[2007_08_23_01]原子力発電所の制御棒脱落事故隠蔽問題に関する意見書(日本弁護士連合会2007年8月23日)
 
参照元
原子力発電所の制御棒脱落事故隠蔽問題に関する意見書

 04:00
     原子力発電所の制御棒脱落事故隠蔽問題に関する意見書
                    2007年8月23日
                    日本弁護士連合会

第1 意見の趣旨

 1 国及び電力会社は、原子力発電所の制御棒脱落事故について、構造的欠陥の有無の検討を含め真の原因を究明し、このような事故の再発防止を期すべきである。

 2 国は、隠蔽行為をした電力会社には、その重大性に応じ、原子力発電所の設置許可取消を含めた厳正な処分をして、監督責任を果すべきである。

 3 原子力安全規制機関は、原子力推進官庁から独立した機関とし、かつ、安全規制を実効あらしめるための人員面と予算面の措置を講ずるべきである。

第2 意見の理由

1 事故の発覚に至る経過

 北陸電力は、2007年3月15日、志賀原発1号機において1999年6月18日に制御棒5本が抜け、臨界事故が発生していたことを公表した。

 2007年3月19日には、中部電力浜岡3号機において「1991年5月31日に3本」、東北電力女川1号機において「1988年7月9日に2本」の制御棒の引き抜け事故が発生していたことが公表された。

 続いて、3月22日には東京電力が「1978年11月2日に福島第一原発3号機において制御棒5本が脱落し、7時間半も臨界状態が続いていた」と推定されることを公表した。

 その後も、類似の事故が「1979年2月12日 東京電力福島第一原発5号機で1本」、「1980年9月10日 東京電力福島第一原発2号機で1本」、「1993年6月15日 東京電力福島第二原発3号機で2本」、「2000年4月7日 東京電力柏崎刈羽原発1号機で2本」と相次いでいたことが次々に明らかになってきた。

 3月30日には、東京電力福島第一原発4号機で、1998年の定期検査中、原子炉の核分裂を抑える制御棒34本が一気に15センチほど抜ける事故が発生していたことが明らかになった。臨界には至らなかったとされるが、大量の制御棒が一挙に脱落することは、極めて重大な事態である。

制御棒の引き抜け・誤挿入事案を一覧表にすると以下のとおりである。

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番号 年 月   号 機  引き抜け/誤挿入
----------------------------------------------
1 1978年11月 福島第一3号機 引き抜け5本・臨界事故
2 1979年02月 福島第一5号機 引き抜け1本
3 1980年09月 福島第一2号機 引き抜け1本
4 1988年07月 女川1号機 引き抜け2本
5 1991年05月 浜岡3号機 引き抜け3本
6 1991年11月 福島第一2号機 誤挿入 5本
7 1992年04月 浜岡1号機 誤挿入1本
8 1993年04月 女川1号機 誤挿入1本
9 1993年06月 福島第二3号機 引き抜け2本
10 1994年11月 浜岡2号機 誤挿入1本
11 1996年06月 柏崎刈羽6号機 引き抜け4本
12 1996年10月 浜岡3号機 誤挿入1本
13 1998年04月 福島第一4号機 引き抜け34本
14 1999年06月 志賀1号機 引き抜け3本・臨界事故
15 2000年04月 柏崎刈羽1号機 引き抜け2本
16 2000年12月 浜岡1号機 誤挿入2本
17 2003年03月 女川3号機 誤挿入5本
18 2005年04月 柏崎刈羽3号機 誤挿入17本
19 2005年05月 福島第一2号機 誤挿入8本
20 2006年05月 柏崎刈羽3号機 引き抜け1本
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 電力会社と国は「故障しても安全側(制御棒が挿入される側)に働くから問題ない」、「制御棒は1本ずつしか動かせない仕組みになっている」、「誤って制御棒を引き抜こうとしてもできないインターロックシステムになっている」などと説明し、安全審査における制御棒の複数本の同時引き抜きは想定外として、1本だけの引き抜きを想定し、安全設計を講じてきた。

 今回明らかになった事態は、原子力発電の安全確保の上で起きてはならない制御棒の複数同時脱落が、確認されているだけで7回も発生し、うち2回は現実に臨界に達し、志賀原発1号機では即発臨界に達していた可能性があり、また東京電力福島第一原発3号機の場合には、7時間半も臨界を止められないという深刻な事態が生じていたことである。

