[2012_02_11_01]3.11大震災 青森考 フクシマの教訓 第6部 断層問題2 たわみか 3面の段丘か 六ヶ所めぐり意見衝突 (東奥日報2012年2月11日)
 
 日本原燃六ヶ所再処理工場直下に活断層が存在する可能性−。2008年5月25日の本紙朝刊が1面トップで報じた記事が、下北半島一円の地震と原子力施設の安全性をめぐる議論の発火点となった。
 指摘したのは、変動地形学を専門とする東洋大学・渡辺満久教授らのグループ。渡辺教授は、施設周辺にある約12万〜13万年前に形成された海岸段丘面(海辺の階段状の地形)に着目し「本来は平たんなはずの段丘面に撓曲(とうきょく=たわみ)がある」「施設建設に際して原燃が実施した地下探査のデータにも、たわみと符合する地層の傾きが確認できる」と主張した。
 今年1月、自身の研究室で取材に応じた渡辺教授は「このたわみは、地盤が両側から強く押されて面的に壊れ、一方の地盤がずりあがった『逆断層』の典型的な痕跡だ」と分析。施設直下に逆断層が存在し、十数万年の間に、数十回にわたって地震を起こし、再処理工場一帯の地盤をたわむように持ち上げたと結論づけた。
 下北半島の沖合には、「大陸棚外縁断層」が存在し、マグニチュード(M)8クラスの巨大地震を引き起こす可能性があると指摘する研究者もいる。渡辺教授らは、施設直下の活断層が大陸棚外縁断層に続いているとも分析し、施設の耐震性が不十分だと警鐘を鳴らしている。

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 こうした主張に対し、原燃は真っ向から反論した。「一層の地形は、一つの段丘面がたわんだのではない。ほぼ同じ時代にできた三つの別々の段丘面が、ひと続きでたわんでいるように疑えるだけだ」。時代を識別する手がかりになる「洞爺火山灰が降り積もった状況がそれぞれの段丘面で異なっていることから、「一体となって形成された段丘面とは考えられない」というのが、主な理由だ。
 施設直下の地層の傾きについても、約530万年前にできた地層がその後の地殻変動などで変形した「向斜構造」だと説明し、最近の断層活動を否定する。
 原燃の齋藤英明理事・土木建築部長は強調する。「渡辺説によれば、数千年に1回、大地震に伴い数メートルの隆起が重なって大きな段差ができる。しかし、液状化など大地震の痕跡はいくら調べてもない」。大陸棚外縁断層についても、少なくともここ20万〜30万年は活動していない、とした。
 ただ、原燃が主張する三つの段丘面が形成されたメカニズムはいまだ解明されておらず、渡辺教授は「原燃はメカニズムを十分に説明もせず、活断層や地震とは関係ないと言う。何も調査していない」と批判する。

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 経済産業相の諮問機関・総合資源エネルギー調査会は、変動地形学の専門家も交えて審議を重ねたが、09年になって原燃側の調査結果を容認した。だが、渡辺教授らを招いて議論する場面は一度もなかった。
 施設直下の活断層をめぐる議論は、青森地裁で続く核燃料サイクル訴訟に場を移す形で今なお進行中だ。
 渡辺教授は、原発自体には反対しないと明言した上で、国や事業者の姿勢を強く批判する。「原燃の説明は不十分であることは明らかなのに、国は最初から事業者の言い分を信じている。私たち変動地形学の分野でこのような評価が通ってしまうのでは、たまったものではない。これで国民の財産や生命が守れるのか」 渡辺教授らの視線は、さらに再処理工場以外の県内施設にも注がれていく。
(本紙取材班)
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