【記事32510】『巨大噴火、原発のリスク 発生頻度低く、予測困難 起これば「被害甚大」』(毎日新聞2013年12月23日)
 

『巨大噴火、原発のリスク 発生頻度低く、予測困難 起これば「被害甚大」』

 「毎日新聞が全国の火山学者を対象にしたアンケートで、火山の巨大噴火による原発被害の危険性が指摘された。だが現在の科学では、6000〜1万年に1回とされる巨大噴火が最長60年の原発稼働期間中に発生するかを予測するのは不可能との見方が大勢で、原子力規制委員会の審査も限界があるのが実態だ。いざ発生したら被害は甚大なだけに、複数の火山学者が「リスクがあることを国民に十分周知した上で再稼働の可否を議論すべきだ」と求めている。
 「火砕流の影響を受ける立地条件であり、いずれもハイリスクと考える」。岩手県立大の伊藤英之准教授はアンケートで川内せんだい鹿児島県、泊北海道、東通青森県、玄海佐賀県をリスクのある原発に挙げた。秋田大の林信太郎教授も川内について「許容できないリスクがある」と明言する。
 巨大噴火が発生した場合、多くの火山学者は破局的な被害が避けられないとみている。推定600度以上の高温の火砕流が時速100キロ以上の速さで広がり、少なくとも周辺100キロ四方は焼き尽くされる。火砕流が直撃しなくてもブラスト高温の爆風が吹き、火山灰が広範囲に降り注げば送電線が切れたり、取水口や排気口がふさがれたりして原子炉の冷却は困難との見方だ。救援に向かおうにも近づくことすらできない。
 しかし、アンケートで原発への火山リスクを指摘した29人全員が、規制委が審査対象とする「最長60年の原発稼働期間中に巨大噴火が発生する可能性」を必ずしも高いと見ているわけではない。「可能性は非常に低い」との指摘も少数あった。
 それでも多くの火山学者がリスクを指摘するのは「起きない」と言い切れない点にある。巨大噴火の頻度は非常に低く、実証データや記録がないため発生の可能性を数値的に示すことはできない。日大の高橋正樹教授も「現在の火山学では巨大噴火の前兆現象の識別や直前予測は不可能」と説明する。可能性は低くても、いつ起こるか分からず、万一起きてしまった時の被害の甚大さを考えてリスクの存在が導き出された格好だ。
 アンケートでリスクの有無を答えなかった信州大の三宅康幸教授も「原発稼働期間中にカルデラ噴火が起こる可能性はゼロではない」と指摘、「川内や玄海、愛媛県の伊方原発に影響する恐れのある阿蘇の過去4回の巨大噴火からすると、時間的空白は既に長すぎる」と例示した。
 一方、「どの原発にもリスクはない」と答えた9人からは「60年以内に巨大噴火は発生しない」「中東発の石油危機が起きる可能性の方がはるかに高い」などの意見が寄せられた。」
 「火山学者へのアンケートでは、50人中25人が「前兆現象はキャッチできる」と答えたが、前兆現象から「巨大噴火の切迫を正しく評価できる」と答えたのは50人中5人のみ。45人が「難しい」「現在の科学では想定不可能」と回答した。
 予知に成功した例は00年の有珠山噴火北海道があるが、このような中規模噴火は過去の観測例から予知できる可能性はあるものの、有史以降の観測例がない巨大噴火の場合は困難との意見が火山学者の大勢だ。観測網を作ったところで安全が担保されるとは言い難い。
 川内原発から約3キロ離れた鹿児島県薩摩川内市寄田町では、2・6万〜2・9万年前の姶良あいらカルデラ噴火で発生した巨大火砕流の堆積たいせき物が見つかっており、鹿児島大の井村隆介准教授は「巨大火砕流が川内原発敷地内まで到達した可能性は否定できない」と指摘する。
 巨大噴火による広域火山灰研究の第一人者、町田洋・東京都立大名誉教授第4紀地質学は「人間の生活時間と巨大噴火が繰り返されるまでの長い間隔は著しく異なり、次の巨大噴火を予測することは大変難しい。だが、巨大噴火による火砕流堆積物が近くに残っている川内や泊はそれなりにリスクが高いと考えざるを得ない。アンケート結果はおおむね妥当な結果だ」と話す。
◇巨大噴火
 火山の噴火規模は噴出物の量によって小規模噴火から超巨大噴火まで分類される。日本では約6000〜1万年に1回、巨大噴火が起きている。約9万年前の阿蘇の巨大噴火では高温・高速の火砕流が約180キロ先まで達し、北部から中部九州はほぼ壊滅。一部は山口や愛媛にも達した。直近では7300年前に現在の鹿児島県南部で起きた。富士山の宝永噴火1707年や有珠山噴火2000年はこれよりずっと小さな規模の噴火になる。」
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