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高浜原発3号機が停止

 大津地裁から運転差し止めの仮処分決定を受けた関西電力高浜原発3号機が原子炉の運転を停止した。4号機も別の不具合で停止しており、再稼働から短期間で発送電ともにできない事態になった。

 初めて営業運転中の原発が住民側の訴えによって止められた。2011年の東京電力福島第1原発の過酷事故後、「世界一厳しい」とする新規制基準を設け、それに合格した原発に限って再稼働を進める政府にとっても、出直しを迫られる事態だろう。

 決定には、市民の不安をくみとった画期的な判断という評価の一方、国際的標準から外れた判断という批判も出ている。仮処分のため確定的ではないものの、政府や電力会社側が謙虚に受け止めなければならない指摘を含んでいる。

 その最大の点は、新基準そのものに疑問を突き付けたところである。

 原発の安全性をめぐる裁判では、これまで専門的知識や資料を持つ行政庁が審査過程の合理性を立証すればよかったが、大津地裁の決定は電力会社に厳格な安全性の立証を求めて、その主張や説明の不十分さを指摘した。

 過酷事故を想定した設計思想や外部電力に依拠する緊急時対応、耐震基準の策定、津波対策、避難計画に疑問を示している。原子力科学の専門家ではない裁判官が、踏み込んだ判断をしたことは住民側の不安を重く見た結果である。

 今回の原告は高浜原発から70キロ離れた滋賀県の住民たちだ。これまで政府や電力会社は、再稼働の同意を得る地元の扱いについて、立地自治体以外は当事者ではないという立場を貫いてきた。

 従来であれば原告になる資格の上で退けられるところだが、決定は「環境破壊の及ぶ範囲は、わが国を越えてしまう可能性さえある」と広く認めた。判断は事故発生の科学的判断に基づくというより、現に起きた福島事故の反省に立つものだろう。

 関電は高浜のほか美浜3号機、大飯3、4号機と所有する原発全ての再稼働手続きを同時並行で順調に進めてきた。人員体制も十分で、新基準が強化したテロ対策や老朽化対策といった難しい課題にも取り組んできた。

 しかし、決定は関電側の説明不足を何度も指摘している。安全レベルについての根拠を詳しく具体的に説明しようとしなかった。新規制基準を満たしているという主張しかできないのでは、安全の責任を規制委に押しつけているのも同然である。

 司法については国の原発推進策を追認してきたという見方もされているが、原発の稼働禁止は3例になった。昨年4月に福井地裁は高浜原発に関して「想定を超える地震が到来しないというのは楽観的だ」と基準見直しを迫った。

 原発の安全性を疑う裁判官が増えているかどうかは不明だが、科学的正当性だけではなく、市民のそこはかとない不安をも払拭(ふっしょく)する説明が求められるようになったのは確か。電力側には厳しいものの、それほど福島事故の代償は大きいと言える。

 今回の決定は、電力会社が新基準さえクリアすればいいと考えるのは、新たな慢心であることを示唆している。新基準の運用でも「安全神話」に陥らないことが肝要だ。(宇都宮忠)

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