 このような事態は安全審査のあり方に重大な問題があったことを示している。また、福島第一原発4号機の34本の制御棒同時脱落は、原子炉の暴走にもつながる危険性を内包した事故であり、事態は極めて重大である。

 さらに、これらの極めて重大な事故が完全に隠蔽され、したがって根本的な安全対策を取られることもなくこれまで放置されてきたことは、原発の安全規制システムの欠陥を示すものとして極めて重要である。電力会社は、小さなトラブルも情報を共有化し、その対策をとって安全性を日々向上させていると説明してきた。しかし、そのような説明は全く事実に反するものであった。

2.事故の重大性

(1)この事故により、制御棒を挿入して原子炉を止めるという、原子炉の安全確保において最も基本となるシステムに問題があり、多重防護に重大な欠陥があることが明らかになった。

 特に、志賀原発1号機での事故は、即発臨界に至り急激な出力上昇が起きていた可能性が大きいことが明らかとなった。日本原子力技術協会の解析によれば、制御棒が抜けた速度などを厳しく見積もった場合、臨界到達から約6秒後に即発臨界が生じ、その時出力は瞬間的に約23万キロワット(長時間かけて徐々に出力を上げる通常運転時の出力の14%)に達したとの結果が出たのである。

 制御棒がさらに脱落していたり、より中心部の制御棒が脱落していたりすれば、大事故に至った可能性が高い事故なのである。

(2)核分裂で生じる中性子には、核分裂直後に飛び出してくる「即発中性子」と、分裂核(死の灰)から一定の時間をおいてようやく飛び出してくる「遅発中性子」とがある。「即発中性子」だけで臨界が維持される即発臨界では、ごく短時間のうちに出力が急激に増加し、スクラム(原子炉の緊急自動停止)が働いていても到底間に合わない反応度事故(いわゆる暴走事故)に至る可能性が大きくなる。

 このような「暴走」状態が「即発臨界」であり、即発臨界はチェルノブイリ事故でも起き、暴走の結果、圧力管の破裂から放射性物質を含んだ冷却水が噴出し、また炉心の溶融も生じたのである。

 要するに、即発臨界では、制御棒の挿入などの操作が間に合わないままに臨界を越えて中性子は増え続け、ついには暴走に至るのであって、これは絶対に避けなければならない状態である。

(3)本件事故の原因・メカニズムからすれば、制御棒が同時に3本以上脱落したり、より中心部の制御棒価値の高い制御棒が脱落したりした可能性も十分にあったのである。

 現に、志賀原発1号機事故の公表をきっかけに、BWR(沸騰水型原発)を持つ他社でも同様な制御棒脱落事故が10件も起こっていたことが、上記のとおり次々明らかになった。

 それらの事故の中には、志賀原発より多い5本の制御棒が脱落し、運転員が臨界に気付かず、7時間半にわたり臨界状態が続いた東京電力福島第一3号機の例や、制御棒3本が抜けたがうち1本は途中で止まることなく完全に脱落した中部電力浜岡3号機の例、34本という多数の制御棒が一斉に脱落した東京電力福島第一4号機の例などが発生しており、志賀原発1号機の臨界事故がこの程度で済んだのは単に幸運だっただけで、場合によってはもっと大きな事故になる恐れもあったのである。

3.BWR(沸騰水型原発)の構造的欠陥の可能性

 BWR(沸騰水型原発)では、炉心の上側に蒸気と水を分離する気水分離機や蒸気乾燥機を設置する必要があることから、制御棒を上から挿入しているPWR(加圧水型原発)の場合とは異なり、制御棒は下側から重力に逆らって挿入する形になっている。このため、制御棒を操作するための制御棒駆動機構は非常に複雑な構造になっている。

 まず、制御棒駆動機構を原子炉圧力容器の炉水の中に入れ込む構造となっているため、制御棒の操作は、直接制御棒を動かすのではなく、制御棒駆動水圧系により供給される水圧により、炉水の水圧に対抗する水圧をかけて間接的に動作させている。挿入側の水圧と炉水の水圧、引き抜き側の水圧と炉水の水圧、挿入側の水圧と引き抜き側の水圧といった水圧の微妙なバランスにより、制御棒を上下させるのである。

 また、制御棒を下から挿入するため、これが重力で落下しないためにコレットフィンガと呼ばれる特別な装置が必要となる。コレットフィンガは制御棒をガイドするための筒にある溝に引っかかって制御棒を固定するのだが、この「ツメ」は制御棒駆動機構の構造上、制御棒と同様に外から直接操作をすることはできず、これも水圧を使って間接的に制御するしかない。

