[1997_11_25_01]地震列島日本 原発が危ない! 元和光大学教授 生越忠さん 日本列島どこでも強い地震の危険性 ウソでぬり固めた つくる側の「論理」 震源の距離に無関係の「金井式」破産の証明 「異常震域現象」起きる 立地の「適地」 「耐震安全性」 「絶対大丈夫」 設計の問題点 「金井式」破産(週刊新社会1997年11月25日)
 
 立地の「適地」

 日本列島は世界中で起きる地震の80%を占める環太平洋地震帯のまっ只中にある。そのうちの15〜20%が日本列島での地震活動であり、全世界の10〜15%を占めることになる。地震列島といわれるゆえんだ。
 原発をつくる側は「立地の適地」として、(1)過疎地で、かつ広大な敷地を確保できる、(2)冷却水を安定的に確保でき、大量の温排水を排出できる、(3)基礎岩盤が堅硬・良好、かつ強い地震に襲われる恐れがない、という三点をあげる。
 まず、過疎を立地の条件.にするのは、過疎地の住民に対する差別であり、つくる側のおごりだ。過疎地といえない場所にも立地しており、島根原発は松江市からわずか9キロしか離れていない。
 冷却水と温排水の問題を解決するために、日本ではすべて海岸に立地しているが、海岸地帯は大地震による震害、浪害、塩害を受けやすい。しかも、海岸でも地質的に軟弱なために侵食された、入り江の奥に立地しているケースもある。
 岩盤については、日本列島は生い立ちが新しく、しかも激しい地殻変動を被っ場所が多く、軟弱、劣悪な岩盤を基礎とする原発が各地に多数存在する。そして、「ここなら強い地震に襲われる恐れはない」場所は日本列島にはどこにもない。
 したがって、日本には「原.発立地の適地」など、どこにも存在しないのである。

 「耐震安全性」

 原子炉設置場所の基礎岩盤の岩石分類基準は、多くの場合、電力中央研究所の田中冶雄氏の「岩質分類基準」が適用されているが、「基礎岩盤としての良否」が示された旧基準と、それが削除された新基準がある。
 その旧基準に基づいて田中氏がまとめた宮城県の「女川原発地点地質調査報告書」によっても、一号機、三号機の原子炉設置場所の基礎岩盤は「中硬」「やや軟岩」であり、「基礎岩盤として良好な堅硬岩盤」は存在していない。
 この「田中報告」が「原子炉設置許可申請書の添付書類の一つ」になっており、東北電力は、地元住民に、「基礎岩盤の地質は堅硬緻密(ちみつ)」と説明した。
 女川に限らず、日本の原子炉設置場所の基礎岩盤の多くは、「やや軟岩」から構成されているにもかかわらず、すベての電気事業者と国は「原子炉は強固な岩盤を基礎としているので、耐震安全性の問題はない」としているが、大ウソだ。
 活断層について、電気事業者は必ず「敷地付近に活断層はないので、敷地付近に震央位置がある大陸プレート内地震は発生しない」というが、「ここに活断層は存在しない」ということは、だれにも言えない。
 活断層の存否は、詳細な地質調査をしても、手の届かない地下深所に潜在するものも少なくないので、必ず分かるというものではない。正しくは、「活断層の存在はまだ分かっていない」と言うベきである。
 また、大陸プレート内の活断層を起震断層とする地震は、いわゆる内陸直下型地震の大部分を占めるが、このタイプの地震が活断層の存在が未知の地点を震央として発生した例は、少なからずある。
 秋田仙北地震(1914年)、長野県西部地震(84年)はその典型であり、活断層はもとより、活断層かどうか定かでない、リニアメントすら認められない。最近では、今年3月26日と5月13日に鹿児島県の北薩で起きた地震も、活断層が未知の地点が震央となっている。

 「絶対大丈夫」

 阪神大要災(兵庫県南部地震、M7.2)のあと、政府や電気事業者、原発推進の学者らは「震度階七相当の地震動に揺られても絶対に大丈夫」と断言した。
 しかし、日本における直下型地震の最大規模のものとしては、濃尾地震(1891年、M8.0)があり、地震波として出されたエネルギーは、兵庫県南部地震の16倍にも及ぶ巨大地震だった。関東大震災(23年、M7.9)は11倍、十勝沖地震(52年、M8.2)は32倍。このように巨大地震は日本でも、外国でも少なからず知られているのである。
 しかも、震度七以上の震度階は存在せず、「震度階七相当の地震動に揺られても絶対に大丈夫」という主張は、「どれほど強い地震動に揺られても絶対大丈夫」ということになり、そのような主張が誤っていることは明白だ。
 そして、震度階7の地震が発生した場合は、しばしば地震断層が出現し、地盤が水平方向、あるいは上下方向に大きく変位するので、その変位場所の岩盤に原子炉があった場合は、たとえ揺れの強さが耐震設計基準以内に収まったとしても、安全性の確保は不可能ないし困難になる。
 また、国や電気事業者は、震度階5以上の地震を感知したら、原発は自動的に停止する仕組みとなっているから安全だというが、制御棒がいつでも正常に挿入されるとはいえない
 現に89年にフランスのグラブリーヌ原発4号機で保守作業のため原子炉を停止しようとしたが、制御棒の一本が途中でひっかかってうまく挿入できなかったという事例がある。

