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社説 川内原発差し止め棄却 住民の不安踏まえたとは言えぬ


九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県)の運転差し止めを周辺住民らが求めた仮処分申し立ての即時抗告審で、福岡高裁宮崎支部は住民側の抗告を棄却した。原発の新規制基準を「不合理とは言えない」とし、基準に適合するとした原子力規制委員会の判断を妥当と認めたものの、その根拠には疑問が残る。
 西川知一郎裁判長は、原発事故のリスクをゼロにはできないという立場を取った。見過ごせないのは、社会が危険性を受け入れることを前提としながら、危険の程度については基準を示せず「社会通念」という曖昧な概念に転嫁した点だ。安全性を最大限求めないのが常識と言うに等しく、到底容認できない。東京電力福島第1原発事故を受け、多くの国民が不安を訴える現状を踏まえたとは言い難い。
 中でも、川内原発の地理的特徴でもある火山噴火の危険性をめぐる判断には異を唱えたい。「噴火時期や規模を的確に予測できる」とする規制委の主張を批判しつつ、破局的噴火は1万年に1回程度として「安全性確保の上で考慮されないのが実情で、無視できるという社会通念がある」と結論付けた。「想定外」の自然災害が福島の事故をもたらした教訓を、あらためて見つめ直す必要がある。
 原発をめぐる仮処分では大津地裁が先月、関西電力高浜原発3、4号機(福井県)の運転差し止めを命じた。福島の事故がなぜ起きたのかを出発点とし、過酷事故対策の不十分さを指摘して警鐘を鳴らした判断は、できる限りの安全性を追求したとも言えよう。今回の福岡高裁支部の決定とは対照的だ。
 両決定は避難計画の評価も方向性が異なる。大津地裁は計画の実効性などに疑問を呈した上で、規制委の審査対象とすることも視野に、国主導で具体的計画を策定するよう要求。計画の不備を、原発運転の是非を判断する大きな要素と位置付けた。
 これに対し、高裁支部は実効性や経路確保などの問題点が指摘できるとしても、それだけで住民の人格権が侵害される恐れがあるとは言えないとした。つまり計画が不十分だからといって、直ちに運転を差し止める理由にはならないのだという。住民感覚との乖離(かいり)を危惧する。
 大津地裁決定をめぐっては、高浜原発再稼働による電気料金引き下げを期待していた関西の経済界から、的外れな批判が相次ぐ。「なぜ一地裁の裁判官によって、国のエネルギー政策に支障を来すようなことが起こるのか。こういうことができないように法律改正を望む」―角和夫関西経済連合会副会長に至っては、司法制度の軽視、ひいては三権分立を否定する暴言と言わざるを得ない。経済性一辺倒の姿勢を省みてもらいたい。
 高裁支部は運転差し止めは認めなかったとはいえ、結論を導く過程で基準地震動を上回る地震の可能性にも言及した。政府や九電は重く受け止め、住民の不安に向き合わねばならない。

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