 さらに、スクラム(原子炉の緊急自動停止)の際には、制御棒を重力に逆らって急速に挿入しなければならない。そのため、窒素により高圧となっている水が蓄えられているアキュムレータと呼ばれる蓄圧装置が各制御棒駆動機構にあり、これで挿入側に高圧水を供給することにより、電源が喪失した場合でも制御棒の急速挿入ができるようにしている。これもBWR独特の装置である。

 このように、PWRと異なり、BWRでは制御棒は重力に逆らって原子炉の下方から上へ挿入されることから、安全性に構造的問題があると言われている。

 現に、志賀原発1号機の臨界事故は、微妙な水圧差により制御棒が脱落し、水圧による制御に失敗したためコレットフィンガがはずれて脱落を続け、アキュムレータが充てんされていなかったため、スクラム(原子炉の緊急自動停止)しなかったものである。

 したがって、志賀原発1号機の臨界事故は、BWRにおける制御棒を重力に逆らって下から挿入した構造的欠陥があらわれた事故とも言えるのである。この構造的欠陥の有無の検討を含めた真の原因を究明し、このような事故が二度と起こらないようにしなければならない。

4 処分の不当性

(1)経済産業省の原子力安全・保安院は、2007(平成19)年4月20日「発電設備の総点検に関する評価と今後の対応について」と題する報告書を発表したが、この報告書の中で、前記の1999(平成11)年6月の北陸電力志賀原発1号機における制御棒引き抜けによる臨界事故と、それについて運転日誌等を改ざんし、法令で求められる国への報告も行わず、さらに原因究明と再発防止対策も講じなかった件や、1978(昭和53)年11月に東京電力福島第一原発3号機で発生した5本の制御棒引き抜けの件や、それによって7時間半も臨界状態が継続し、さらに運転日誌を改ざんして事実を隠蔽した件など11の事案について、「評価区分T」すなわち「原子炉等規制法又は電気事業法が安全を確保するために設けている規制に抵触し、同法が確保しようとする安全が損なわれたもの又は損なわれたおそれがあるもの」と評価を下した。

(2)これらの事案に対する行政処分は、評価区分Tとされた7原子力発電所(9プラント)については、経営責任者の関与を強めること、原子炉主任技術者の独立性を高めること、想定外の制御棒の引き抜けを異常発生時に位置づけること等の保安規程の変更命令(原子炉等規制法37条3項)等にとどまり、総点検を踏まえた特別な対応として、直近の定期検査における特別な検査(原子炉停止中の安全装置の作動状況等について確認)を行うことと、原子力安全・保安院で特別原子力施設監督官を発令し、特別な監視、監督を実施すること等を発表した。

(3)今回の総点検の結果、BWR(沸騰水型原発)で安全審査において想定されていなかった異常な引き抜けが頻発し、臨界事故にまで到ったことは、同型の原発に共通する根本的な欠陥の存在を疑わせるに十分な事実であるにもかかわらず、上記の行政処分や特別な対応では、同型原発の設計上の問題を含む事故原因の究明や再発防止策が講じられたとは到底評価できない。

(4)さらに、原子力安全・保安院は、上記の事故等に対し、自ら、原子炉等規制法等に抵触し、即ち違法であり、かつ、安全性が損なわれた又は損なわれたおそれがあると評価を下しているのであるから、原子炉施設の性能が原子炉等規制法29条2項の技術上の基準に適合していない等と評価できると考えられ、原子炉設置者に対して原子炉施設の使用の停止を含む保安のために必要な措置を命ずることができる状態であると考えられる(原子炉等規制法36条1項)。

 少なくとも、原因の調査をして安全性が確認されるまでは、原子炉施設の使用停止を含めた必要な措置をとるべきである。また、制御棒脱落事故による臨界事故に関する運転日誌を改ざんしたり、事故報告をしなかったりしたことを保安規定違反(原子炉等規制法37条4項)と認定し、同法が確保しようとする安全が損なわれたもの又は損なわれたおそれがあるものとも認定しているのであるから、原子炉等規制法33条2項4号で設置許可処分の取消しも可能な事態なのである。

 それにも関わらず、上記のように、行政処分としては保安規程の変更命令等にとどまっており、国民に対して十分な安全性を確保するという観点からすると、内在的に危険な原発を運転する電力事業者に対する行政処分としては不十分であると言わざるを得ない。

 また、事故の隠蔽や運転日誌の改ざんに対しても、厳重注意をし、今後このようなことのないように体制を整えることを命ずるのみで、違法行為に対するペナルティとしての処分は何らなされていないと評価せざるを得ない。

(5)これに対し、2007(平成19)年4月20日、国土交通省は、不適切な水利使用のあった10電力会社に対する再発防止策と重大な違反事案に対する監督処分を発表した。それによると、違法取水を続けその事実を隠蔽するために報告データの改ざんを行った東京電力塩原発電所に対しては水利権を取り消し、また、河川法の許可を得ずにダム堤体を貫通する排砂管の付替という大規模改築工事を行い、さらにダム定期検査においてその事実を隠蔽し、また工事の施工管理の記録も不十分でありダムの安全性の確認ができていない東京電力小武川第三発電所に対しては、安全性確保のための是正計画を策定し、当該計画を踏まえた改築に係る法に基づく申請を行うことを命じ、また安全性が確認されるまでの間、同ダムの使用を禁じた。

 このような処分と比較しても、原子力安全・保安院のなした今回の行政処分や対応策は、不十分である。

(6)複数の制御棒引き抜けという重大な事故が発生し、臨界事故という極めて危険な状態となっていながら、記録等を改ざんまでして隠蔽したという重大な違法行為を行っていながら、上記のように不十分な処分、対応しかできないのは、原子力安全・保安院が、原子力推進の立場である経済産業省の一機関(外局)だからと考えざるを得ず、わが国の原発の安全規制システムの欠陥を露呈するものと言わざるを得ない。

5 繰り返される不正とその背景

(1)過去の不正事例

 電気事業者や旧動燃による事故・トラブルの隠蔽、データ改ざん・偽装・捏造などの不正事例は、今回の事件に限ったことではない。以下に、主な不正事例を列挙する。

 これらはいずれも現場の技術者や作業者らからの内部告発で発覚したものである。

発覚時期 事故・不正 発生時期
1976年7月 美浜原発1号炉で燃料棒の折損事故 73年4月
1982年9月 美浜原発1号炉で蒸気発生器細管損傷に違法の施栓工事 73〜76年
1986年11月 資源エネルギー庁(当時)が、敦賀原発での事故隠しを日本原電に指示
1989年11月 志賀原発の基礎工事にデータ改ざんの鉄筋使用
1991年7月 もんじゅの配管に設計ミス
1992年3月 もんじゅ蒸気発生器の細管内で深傷装置が詰まるトラブル 91年5月
1995年6月 動燃(当時)東海再処理工場で溶解槽配管の目詰まり運転が発覚
1995年11月 動燃(当時)東海事業所で不明プルトニウム隠しが発覚
1995年12月 日本原燃が、六ヶ所再処理工場の使用済燃料プールのポンプ欠陥を認める。
1997年9月 日立製作所が原発の配管溶接工事で燃鈍データを捏造 82年以来
1998年10月 日本原子力発電関連会社による六ヶ所再処理工場の貯蔵プールへ使用済み燃料を輸送するための輸送容器中性子遮蔽材のデータ改ざん・捏造
1999年9月 BNFL製MOX燃料のペレット検査データ捏造
2002年8月 東京電力が自主点検記録の虚偽報告 86〜01年
2002年9月 他の電力会社の不正発覚に波及中部電力(浜岡原発1、4号炉)
      東北電力(女川原発1号炉)
      日本原子力発電(敦賀原発1号炉)
      中国電力(島根原発1号炉)
2002年9月 四国電力伊方原発1号炉の発電タービン架台にひび割れ隠し(アルカリ骨材反応が原因) 82年〜
2003年12月 柏崎刈羽原発で管理区域から廃棄物持ち出し・処分
2006年1月 東芝が福島第1原発6号炉などへの納入時に給水流量計の精度データ改ざん
2007年1月 柏崎刈羽原発1号炉の定期検査の際、ECCSの一部が故障しているのを隠し検査合格 92年5月

 この不正のうち、東京電力の自主点検記録の改ざんと機器類の欠陥隠しは、特に重大であった。

 対象となった原発は、福島第1原発6基、福島第2原発4基、柏崎刈羽原発7基中3基、計13基で、不正は自主点検記録中29件と多数にのぼり、期間も10数年の長きにわたった。

