[2011_08_31_01]3.11大震災 青森考 フクシマの教訓 第3部 津波に耐えた原発上女川 自然への畏怖 敷地高く コストより安全対策重視(東奥日報2011年8月31日)
 「津波をかなり意識し(て原発を建設し)たのは事実。敷地の高さを決めてくれた先輩たちに本当に感謝している。技術的なこともあるが、自然に対する畏怖の念があったということではないか」 東日本大震災に伴う約13メートルの津波に耐え、原子炉3基を無事に停止させた東北電力女川原発(宮城県女川町・石巻市)の渡部孝男所長はこう話す。
 東京電力福島第1原発が津波被害で過酷事故を引き起こした一方で、女川原発は震源に最も近かったにもかかわらず被害を免れた。明暗を分けた一番の理由は原発が立地する敷地の高さだ。女川原発は標高14・8メートル(震災で地盤沈下し13・8メートルに)に原子炉建屋、海水ポンプなどの主要設備を配置していた。福島第1原発の敷地は10メートル。海水ポンプはさらに低い4〜5メートル地点に設置していたのとは大きな違いだ。
  
 三陸沿岸は多くの津波被害に見舞われてきた歴史がある。東北電力は、女川周辺では慶長津波(1611年、マグニチュード8・1)が6〜8メートルで最も影響が大きかったと分析。最大9・1メートルの津波を想定した上で、海沿いに斜面を設け14・8メートルの高さに整地した。
 「われわれの大先輩にあたる当時の副社長が『敷地の高さは約15メートルにすべきだ』と主張し、その意見が社内で通ったと聞いている」と渡部所長。女川原発は1979年の着工。着工に先立つ68年には外部専門家で構成する「海岸施設研究委員会」(委員長・本間仁東洋大学教授)を社内に設置し、大津波で発電所にどれだけ影響があるかを検証した記録が社内に残っている。
 原発は大量の冷却水を海から引き込む必要がある。使用済み核燃料入り容器や廃棄物入りドラム缶など重量がある荷物は船で運び出すことが多い。原発を高台に立地することは取水や運搬作業を困難にし、コスト増につながるが、同社はあえて高台を選択した。
 今回の津波でl〜3号機のうち、2号機の非常用発電機の一部が浸水のため起動しなかったが、1号機、3号機の非常用発電機はすべて無事だった。外部電源5回線のうち1回線は地震後も送電が続き、原子炉を冷温停止させることができた。
  
 女川原発建設に参加した原子炉メーカー東芝の元プロジュクトマネージャー、小川博巳氏(72)によると、同原発の津波対策は敷地の高さだけではない。@リアス式海岸特有の波高のかさ上げ防止のため、外海に開かれた立地点を選定A冠水を防ぐため海水ポンプ室を原子炉建屋と同じ高さの陸地寄りに設置B引き波時にも非常用冷却水を確保できるよう取水路の底を深く掘削−などの工夫をした。
 小川氏は「東北電力は三陸沿岸での津波の被災記録を重く受け止め(想定)津波の高さを極めて安全サイドに評価した。女川原発が今回の未曽有の事態に耐えたのは、設計・建設段階での津波に対する配慮と耐震設計見直しによる補強工事がもたらした成果ではないか」と評価している。

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 福島第l原発と同様に津波の来襲を受けながら、原子炉を無事に停止させた原発がある。連載第3部は、明暗を分けたのは何だったのか、津波・地震対策は可能なのかを考える。  (福田悟)
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