[1995_02_08_01]原発・再処理工場の耐震性 見直しに多い課題 施設 縦揺れ対策や老朽化 立地 活断層の特定が難題 敦賀半島と下北半島の原子力施設と活断層(朝日新聞1995年2月8日)
 
 阪神大震災をきっかけに、原子力発電所や再処理工場などの地震対策があらためて注目されている。「関東大震災級の地震にも耐えられる」と言われてきた高速道路や新幹線の高架橋脚が崩れたからだ。原子力施設で被害が出れば、放射能による影響は計り知れない。原子力施設の耐震設計指針の見直し作業が始まったが、周辺の住民らの不安は高まっている。
                (由衛辰寿、嘉幡久敬)

 原子力施設の地震対策は、活断層を避けて立地し、起こりうる最大の地震に耐えられるよう設計するのが基本だ。原子力安全委員会が1981年に決めた現行の耐震設計審査指針によると、原子炉建屋については半径100−200キロの範囲で(1)過去に起きた地震(2)活動度の高い活断層により発生が予想される地震を調べ、影響の大きい方を「最強地震」と想定する。
 最も耐震性が求められる原子炉格納容器や再処理工場の使用済み核燃料貯蔵プールは、安全に余裕をもたせるため、(3)活動度の低い活断層による地震(4)地質構造から発生を否定できない地震のほか、活断層の見落としなどに備えて(5)マグニチュード(M)6・5の直下型地震も考慮し、五つのうちで最大の「限界地震」を規定している。
 設計に反映する立地点での加速度は、これらの地震の規模と距離から算定するため、原発ごとに違う。例えば、東海地震の影響が心配される静岡県の中部電力浜岡原発は、全国で最大の加速度600ガルを考慮している。原子炉建屋の基礎の面積をふつうより約二倍に広げ、その分、多くの壁で支えたり、重心を下げたりしている。
 同原発の宮池克人・耐震担当副部長は「高速道路などが一律の基準で設計された『既製服』なら、原発は『オーダーメード』」と違いを強調する。
 阪神大震災で観測された最大で800ガルを越す加速度と比べると、原発の設計に反映する加速度は小さい。これに対し、科学技術庁原子力安全課は「原発は地盤を掘り下げて固い岩盤の上に建設しており、設計に反映する加速度はこの岩盤での価。地表での揺れはこの二、三倍に相当する」と説明する。
 原子力安全委の耐震指針見直しで焦点の一つになりそうなのが、「縦揺れ」の影響だ。現在の指針では、「横揺れ」の半分の加速度の「縦揺れ」を考慮するよう求めている。しかし、阪神大震災では、横揺れを上回る縦揺れの加速度を記録した。
 都甲泰正・原子力安全委員長は「万全を期すために新しい知見は反映しなければならない」と話している。
 老朽化している原発の問題もある。稼働中の原発49基のうち、少なくとも20基は耐震指針が初めて決まった1978年より前に設計されている。
 原発反対福井県民会議の小木曽美和子事務局長は「古い原発が一番気がかり。周辺の活断層は動かないといわれても、安心できないことが今回の地震でわかった。運転を止めて安全審査をやり直すべきだ」と訴える。
 原子力資料情報室の西尾漠さんは「阪神大震災で耐震工学の安全神話が崩れた。原発では想定を超える地震の対策が必要だ。採算がとれないというのなら操業をやめてほしい」と話している。
 立地 活断層の特定が難題 福井県の敦賀半島は、日本原子力発電の敦賀発電所(二基)と動力炉・核燃料開発事業団(動燃)の新型転換炉「ふげん」、高速増殖原型炉「もんじゅ」などが集中しているが、周辺には断層も多い。

 福井県の敦賀半島は、日本原子力発電の敦賀発電所(二基)と動力炉・核燃料開発事業団(動燃)の新型転換炉「ふげん」、高速増殖原型炉「もんじゅ」などが集中しているが、周辺には断層も多い。
 敦賀発電所の敷地内には活断層の浦底断層が通っているが、さらに北東にある長さ20キロの甲楽城(かぶらぎ)断層が動いた方が影響が大きいことがわかった。日本原電は「過去5万年動いていないので、活動度は高くないが、1、2号機とも、この断層が動いても十分耐えられることを確認している」という。
 「もんじゅ」は、甲楽城断層でのM7・0の地震をもとに、限界地震として470ガルを想定している。また、敷地の一キロ西に、南北に通る長さ三キロの線状の地形がある。動燃が調査した結果、周辺の花こう岩の成分が小さく砕かれていないことなどから「断層ではない」(もんじゅ計画課)と結論し、設置許可を受けた。だが、「新編日本の活断層」(東京大学出版会)では、活断層の疑いがあるとされており、専門家の間で結論が出たわけではない。
 核燃料サイクル施設の建設が進む青森県六ヶ所村。高レベル放射性廃棄物の一時貯蔵施設が完成し、大規模な再処理工場が建設中だ。
 建設にあたる日本原燃は「敷地周辺には活動度の高い活断層がないことを確認した」という。限界地震としてM6・5の直下型地震(375ガル)と、50キロ離れた太平洋で起こりうるM8・2のプレート境界地震(320ガル)の二つを反映させたとしている。
 「新編日本の活断層」の編集者の一人である松田時彦・九州大教授は「活動度の低い断層は侵食が進み、調査の際にかなり見逃しているが、現実に明治以降に地震を起こした例も報告されている。記載されていないから安心というわけではない」という。
 青森県の「核燃サイクル阻止1万人訴訟」弁護団長の浅石拡爾弁護士は「活断層の調査のやり直しも求めたい」と話す。

 活断層

 最も新しい第四紀(約180万年前から現在)に活動した形跡があり、将来も活動する可能性のある断層。原子力施設の耐震指針では、ここ1万年間に動いたりしたものを「活動度が高い」とする。

 ガル

 建物などを揺する地震の力を表す加速度の単位。一ガルは秒速が毎秒1センチずつ速くなる状態。物体が地面に落ちる時の重力加速度が980ガル。400ガル以上が震度7におおむね相当する。
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