[1995_03_01_02]棺の列島_広瀬隆_P119〜122(光文社1995年3月1日)
 
参照元
棺の列島_広瀬隆_P119〜122


 電力会社の悪質な地質学

 さて、この国家として体をなしていない国家において、今ひとつの不思議な企業集団が、のし歩いている。
 その企業集団は、高速増殖炉もんじゅ≠、活断層の目の前に建設しただけではない。新潟では「豆腐のように弱い地盤」に鉄筋コンクリートで人工岩盤をつくり、柏崎刈羽原発を建設して運転に突入してしまった。この人工岩盤が、大地震に耐えられるはずはないことも、もはや明確だ。
 さらにこの企業集団は、平然と悪事を重ねている。
 地質を調査するには、地底をボーリングして、土質のサンプルを採取するが、それをコアと呼んでいる。茶筒のように円筒形をした土や岩石の塊だ。
 九州と能登半島では、厳格な地質調査に必要なボーリングのコアが、原子炉を建設する敷地に捨てられていたことが、内部告発によって発覚した。それは、誰かが実物のサンプルをほかの偽サンプルと差し替えて安全な地層≠ニしたことの証左であり、鹿児島県の川内原発と石川県の志賀原発がこうして建設され、運転されているのである。事実、川内原発では、地盤がボロボロで、掘っても掘っても、硬い部分と、柔らかい部分が交互に出てきた。これではまずいというので、あらかじめ番号ナシのボーリングをおこなっておき、それを「貯金」としてとっておく。そして、柔らかい部分が出てくると、貯金のうちから硬い部分と差し替えるのである。
 九州電力は、「そんなことができるはずがない」と反論したが、現地の作業者が、国会に参考人として呼ばれ、「俺がやった」と証言したのである。
 九州電力は答えられず、ついにそれを認めた。では、その後、どうなったのか。「差し替えはしましたが、測定結果には違いがない」と主張して、原発が建設されたのである。コアを差し替えて、同じであるはずはない。ところが科学技術庁が、軽く警告を出して、それで終ってしまったのである。おそるべき科学技術の世界だ。
 さらに、間違いなくもうすぐやってくる東海大地震の震源地である静岡県は、「いつ大地震が起こってもおかしくない」と、危険性が警告されてきた。そのため、東海大地震については、静岡県を中心にして、日本でここだけ地震予知の観測体制が敷かれている。これは、伊豆半島まで北上しているフィリピン海プレートがもぐり込み活動を続け、一帯で陸地の地殻が沈降しているからである。いずれ陸側の地殻が跳ね上がるだろうと見られている。
 そうなれば、大地震が発生する。したがって、今年がその年であるかも知れない。というのは、この二年間で北海道・東北地方の大地震が四回も集中し、続いてその震源が南部に移ったからには、地底のプレートが全体的に大移動を開始した可能性が高いからである。餅にたとえて説明したプレート理論を思い起こせば、地球内部のマグマが、こうした現象と無関係であるはずがない。雲仙普賢岳の噴火も、餅の皮を突き破ってマグマが噴出したわけであるから、これら一連の地震に深く関係しているはずだ。
 前述の中央構造線に私が不安を覚えるのは、そのためだ。現在想定されている、東海大地震のマグニチュードであれば、新幹線の脱線事故とともに、ここにある浜岡原発は、必ずや大事故を招くであろう。
 原発と地震の問題は、鉄筋コンクリートの構造物が耐えられない、というだけではない。原子炉が、地震そのものによって直接破壊されなくとも、大事故に至るからである。阪神大震災では、建物が残っても、内部が全焼しているものが多数あった。これは、室内にあったものが燃えだしたからである。阪神大震災では、その火災が、多くの人の生命を奪ってしまった。
 原発の場合は、その火災が、想像を絶する被害をもたらす。
 発電所の外観が無傷であっても、原発は内部から爆発するのだ。
 核暴走か、メルト・ダウン(炉心溶融)、である。
 問題は、その「耐えられる」という安全論の根拠になった、計算の方法である。誰が、どのようにそれを計算し、誰が、それを認可したのか。
 読者は、その実態を知れば、寒けを覚えるだろう。
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