[2011_07_30_01]たんぽぽ舎 今月の原発 原子力損害賠償法に上限 東電は免責になるのか 東電を破綻処理せよ 発送電分離は東電から(たんぽぽ舎2011年7月30日)
 東電は免責になるのか?

 「原子力損害賠償支援機構法案」という名の東電救済法案が国会に上程された。このような恐ろしい法案は早々に廃案にすべきだ。
 このような法案を作った背景には、原子力損害賠償法免責条項の適用を主張しない代わりに賠償責任を負うとした東電のしたたかな戦略があると思われる。
 東電の勝俣会長は、株主総会において今回の原発震災は、原子力損害賠償法の第三条ただし書きにある「その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によって生じたものであるとき」は免責に当たるとする条文を盾に、「東電も免責になると考えられる」などと答弁した。これを適用されれば、被災者を救済できないから、敢えてこの条文適用を主張せず、被災者に補償をすると言い出した。しかしこれは全<の間違いである。そもそも東電は免責になどならない。
 異常に巨大な天災地変とは、少なくても福島第一原発を襲った津波や地震動そのものが「異常な」ものでなければならない。地震そのものがどんなに大きかろうと、あるいは人類史上最大の津波が発生した地震であろうと、それに直接遭遇し被災しない限りは「異常な天変地変」に遭遇したなどと言えない。しかるに、東電は単に東北地方太平洋沖地震のエネルギーがマグニチュード9であるから、免責に当たるなどと言い出した。全くのデタラメである。
 原倍法の立法段階で、免責についてどのように考えられていたか、参考となる文献がある。ジュリスト190号の加藤一郎「原子力災害補償立法上の問題点」である。
 少し長いが引用する。

 (2)免責事由
 「一般理論からすれば、不可抗力が一般的な免責事由になる。不可抗力としては、戦闘行為(たとえば爆撃)地震、風水害などが考えられるが、その内容は必ずしも明確でない。地震の例をとれば、
 第一に、一般に起りうる程度の地震で原子炉が破壊されたとすれば、それは不可抗力ではなく、はじめからの設計や管理に瑕疵があったことになり、現行法の下でも責任が生じうるであろう。その場合に、どの程度の地震が一般に起りうるものと考えてよいかという基準の問題が起るが、原子炉では、ひとたび事故が起れば大災害の生ずるおそれがあるから、少なくともわが国でわれわれの経験した最大の地震にも堪えうるようになっていなければいけないし、さらに、それに相当の余裕を見て科学的に予想しうる最大の地震にも堪えうるようにしておくべきであろう。このように同じく不可抗力といっても、原子炉のように危険性が大き<なれば、その範囲を狭めて考えていくのが合理的だと思われる。
 第二に、それでも、われわれの予想をこえるような大地震が起きれば、それはいちおう不可抗力といわざるをえない。それも、そもそもそういう危険のある施設を作ったために被害が起ったのだから、設置者が責任を負うべきだという絶対的な無過失責任も立法論として考えられるが、因果関係の点からいえぽ、その場合には、施設の設置と損害の発生との間の因果関係が不可抗力によって中断されているとも見られるから、少なくとも一般理論からすれば責任を認めることは困難であろう。」
 では、東日本太平洋沖地震は「我々の経験した最も大きな地震を超えたか」が問題である。先に述べたように、地震のエネルギー自体は問題ではない。海溝地震である以上、震源は海の下。最も強大なエネルギーは海底に生じた。その結果巨大な津波は発生したが、最も高い波が襲ったのは宮城県であり、福島ではない。福島第一原発を襲った津波の波高は東電自身が13m程度と見なしており、最大級の宮古における波高の半分程度だ。また、地震動は600ガルであり、これは福島第ー原発が見直された耐震設計審査指針こ基づき自ら設定した基準地震動とほぼ同じである。
 津波も地震も、およそ常識的な範囲であり、とても「我々の経験した最も大きな」ものなどではない。第−、これよりももっと大きな揺れにより被災した柏崎刈羽原発(中越沖地震)では炉心溶融は起きていない。さらにもっと高い津波に襲われた女川原発でも炉心は破壊されていない。何処をとっても「免責」になどなるわけがない。

 東電を破綻処理せよ

 福島第一原発が炉心溶融を起こした最大の理由は、地震と津波への備えがそもそもなっていなかったからだ。地震に遭遇した段階で、既に外部電源を全て失った。送電線が全て遮断され、以後10日間も復旧しなかった。さらに非常用ディーゼル発電機はタービン建屋の地下にあり、津波の浸水で壊滅した。この津波、13mもあったから電源が破壊されたというわけではない。敷地標高はわずか10m、つまりこれを超える津波が侵入したら持たなかったのだから、10mだろうと13mだろうと何ら違いは無い。また、確率的安全性評価においては、既に明確に示されていたことだが、敷地内にある海水ポンプが冠水したら、もはや原子炉を冷やすことは出来な<なる。これは津波波高わずか6mで達してしまう。
 福島第一原発はそもそも6m程度の津波で破壊される原発だった。
 設置許可申請書には、想定する津波高を「3.1m」としている。もともと3m程度の津波しか対策していなかった。それを2002年に過酷事故対策の−環として行われた土木学会の再調査において、津波波高を「5.7m」と修正したが、それに対して設備の対策はなぜか海水ポンプをわずか「20センチ」かさ上げしただけであった。これでは何もしないに等しい。つまり、もともと3mにしか耐えられない設備を作っておきながら、それをある日突然「5.7m」に耐えられると机上の空論を書き上げたということになる。
 そのうえ地震動についてももともと300ガル程度の揺れしか想定せずに作った原発を「600ガルの基準地震動にも耐えられる」という評価結果をでっちあげていたが、その化けの皮がはがれ、実際に600ガルに襲われて、もろくも崩壊していった。
 東電のデータ偽造、ねつ造事件は2002年に大きな問題になり、全原発停止に至ったのだが、同時にこのような「偽装」をしていたことは保安院から指摘されなかったため、放置された結果が最悪の原発震災であった。
 これは重過失以外の何物でも無い。東電を破綻処理し、解体後に新しい体制に作り替えなければ、また繰り返されるだけだ。

 発送電分離は東電から

 東電を解体し、必要な資産売却を行えば、10兆円程度の補償は可能になる。特に送電施設などは大きな試算価値があり、少なくても関東一円に電力を供給する事業つまり送電事業は何ら打撃を受けているわけではない。
 発送電分離をした後に、原発は破綻処理会社に移行し、火力などの発電設備を持つ発電会社を別に作り、送電会社との間で通常の売買契約を結べば良い。損害賠償は破綻企業が東電の資産を売却した資金をもとに引き継ぐ。発送電会社や発電会社は資産を取得する際に生ずる負債を債券化して売り出せば良い。もともと損失など出ない会社だったのだから、そのうえ原発を切り離しているのだから、債権が売れないはずはない。発送電会社が適切な価格で自然エネルギーからの買い取りを行うよう、この社債は政府が条件を付けて引き受ければ良い。
 原賠法に上限を設けるなどと言う愚かなことを自民党や民主党は考え出したらしいが、それをさせてはならない。いまですら賠償を値切ることを平気で始めている東電がそのまま温存されたうえに原賠法に上限が出来るようなことになれば、以後、原子力災害は際限なく繰り返されるだけだ。
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