[2002_07_06_01]2002年6月29日 ウラジオストク付近の地震(防災科学技術研究所2002年7月6日)
 
参照元
2002年6月29日 ウラジオストク付近の地震

 概要
 日本時間の2002年6月29日午前2時19分ごろ,ロシア連邦・ウラジオストク(Vladivostok)付近の深さ590kmでマグニチュード7.2の地震(気象庁震源情報による)が発生し,北日本から東日本の広い範囲で有感となりました。
 高感度地震観測網(Hi-net)では,日本全国の観測点でこの地震による揺れを感知し,地震波が伝わる様子や地域による揺れの違い,核からの反射を始めとする様々な後続波を観測しました。
▼図1 地震波伝播の様子
 左図に,日本時間(JST)2002年6月29日2時21分40秒に防災科研が所有する高感度地震計(Hi-net,関東・東海観測網)が記録した地動上下動成分の振幅分布を表します。
 ★は震央の位置を表します。
 揺れの大きい範囲(黄色・橙色)が震央を中心とする円状に広がっていることが分かります。
 左図をクリックすると大きな図(png形式,88kB)をご覧頂けます。
▼図2 最大速度分布図(水平動NS成分)
 左の図は,防災科研が所有する高感度地震計(Hi-net,関東・東海観測網)で得られた地震記録のうち,水平動NS成分の最大振幅分布を表します。
 ★は震央の位置を表します。
 西南日本(緑色)に比べて,東北日本(黄色)で大きな揺れが記録されています。北海道や東北,関東の太平洋岸では橙色で示される点もあります。これは,震源に近い日本海側よりも太平洋側の方が大きな揺れを記録したことを意味しています。この現象は,日本海溝から沈み込んだ太平洋プレートの影響であり,異常震域と呼ばれます。
 図中,飽和した(高感度地震観測装置が収録できる範囲を越える地震動があった)観測点については,点で表しています。 Hi-netの観測点では,有感となった北海道地方から関東地方においても良好な波形が得られました。
 左図をクリックすると大きな図(png形式,83kB)をご覧頂けます。
▼図3 観測波形と後続波位相
 上の図は,Hi-netの主な観測点で得られた2002年6月29日午前2時台の連続波形記録を表しています。上部は北海道の観測点,下部は九州の観測点の記録であり,全部で100観測点分あります。
 観測点の位置は左上の日本地図上に示しています。
 地図中では10観測点ごとに色を塗り分けており,この組み分けは波形画像の右側に示した#10〜#100の文字と対応しています。観測点位置の目安として下さい。
 2時21分〜22分頃に大きな振幅の波が到着しています。これが(直達)P波です。この後,2時30分頃,34分頃に日本全国でほぼ同時に到着している(一直線で表される)波があります。これらはいずれも,地球の深部,マントルと外核の境界部で反射した波と考えられます(左図参照)。
 ScS波の前には非常に弱い波(ScSp波)が到着しています。これは,マントル内に存在する傾斜した何らかの地震波速度不連続面でS波からP波に変換した波です。
 この他にも,様々な後続波位相が観測されています。 右に主な後続波が伝播してきたと考えられる経路とその名称を示します。

▼図4 ScS波と先行するScSp波
 地図中に示した西南日本の観測点で得られた地震記録をエンベロープ処理した波形例を上に示します。
 ここで示した波形を作成する際に,1.4Hzの帯域通過フィルタを使用しました。赤矢印で示された地震波位相がScSp波と呼ばれる位相と考えられます。
 ScSp波はScS波がマントル内の傾斜層により,P波に変換した位相です(左下図)。
 ScSp波とScS波の到着時の時間差は,南西に向かうに従って増加しています。

▼図5 ScS - ScSp 時の分布
 西南日本で観測されたScSp波とScS波の時間差を示します。
 東海地方が20〜30秒であるのに対し,九州では60秒程度の時間差が確認されました。ScS波がScSp波に変換する面の傾斜を仮定すると,これらの波の時間差から変換面の深さを推定することが出来ます。
 変換面の傾斜角を約25°と仮定すると,変換面の深さは灰色で示されるような分布となりました。この分布は,太平洋プレートの等深度線と非常に良い一致を示しており,観測されたScSp波はScS波が太平洋プレートによりP波に変換した波であると考えられます。

KEY_WORD:異常震域_: