[2006_08_29_01]原発耐震 現行指針はほぼ踏襲 安全委最終案 委員、抗議の辞任 問題点素通りに不信感(毎日新聞2006年8月29日)
 原発の耐震設計審査指針の見直しを進めてきた原子力安全委員会・耐震指針検討分科会は28日、改定案を最終決定した。想定する地震の大きさを一部引き上げるほかは、現指針をほぼ踏襲した内容。これに対し、委員の石橋克彦・神戸大教授(地震学)が「原発の耐震性を保障できない」と辞任を表明し退席、地震の専門家の納得を得られないまま耐震指針が決まる異例の事態になった。
 78年の制定以来初の見直しで、9月中にも同委員会で決定される。
 見直しは、活断層が見つかっていない場所で、00年にマグニチュード(M)7・3の鳥取県西 部地震が起きたことがきっかけ。現指針が想定を求めた直下型地震はM6・5にとどめるためだ。
 改定案では、想定する直下型地震をM6・8程度に引き上げる。ところが、広島工業大の中田高教授(地形学)らの調査で今年6月、島根原発南側の宍道断層でM7級の地震が起きる恐れがあることが判明。中国電力の調査では把握できていなかったことから、石橋教授は「指針の不十分さが分かった。明確な断層が地表に表れなかった過去の地震(M7程度)を想定対象にすべきだ」と主張していた。
 石橋教授は「活断層を見逃していた宍道断層の問題から目をそらそうとする姿勢が問題だ」と話している。【鯨岡秀紀、中村牧生】

 問題点素通りに不信感
 解説

 原発の耐震指針見直しを巡り、神戸大の石橋克彦教授が原子力安全委員会・耐震指針検討分科会の委員辞任を表明した背景には、問題点が残っていることを知りながら、「議論の蒸し返しはしない」などとして幕引きを急いだ同委員会や分科会への強い不信がある。
 同分科会は01年7月から見直し審議を進め、今年4月に改定原案を決めた。一般からの意見募集を経て正式決定する予定だったが、6月に島根原発近くで活断層が見逃されていたことが判明し、指針や改定案の不十分さが浮かんだ。
 一般からは異例の726通もの意見が寄せられ、見直しを求める意見が多数を占めた。特に、中田高・広島工業大教授ら活断層研究の専門家から「指針に基づいて決められた活断層調査の基準は不十分。過小評価につながる恐れがある」と指摘され、活断層の扱いが大きな焦点となった。
 実際、毎日新聞が原発周辺の17断層について、電力会社の調査と国の調査を比較したところ、15断層で電力会社の方が活断層で想定される地震の大きさを過小評価していた。その評価に基づいて原発が建設されていた。
 石橋教授は、中田教授らの意見を基に修正を求めた。しかし、今月22日の分科会で、鈴木篤之・原子力安全委員長が「修正はできれば必要量小限にしていただきたい」と要望。委員に対する圧力ともとれる発言で、議論に終止符が打たれた。
 専門家に異論が残ったまま決められた耐震指針改定案。一般からの多数の意見もほとんど反映されていない。原発の耐震性に不安を抱く人も少なくない中、国民の原発への信頼性を高めることにつながるとは思えない。【鯨岡秀紀、中村牧生】
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