【記事54570】静穏期への過信は危険 原発に地震や噴火のリスク(島村英紀HP2017年5月21日)
 
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静穏期への過信は危険 原発に地震や噴火のリスク

 反原発を旗印に当選したはずの三反園訓鹿児島県知事は、日がたつにつれて旗色が鮮明でなくなり、県の動きは同県内の九州電力川内原発の再稼働へ向かって加速している。川内原発の安全性などを検証するために県が設置した専門委員会の座長である鹿児島大の教授が九州電力から約2億円の研究費を受けていたことも分かった。
 九州電力に限らず、関西電力も四国電力も、そして機会をうかがっている東京電力柏崎刈羽原発も同じ方向に動いている。2011年の東日本大震災を受けて54基すべてが止まった原発も、川内原発を含め既に10基の原発が新たな安全基準による審査をパスしている。

 ●中央構造線

 昨年4月の熊本地震から1年がたった。地震から今年3月末までの約1年間に、地震の活動域を中心に、人体に感じない小さいものも含めた地震回数は九州で約13万回だ。これは2015年に全国で起きた地震の約12万回を上回った。
 余震が熊本地震ほど多かった地震は日本で例がない。今月も震度4の地震に襲われた。余震はまだ続いている。1995年の阪神淡路大震災でも余震は1〜2ヶ月で収まった。かなり大きな内陸直下型地震でもこの程度で収まってしまう例が多い。
 余震が多い理由は、熊本が日本最大の断層である「中央構造線」の上にあるからである。
 中央構造線は長さ1000キロにもなる大断層だ。鹿児島から熊本・大分を通り、四国の北をかすめ、紀伊半島を横切って長野県にまで達している。首都圏まで延びている可能性も高い。
 かつて1596年には慶長伊予地震、慶長豊後地震、慶長伏見地震が次々に起きたこともある。九州から京都にかけての中央構造線沿いに起きた連発地震だ。
 これからも、中央構造線に沿って起きる地震には注意すべきだろう。実は川内原発も、稼働中の愛媛県の四国電力伊方原発も中央構造線のすぐ近くにある。
 しかし、その熊本地震や東日本大震災も、多くの日本人にとって遠い出来事になりつつある。

●過去の大噴火

 一方で西之島新島が再噴火し、九州の霧島火山で噴火警戒レベルが引き上げられたりしているが、日本全体では火山噴火への関心も低くなってしまっている。
 東京ドーム250杯分の火山噴出物が出た噴火を「大噴火」ということがある。この「大噴火」は1914年の鹿児島・桜島と1929年の北海道・駒ヶ岳の噴火を最後に収まってしまっている。じつは19世紀までは「大噴火」は各世紀に4〜6回もあった。
 2014年に起きて戦後最大の火山災害になってしまった岐阜、長野両県にまたがる御嶽山の噴火も、「大噴火」の数百分の一という規模にすぎなかったのだ。だが、21世紀に日本のどこかで「大噴火」が4、5回あっても驚かない、とする学者は多い。
 地震も同じだ。6400人以上がなくなった1995年の阪神大震災までほぼ半世紀の間、250人を超える犠牲者を生んだ地震はひとつもなかった。
 つまり、たまたま地震や火山活動の静穏期が続いていた間に日本は高度成長をなしとげ、多くの原発を林立させたのである。
 理由は分かっていないが、この静穏期は一時的なものであることは確かだ。長い目で見ると、今までこそが日本列島にとって異常だったのである。日本史上、あるいは地質学的に分かっているそれ以前の時代を見ても、日本が大地震や大噴火に襲われたことが普通だった。
 これは日本列島が乗っている北米プレートとユーラシアプレートに、太平洋側から太平洋プレートとフィリピン海プレートが押し寄せてきている、という構造から来るものだ。世界に地震国といわれる国はいくつかあるが、プレートが4つもせめぎ合っているところは、日本以外にはない。
 地球物理学者から見ると、日本列島では、大地震も火山の大噴火も「あって当たり前」のことだ。日本は、たまたまの状態を未来永劫に続くものだと思い込んで静穏期を享受してきた。この思い込みは、あまりに危険なことである。

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