 不正個所は、シュラウド(炉心隔壁)のひび割れなど原子炉の安全性に直接影響を及ぼすところであったにもかかわらず、組織的な隠蔽工作が恒常的に行なわれた。

 この事件に端を発し、保安院は、電気事業者に検査記録の総点検を指示し報告を要請した結果、さらに東京電力と他の電力会社でも再循環系配管の溶接部分のひび割れ、シュラウドのひび割れなどの検査記録改ざん・隠蔽など次々と不正が発覚した。
 その結果、地元住民、自治体の抗議、国民の批判を受けて、当時稼動中の52基の原発のうち定期検査中のものを含め19基が運転を停止するという異常な事態に発展した。

 保安院の調査が進む中、新たに福島第1原発1号炉で格納容器の定期検査のデータ偽装が発覚し、2002年10月、保安院は東京電力に対し、同炉につき原子炉等規制法違反で史上初の1年間の運転停止命令を発表した。

(2)日弁連の提言

 当連合会は、これらの事件発覚後の2002年12月、次のように「原発の安全性確保等に関する緊急提言―東京電力の福島原発等の不正問題をふまえて」を行った。

ア.保安院は、不正の内容・原因・安全性への影響・事実関係発覚の経過・責任を明らかにし、より効果的な再犯防止対策を検討すること。

イ.経済産業省は、疑惑のある全原発を停止し、虚偽記載が判明した個所の再検査とデータを公開すること。

ウ.保安院と原子力安全委員会を統合し、経済産業省から独立した一元的な規制機関を内閣府に置いて規制と推進を分離すること。

(3)不正の背景

@ 情報公開の必要性

 原子力情報の公開は、原子力基本法第2条に基本方針として規定されている。

 しかし、原子力政策を開発推進する側と安全性をチェックする側が完全に分離されておらず、安全審査に携わる構成員が推進の立場の者で占められていることから、安全審査は「先に結論ありき」の形式的審査に終始し、審査結果には科学的客観性、公正性が欠けるとの批判がなされている。

 原子力施設が万が一の事故を起こした時の被害は、チェルノブイリ原発事故を例に出すまでもなく甚大かつ広範であり、被害は何世代にも及ぶ。被害者の立場に立たされる住民・国民としては、原子力施設に関する全ての情報を入手して安全性が確保されているかどうかの検討、事故防止の対策、提言などをして、生命、身体、財産を自らの手で守る必要がある。その意味で、情報公開は国の安全規制を補完する手段として不可欠のものである。

 したがって、情報隠しは、住民、国民の憲法13条が保障する幸福追求権及び「知る権利」を侵害すると同時に、原子力災害がもたらす国家的損失もしくは地球的破壊に手を貸す犯罪的行為と言わざるを得ない。

A 不正の温床

 東京電力は、上記の不正発覚後、不正を「しない風土」と「させない仕組み」を構築してきたと喧伝し、他の電力会社も含め不正の総点検を実施したはずである。それにもかかわらず、今回の制御棒引き抜け事故と臨界事故の発生、原子炉緊急停止の失敗が隠蔽され続けてきた。その原因として以下のようなことが考えられる。

ア. 事故、トラブル隠しの目的は、これを公表することによる原子力政策、原子力業界に対する非難を回避したいという思惑、そして欠陥機器の補修により原子炉等を停止することによる企業収益の減損を出したくないという意図に基づくものである。要するに、経済効率を優先し、安全性を犠牲にする企業風土を是正しなければ再発防止はできない。

イ. 法令遵守(コンプライアンス)の規範意識が欠如し、モラルハザード(企業倫理の破綻)が蔓延し不正隠しが常態化している。前述した東京電力などの不正行為は、1986年から2001年にかけて実行され、今回の制御棒脱落、臨界事故隠しは1978年から2005年にかけて反復されている。

 この間、国内では原子力施設での深刻な事故が頻発し、1999年9月にはついにJCOの臨界事故で2名の死者、周辺住民の被ばくをもたらすに至った。国民は原子力事故の恐ろしさを実感した。電力会社、原子力産業はその都度「猛省」を繰り返し、安全性の確保を第一義に取り組むことを強調してきた。

 それにもかかわらず、原子力の危険性を隠蔽し国民を欺き続ける電力業界の上述した常習的体質は、矯正の困難性を窺わせ、ひいては原子力に対する国民の不信感を増幅するものである。

ウ. 電気事業者は独占企業であり、基幹産業であるが故に国の庇護を受けていることから、不正に対する社会的非難を受けても競争市場からの撤退を迫られることがないという開き直りと無責任な企業体質に陥っている。

