[2007_07_21_02]常駐隊なし・化学車4社・通報回線5社 原発10社 消防不備 経産省「見直しを」 業界任せ 国も責任(朝日新聞2007年7月21日)
 
 新潟県中越沖地震で起きた東京電力柏崎刈羽原発の火災を受け、経済産業省が全国の原発を調査したところ、原発10社ではいずれも専従の消防隊が24時間常駐せず、夜間や休日は人員を呼び出さなければ出動できないことがわかった。同省は20日、使用済み核燃料再処理工場を抱える日本原燃を含む計11社に対し、化学消防車の設置など消火体制の見直しを指示した。防火設備や火災を起こしやすい機器の耐震基準の見直しも検討する。

 同省は、国内55基の原発と、青森県六ヶ所村の再処理工場の防火体制を調べた。
 専従の消防隊が24時間.常駐しているのは再処理工場だけだった。原発では、すべての施設で自衛消防隊を置いていたが、夜間や休日は当直や少人数の消火担当者しかおらず、手に負えない場合は社外から隊員を呼び出さなければならなかった。化学消防車を置いていたのは、再処理工場と原発4杜。当直が電話しないと自衛消防隊が集まらないなど仕組みが弱く、地元の消防署との連携にも施設ごとに差があった。
 このため、同省原子力安全・保安隊は、火災発生時の人員確保や、油火災に備えた化学消防車の配置、地元消防署との専用通信回線の確保、消防署と連携した消火訓練などを指示した。
 さらに、柏崎刈羽原発の火災では、変圧器からの油による火災の発生と消火栓に水を供給する配管の破損で十分に放水できなかった。原子炉など重要機器に比べ、消火設備などの耐震性が低すぎるとの指摘を受け、火災発生の危険性のある機器や消火設備の耐震基準を見直すことにした。
 この日、甘利経産相は11社の社長を呼び指示、会見で甘利経産相は「(消火設備の)耐震基準が原子炉と比べて著しく低くて使えないのでは意昧がない。いかなる事態でも使えるようにしなければならない」と述べた。

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 経済産業省は20日、首都圏の夏場の需要を乗り切るため、関東圏電力需給対策本部を設置、東京電力に安定供給の確保に努めるよう求めた。
 東電は7月下旬から8月にかけて需要を6110万キロワットと予測している。東電に対し、この電力量を確保するよう指示するとともに、大口需要家に対して個別に節電を求めるよう指示した。

 業界任せ 国も責任

 ≪解説≫
 原発施設は放射線管理区域が各所にある特殊な施設だ。阪神大震災の時のように、大地震では通常の自治体消防の応援を受けられないことがあり、より配慮しなければならないのに、火災に対する甘さが露呈した。地震による火災は他の原発でも起こる恐れがある。消防の支援が得られないことを前提に、敷地内の防災対策を見直す必要がある。
 そもそも、原発の耐震設計指針では、原子炉などの心臓部は放射能を閉じこめる機能を損なわないよう、頑丈につくることになっている。
 しかし、指針でも事務棟などは一般建築物並みの強さしか求めていない。今回の火災が発生した変圧器も一般建築物扱いだ。
 柏崎刈羽原発では事務棟に緊急時対策車があり、ホットラインを設けていた。今回の地震でこの部屋の扉が開かなくなり、連絡に使えず消火の遅れにつながった。
 全原発55基には、自衛消防組織がある。だが、消防法や原子力災書対策特別措置法で細かく内容を求めているわけではない。電力会社の自主性に任せている格好だ。
 その自衛消防組織が、初期消火できないほど不十分な人員と体制にあった。電力会社の防災に対する甘さだけでなく、それを放置していた国の責任も重い。耐震基準にある施設の重要度だけでなく、敷地内の防災体制とその規制のあり方が問われている。(服部尚)

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