミスをした(過小評価を見逃した)人間に、続けて審査を任せたりしている」と、審査体制の在り方そのものを疑問視する。

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 国は、東日本大震災の直前まで、東通原発と日本原燃六ヶ所再処理工場について、耐震安全性などを見直す作業を続けていた。原子力安全委のワーキンググループ(WG)をとりまとめた首都大学東京の山崎晴雄教授(地震地質学)は「事業者の言い分を修正しているところもある」としつつ、一方で「事業者は、資金力も、データを収集する力もわれわれと違う」と吐露した。
 同WGの上部組織で委員長を務める愛知工業大学の入倉孝次郎客員教授(強震動地震学)も「原子力安全委の調査機能はあまりにお粗末だった」と、自省を込めて振り返る。
 原子力安全委は調査の予算がなく、審査内容に疑問があっても独自の追加調査は困難。事業者に調査を求めるだけだったという。
 「文書に『追加調査が必要』と書いても、結局空手形になる。中立性を確保するためにも、国として、独自調査の予算や体制が必要だ」と入倉客員教授。原子力安全委の再編が間近に迫った今、何らかの「遺言」を残すーと、指針の見直し作業を進めている。

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 東京電力福島第1原発事故が起き、国の審査体制に対して、国民からこれまで以上に厳しい日が向けられている。原子力施設の安全性は本当に保証されているのか−。県民の問にも不安感が漂う。
 例えば、県内の各原子力施設が想定する基準地震動は、国内の施設で最も低い450ガル。東北電力や日本原燃などはこれまで現時点で見直す考えはない。国の指示があれば従いたい」と説明。同時に、基準地震動を上回る揺れにも余裕を持って耐えることができるよう、施設や設備の耐震化工事を行ってきた。
 全国を見渡すと、2007年7月に発生した新潟県中越沖地震では、東京電力柏崎刈羽原発3号機で、想定の2・5倍となる揺れを観測。同原発の1〜4号機の基準地震動は、最終的に2300ガルまで引き上げられた経緯がある。
 入倉客員教授は「青森県の施設は想定が低すぎる」と言い切る。特に、六ヶ所再処理工場は「付近に明確な活断層がなく、(記録が残っている範囲で)海溝型地震が起こっていないからといって、450ガルで良いとは言えない」と見直しの必要性を示唆。「リスクを評価し、住民の不安を取り除く努力をしなければならない」と提言した。
 (本紙取材班)

 基準地震動

 原発を設計する際に想定した、敷地周辺での地震による最大の揺れの強さ。周辺の活断層や過去の地震、地盤の状態などから見積もる。一般的に、地下の岩盤上での最大加速度(単位はガル)で表す。原子力安全委員会の耐震指針は、原子炉、配管など重要な建物や設備がこの地震動に耐え、安全を確保するよう求めている。
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