エ. 安全規制行政と電気事業者・原子力産業との馴れ合い構造が、安易な不正隠しを招いている。

B 再発防止には厳しい制裁が必要

 本件も含め、過去の不正隠しは常習累犯化しており、単純な注意処分ではその是正・矯正は極めて困難であり、事業許認可条件の再審査を行うことによって、その取消しを含む厳しい制裁を課して、事故の発生を未然に防止すべきである。

6 電力業界におけるコンプライアンスの問題

 昨今の日本の経済界・産業界では、コンプライアンス(法令遵守)ということが厳しく認識されており、新聞や雑誌の記事にコンプライアンスという言葉のない日はない。法令をきちんと守って仕事し会社を運営することは当然である。法令違反を犯したり、それを隠蔽したりした場合、社会からも厳しく指弾され市場から撤退させられることが多く、コンプライアンス違反のペナルティは厳しい。

 電力業界は、地域ごとに10分割され、2005年4月の電力自由化で高圧需要家への小売りが自由化されるまでは、各々の地域では完全な独占になっていた。一般企業と異なり独占権を与えられていたことに加え、原子力発電に関しては安全性の確保を厳しく要求されているのであるから、電力会社はより強い理由で自らを律していくことが要求され、コンプライアンスの徹底が図られねばならなかった。

 しかし、これまで電力業界はコンプライアンスに忠実でなく、法令(法律、制令、規則、通達など)違反が原因の事故の多発、その隠蔽、データ隠し、データ改ざん、それらがこの30年の間に何回も行われた。何故そのようなことになるのか、その理由は、電力会社はどんなひどい法令違反や事故を起こしても地域独占をしているので電力市場から消えることはないという甘えがあったと言わざるを得ない。

 また、その甘えを助長していたのは、違反行為に対し、厳正な処分がなされなかったからである。

7 今後のあるべき安全規制機関

 日弁連は、原子力発電所の安全性を確保するために、原子力推進官庁から独立した機関が安全規制行政を追行すべきであると2000年10月の岐阜における人権大会で提言し、前記のとおり2002年12月にも規制と推進との分離を提言した。今回の一連の長期にわたる制御棒脱落事故隠蔽問題は、残念ながら当連合会の提言を裏付けるものとなった。

 今後、電力会社に法令順守を徹底させるためには、安全規制に責任を持つ機関が厳格に安全規制をし、違反があれば厳正に対処する姿勢を示すことが必要不可欠である。

 これまでのように、原子力推進官庁の経済産業省に安全規制機関が置かれるならば、安全規制の権限を適正に行使することは期待できない。内閣府に原子力安全委員会がおかれているが、これとて安全規制に純化した機関ではない。一連の制御棒脱落事故に関して、安全委員会が独自に調査して安全確保のために活動していない事実は、現行の原子力安全委員会の機能不全を物語るものである。

 原子力安全委員会は委員5名で構成され、必要な調査に従事する委員会独自のスタッフは100人程度である。それに対し、アメリカの原子力規制委員会(NRC)は、大統領に任命された委員5名のもとで約2700人のスタッフが働いている。原子力安全委員会の人員不足は明らかである。

 この制御棒脱落事故は、BWR(沸騰水型原発)のシステム的欠陥の可能性があり、脱落事故の真の原因を徹底的に究明する必要がある。そしてその究明は、独立した安全規制機関が行うべきであり、さらに、実効性ある調査を行うためには、知識と経験と意欲をもった相当数の人員と財政的裏付けが必要である。そして、独占企業である電力会社にコンプライアンスを徹底させるためには、安全規制機関が厳正な処分をすべきである。

8 よって、以下のような意見を述べるものである。

(1)国及び電力会社は、原子力発電所の制御棒脱落事故について、構造的欠陥の有無の検討を含め真の原因を究明し、このような事故の再発防止を期すべきである。

(2)国は、隠蔽行為をした電力会社には、その重大性に応じ、原子力発電所の設置許可取消を含めた厳正な処分をして、監督責任を果すべきである。

(3)原子力安全規制機関は、原子力推進官庁から独立した機関とし、かつ、安全規制を実効あらしめるための人員面と予算面の措置を講ずるべきである。

以 上


KEY_WORD:柏崎刈羽_制御棒_不具合_:FUKU1_:FUKU2_:HAMAOKA_:IKATA_:JCO臨界事故_:KASHIWA_:MIHAMA_:MONJU_:ONAGAWA_:ROKKA_:SHIMANE_:SIKA_:TOUKAI_KAKU_:TSURUGA_:ウクライナ_原発_: