[1999_10_17_01]活断層 対策迫られる日本 真上で地震の被害集中 台湾 またいだ橋次々落下 日本 2000あるのに規制なし 泊次郎(科学部編集委員)(朝日新聞1999年10月17日)
 
 8月と9月に、トルコ、台湾で相次いで発生した大地震は、死者数がそれぞれ1万6000人、2300人に達する惨事になった。日本の専門家の調査団に同行した被災地では、地表に姿を現した活断層に沿って、被害が集中していた。活断層は阪神大震災でも出現したが、日本では、活断層が動くことを想定した対策が進んでいない。建物の規制などを早急に進める必要がある。 泊次郎(科学部編集委員)

 台湾 またいだ橋次々落下

 地震は、地下の岩盤が断層を境に急激にずれ動くことによって起きる。地震で地表にできた断層は、この地下の活断層の延長部だ。日本ではこれまで、地震の規模を示すマグニチュード(M)が7.2以上で震源が内陸直下の地震では、必ず地表に出現している。
 9月21日に発生した台湾大地震(M7.7)で「車籠埔断層」(チェルンプ断層)と呼ばれる台湾中部の活断層が南北約80キロ、垂直に最大9メートル動いた。活断層の上に建っていた建物の多くは、全壊した。だが、そこから10メートルも離れた建物には、ほとんど被害がなかった。活断層からさらに離れた所でも倒壊したビルがまれにあったが、多くは手抜き工事などが疑われ、建築業者が逮捕された例も少なくない。
 中部の石岡ダムでは、活断層のため、長さ約360メートルのダムが、北側の一部を残して約9メートルもせり上がった。ダムは北側がすぱっと切れた形になり、270万トンの水運・かんがい用水が流出した。
 また、主要な道路にかかる橋も十カ所以上で橋げたが落ちた。そのほとんどは橋が活断層をまたいでいたために、橋脚と橋脚との問に大きな段差が生し、橋げたが落ちたものだ。
 一方、8月17日のトルコ北西部大地震(M7・4)では、トルコ北部を東西に走る北アナトリア断層が、約100キロにわたって出現し、最大約5メートル水平にずれ動いた。建物の被害は、この活断層に沿って幅一キロほどの帯状に広がった。真上以外でも被害が目立ったが、これは建物が台湾に比ベ、地震に弱かったためと見られる。
 日本並みの耐震基準でつくられていた高速道路でも被害が出た。高速道路自体はほとんど壊れなかったが、この基準が適用されていない一般道路がまたいでいた活断層が動いて橋脚がずれ、橋げたが下の高速道路に落ちた。

 日本 2000あるのに規制なし

 日本では、米国のような規制がほとんどない。原子力発電所とダムについて、活断層の上には建設を認めないとする国の基準があるだけだ。自治体レベルでは、神奈川県横須賀市が95年、市内にある北武断層の長さ約600メートルの区間について、活断層の両側25メートル以内での住宅の建設を事実上禁止する都市計画決定をしたのが、唯一だ。
 台湾で調査した松田時彦・東京大学名誉教授らによると、日本の都道県庁所在地のうち、仙台、長野、金沢、大阪、京都、福岡など半数近くに活断層が存在する。真上やごく近くに学校、病院、老人ホーム、ガソリンスタンドなどが建っているケースは数多い。
 また、四国北部を東西に結ぷ四国縦貫自動車道の一割以上は、中央構造線の真上にある。JR中央線の一部も糸魚川−静岡構造線の上にある。東海道新幹線や東名高速道路も、神縄・国府津ー松田断層帯(神奈川県)や富士川河口断層帯(静岡県)を横切っている。これらの活断層は、近い将来M8クラスの地震を起こす可能性が高いと心配されている。
 日本で対策が進んでいないのは、歴史的な事情が関係している。活断層についての本格的な研究が始まったのは、70年代に入ってから。それ以後、阪神大常災を引き起こした兵庫県南部地震(M7・2)までに起きたM7以上の地震の震源は。たまたますべて海で、活断層が地表に現れる機会がなかった。
 阪神大震災では、淡路島で野島断層が約10キロにわたって姿を現し、水平に最大約二メートルずれ、活断層という言葉が有名になった。だが、人家が比較的まばらな地域であったため、大きな被害には結びつかなかった。このため、政府や自治体の活断層対策に本腰が入らなかった。
 しかし、トルコと台湾で土木学会の調査団の団長だった浜田政則・早稲田大学工学部教授は「日本でも何らかの対策が必要だと痛切に感じた」と語る。活断層が動くことを想定した対策を土木学会としてまとめ、発表したいという。
 阪神大震災の後にできた政府の地震調査研究推進本部は、全国の主な活断層約百について、調査を進めている。国土地理院はこの調査結果もとり入れて96年から、活断層の位置を2万五千分の一の地形図に示した都市圏活断層図を順次刊行している。三大都市圏と政令指定都市、中央構造線、糸魚川ー静岡構造線などが通る地域は発行が終わっている。いくつかの活断層では、どのビルの下を通っているかが分かる詳細な図もできているという。
 日本には約二千の活断層がある。こうした地図をもとにカリフォルニア州の例を参考にするなどして、何らかの規制を早急に実施しなければ、トルコや台湾のような被害が再現する可能性がある。規制と同時に、古い建物の耐震診断・補強を進めれば、被害は驚くほど少なくできる。
 同時に、個人レベルでもできることがあるはずだ。まず、自分が住んでいる町に活断層があるかないかを確かめる。自宅や学校、病院などがその上に建っていないかチェックする。不幸にして真上や直近にあれば、建て替えの際、断層線を避けるように建物の配置を変更することなどだ。
 こうした取り組みが活発になれば、自治体、政府を動かす力になるだろう。
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