 設計の問題点

 原発の耐震設計には、設計用最強地震(S1)、設計用限界地震(S2)というニつの設計用地震を適切に選定することとされているが、多くの誤りが認められれる。
 たとえば、東京電力は柏崎刈羽1号機のS1の一つとして、1614年の「越後高田の地震(M7.7)を選定したが、今日ではこの地震は日本海側の地震ではなく、東海沖ないし南海沖のM7.0〜7.5程度の地震と考えられている。また、京都付近の地震とする説もある。ところが、東京電力は柏崎刈羽原発の2〜7号機ついても、この地震をS1として選定している。
 さらに柏崎刈羽原発の日本海沖合には、ユーラシア大陸プレートと北米大陸プレートとの境界が走っており、同原発のS2の一つとして、両プレートの境界沿いに発生することが予想される地震を考慮するのが当然であるが、東京電力は全く考慮外に置いている。
 その上、多くの地震学者や地質学者が活断層と認めている断層の存在を原子力事業の推進側は、全面的に否定する「活断層隠し」「活断層殺し」の例も枚挙にいとまがないのである。

 「金井式」破産

 耐震設計審査指針(78年制定、81年改定)の策定前の原子炉は、敷地基盤の最大加速度振幅(Amax、単位=ガル)、また策定後は敷地碁盤の最大速度振幅(Vmax、単位=カイン)が求められている。
 これらの数値は、マグニチュード、震源距離、卓越周期の函数による「金井」と呼ばれる経験式によって計算されるが、AmaxもVmaxも、とくに大陸プレート内地震の場合、震源距離よりも断層距離(起震断層からの距離)の方にいっそう大きく左右されるので、計算値を震源距離の函数とするのは妥当ではない。
 金井式はさらに、(1)震源距離が小さい場合は適用し難い、(2)地盤条件がまったく考慮外に置かれている、(3)異常震域の問題も完全に無視されている、といった決定的な問題があり、完全に破産している。

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 以上見てきたように、原子力発電所の設置と地震の関係については、日本には「原発立地の適地」などどこにもなく、「どのような地震も絶対大丈夫」などとは絶対に言えないことが明らかである。

 震源の距離に無関係の「金井式」破産の証明
 「異常震域現象」起きる

 「金井式」の破産は、1994年7月22日午前3時38分ごろ、ウラジオストク付近を震源とする地震の際の地震波の伝わり方によって証明される。
 この地震の震源の深さは約560キロ。地震の規模はマグニチュード7.8と推定され、かなり大型の地震だった。
 この地震の特徴は、震源がウラジオストク沖の日本海で起きたにもかかわらず、東京や小名浜は震度3で、日本海側の秋田、新潟、輪島、鳥取は震度1だったこと。日本海側で起きた地震なのに、まるで太平洋側で起きた地震のように感じるこのような現象は「異常震域」と呼ばれ、地球の表面を覆う巨大な岩盤であるプレートが犯人。
 プレートは、体に感じやすい短い周期の地震波を弱めず、高速で伝える「ハイウエー」の役割を果たす。このため、地震波はプレート沿いに日本列島の下をくぐるような道筋を通って、太平洋側に大きい揺れが伝わる。
 このプレートの上の層は、高温で一部が溶けており、地震波を吸収してしまうために、震源に近くても日本海側は揺れを感じなかったというわけだ。

     ◇

 また、同じ年の10月4日夜に起きた北海道根室沖を震源地とするM8.1の地震では、北海道東部の根室が震度5、釧路が6、浦河が5を記録し、釧路市では道路の陥没やガス漏れ、漏水などの被害が出た。
 この地震では、日本列島の青森、岩手、宮城、福島など東側で強い揺れを観測しており、震源からはるかに離れた東京や千葉でも震度3を観測した。
 ところが、同じ北海道内の旭川は震度2、稚内は1で、「異常震域現象」が見られた。

 おごせ・すなお 1923年、東京・中野区生まれ。45年9月、東大理学部地質学科卒。理学博士。東大理学部助手、通産省工業技術院地質調査所調査員(併任)を経て68年、和光大学助教授、72年同教授。地質学の観点から開発公害論に取り組む一方、大学間題にも発言を続け、寄付金の在り方や私大教員の老齢化などの問題に疑問をいだいて88年3月、退職。
 著書に「日曜日の地球科学」「悪用される科学」「検証・危険列島」「これからの大学」、共著に「狭山裁判と科学」など。現在、「開発公害研究」会代表。

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