[2006_03_24_03]志賀原発 運転差し止め 金沢地裁命令 「地震の想定、過小」 商業用初 被ばく可能性認定 北陸電力「運転は継続」 耐震指針見直し 影響も 「耐震性は確認」 安全・保安院(毎日新聞2006年3月24日)
 
 北陸電力の志賀原発2号機=石川県志賀町、出力135万8000キロワット、改良型沸騰水型(ABWR)=を巡り、同県を含む16都府県の住民132人が北陸電を相手に運転差し止めを求めた訴訟の判決が24日、金沢地裁であった。井戸謙一裁判長は住民側の主張を認め、初めて運転の差し止めを命じた。判決は「北陸電力の想定を超えた地靂で原発に事故が起こり、原告らが被ばくする具体的可能性がある」と明確に言い切っており、国の原発行政に与える影響は極めて大きい。判決に仮執行宣言はなく、判決が確定しない限り、運転はできる。

 北陸電は「当社は安全と考えている」として運転継続を表明しており、控訴する方針。
 2号機は99年8月に着工。住民側は同月、建設差し止めを求めて提訴し、昨年4月の試運転開始で、同5月、請求内容を運転差し止めに変更した。2号機は今月15日、営業運転入りした。
 判決は、2号機に近い邑知潟断層帯について、政府の地震調査委員会が昨年3月、北陸電の想定を超える規模の地震が起きる可能性を示したことを設計に際して考慮すべきだと指摘。「想定されたM6.5の直下型などを超える地震が発生する具体的危険性があり、原発の多重防護が有効に機能すると考えられない。地震によって、周辺住民が放射線被ばくする可能性がある」と述べ、「原告のうち、最も遠方の熊本県在住者でも許容限度の年間1ミリシーベルトをはるかに超える被ばくの恐れがある」とした。

 「耐震性は確認」 安全・保安院

 判決を受け経済産業省原子力安全・保安院は「民事訴訟なので当事者ではないが、耐震指針に基づき厳格に耐震安全性を確認しており、志賀2号機の安全性に問題はないと考えている」とのコメントを発表した。
 さらに、地震学は大きく進展しているとして、国の耐震設計審査指針(耐震指針)が採用している理論的な地震評価手法について「限界が明らか」と指摘。「原発の耐震安全性が確保されているとはいい難い」と、指針そのものの不備に踏み込んだ。国の安全審査についても「安全性設計の妥当性に欠ける点がないとは即断できない」と指摘した。
 ABWRの設計の危険性についての訴えは「具体的な危険性の立証が不十分」として退けた。
 北陸電側は、地震調査委とは評価手法が違うとした上で、「調査委の指摘通りの地震を仮定した検討でも、耐震設計の妥当性は損なわれないと確認した」と反論していた。
【八田浩輔】

 岩淵正明弁護団長の話

 民事訴訟で原発の運転差し止めを認めたのは初めてで、安全審査指針の問題点を鋭く指摘した。全国にあるあらゆる原発の安全審査の根幹にかかわる、大変優れた画期的な判決。高く評価したい。

 北陸電力の話

 判決は当社の主張が受け入れられず、誠に残念で遺憾。ただちに控訴する。当社としては安全と考えているので、志賀原発2号機の運転は継続する。

 ■ 判決理由の骨子 ■

 志賀原発2号機の耐震設計には@直下地震の想定が小規模に過ぎるA邑知潟断層帯による地震を考慮していないB原発敷地での地震動を想定する手法に妥当性がない、などの問題点があるから、被告の想定を超えた地震動によって原発に事故が起こり、原告らが被ばくする具体的可能性があることが認められる。これに対する被告の反証は成功しなかったから、具体的危険があると推認すべきである。プルサーマルが実施されるのが志賀原発1号機か2号機か確定していない現状でプルサーマルが危険か否かに関する判断を示す必要はない。
 ABWRの危険性、その他の原告らの主張は、立証が不十分であり、いずれも採用できない。

 耐震指針見直し影響も
 解説
 
 北陸電力志賀原発2号機の運転差し止めを命じた24日の金沢地裁判決は、原発の耐震性を巡る国の審査や耐震指針を真っ向から否定する内容だ。
 原発の耐靂設計は、原子力安全委員会の耐震指針に基づいて実施する。原発ごとに、過去の地震や周辺の活断層などから想定される最大の地震の規模を決め、それに耐える設計を求める。活断層が見つかっていない場合に備え、原発から10`の地点でM6・5の直下型地震が起きた場合も想定する。同原発は、眉丈山(びじょうざん)第2断層(全長10`)で起きるM6・6の地震と直下型地震を選び、最大加速度を490ガルとした。
 しかし、国の地震調査委員会は昨年3月、原発から近い邑知潟断層(全長44`)がM7・6程度の地震を起こす可能性を指摘。判決は邑知潟断層を考慮することを求めた。 判決は地震の想定規模から経験則に基づいて原発での揺れを求める「大崎の方法」にも疑問を示した。昨年8月の宮城県沖の地震(M7・2)で、東北電力女川原発で観測された揺れが一部で同法で求めた想定を超えたためだ。「大崎の方法」で計算した他の原発の安全性にも疑問を示した形だ。
 また、想定するM6・5の直下型地震を巡っては、00年10月、事前に活断層が見つかっていない地域で鳥取県西部地震(M7・3)が発生。判決は「志賀原発の直下にM6・5を超える地震の震源断層が存在しないと断ずる合理的な根拠があるとは認めがたい」とした。
 国は01年7月から、20年ぶりに耐震指針の見直し作業を進めている。判決が指摘する疑問点に答える見直しが求められる。【鯨岡秀紀、中村牧生】
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