[2007_07_18_07]社説 原発の耐震度、基準は甘く備えは薄い(日経新聞2007年7月18日)
 

※以下は上記本文中から重要と思われるヶ所を抜粋し、テキスト化したものである

 地震国日本の原子力発電所には、地震への厳密な備えが要求される。その耐震設計基準は、どんな大地震がきても、放射性物質を外部には一切出さないことを旨として設定されている、はずだった。
 今回の新潟中越沖地震では、それがあっけなく覆された。東京電力柏崎刈羽原発の6号機から、微量だが放射能を含む水が海に放出された。地震で原発から放射能が外部環境に漏れた日本初のケースである。 原子炉本体、炉心などが構造的に壊れて放射能が漏出したわけではない。使用済み燃料を保管するプールの水が漏れ出たもので、環境にはほとんど影響は無いという。しかし、これは軽微な事故ではない。むしろ、日本の原子力発電の今後を左右する、相当に深刻な事態である。
 原発の耐震設計の基準となる地震は基本的に二つある。立地点付近の活断層などを配慮して、起こりうる最大級の地震動(S1)をもたらす最強地震、実際には起きないかもしれないが考えられる最大限の地震動(S2)をもたらす限界地震だ。
 S1レベルでは、原発施設に全く損傷が無いことを安全指針は求めており、S2に対しては(少し損傷はあっても、最低限放射能は閉じ込めることを要求する。これを根拠に、電力会社は胸を張って「日本の原発は地震がきても安全」と、いってきた。その根拠が今回崩れたことを、原子力安全委員会も、電気事業者も、経済産業省も、原子力安全・保安院も、しつかりと胸に刻んでほしい。
 既知の活断層ではなく、未知の断層が動いて大地震を起こすケースが相次いでいる。三年前の新潟中越地震も今年三月の能登半島地震も、全く知られていない断層が動いて、予想外の大きな揺れを起こした。揺れが限界地震を超える場合も多く、S2より大きな震動を耐震設計の基準に採用せざるをえなくなっている∵  問題はこのS2ーNと呼ぷ新しい基準震動の値を、できるだけ小さく、低く抑えようという勢力があることだ。今回の地震では、揺れの強さを表す加速度が最大六百八十ガルと、想定していた限界地震動の二倍以上の強烈な揺れが原発を襲った。
 備えを薄く、基準を緩くする動きは、決して原発の将来を明るくしない。国民の安心と、原発の安全を確実にするには、合理的な耐震基準の採用と、耐震補強は欠かせない。ただ、原発の運転が長期間止まり、二酸化炭素(CO2)を大量に排出する火力発電所がフル稼働するのを、歓迎するわけにはいかない。京都議定書の目標達成も先進国の責務だ。

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