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川内原発の「想定外」を想定する  連載その1(2回に分けます) 熊本地震級が襲ったら何処が壊れるか 「弾性範囲」ではない川内原発 山崎久隆(たんぽぽ舎)

◎ 熊本地震は、現在もまだ「何が起きてもおかしくない」「何が起きるか分からない」と地震学者が口をそろえて警報を発している地震である。
 1947年に発生した福井地震をきっかけに制定された「震度7」(周期1秒で600ガル以上、周期0.5秒ならば850ガル以上)は、その後実際に計測されたのは3回。ところが今回の熊本地震は3日間で2回にわたり観測された。
 規制委員会は何をもって運転に支障無しとしているのだろうか。
 まず、地震の規模については、1回目がマグニチュード6.5、2回目が7.3と、原発で想定される地震よりもずっと小さい。日奈久(ひなぐ)、布田川(ふたがわ)断層帯を含む断層で最大でマグニチュード8.1を想定している。
 川内原発の位置では直下ではマグニチュード6.1(2004年の「北海道留萌支庁南部地震」)の地震により解放基盤表面の揺れで620ガルと評価している。
 熊本地震の発生した断層系で起きる大地震を想定しても川内原発の位置では150ガルにしかならないという。
 総合して熊本地震が既知の断層活動に収まるならば川内原発に影響は与えないとの考え方だ。
 何が不足しているのかこれではっきりする。川内原発の位置で未知の断層活動によりマグニチュード7クラスの地震が起きることなど想定外。さらに現在の地震活動が甑(こしき)断層系に至る長い断層系を動かすような活動することも想定外。また、別府湾、豊後水道、瀬戸内海へとつながる中央構造線に沿って活動が北上することも想定外である。

◎ 「弾性範囲」の根拠

 記者会見で原子力規制委員会・田中俊一委員長は「620ガルの地震でも川内原発は弾性範囲」と述べている。何が弾性範囲なのか詳細には語っていない。考えられるのは原子炉建屋の躯体構造(耐震壁を含む建屋の骨組み構造)の話だろう。
 しかし地震応答解析の資料は、図面を含めて多くのページが「白抜き黒枠」で掲載されている。読めるページには解析結果だけが載っている。耐震計算の結果が本当に正しいのかデータが読み取れないので確認できない。
 「再稼働阻止全国ネットワーク」は規制委員会に対して異議申立を行う中で、このような記載箇所があまりに多いと何度も抗議してきた。報道でも指摘されている。
そのうえで規制委員会がこのような主張を繰り返すのは本当に許しがたいことだ。
 九州電力と規制庁が一体になって解析事実のデータを隠ぺいしながら「原発は安全」を繰り返す不誠実極まりない現実に、報道も市民も騙され続けていることを指摘する。

◎ 弾性範囲ではない

 そんな情報隠蔽文書の山の中にも実態の一端が垣間見えるところがある。
 躯体ではなく様々な配管類を評価した部分に、とてつもない数値が記録されている。
 最もひどい結果を出したのが、「安全注入設備配管」の解析だ。この配管は名前の通りならばECCS系統の配管のどこかである。構造的に厳しくなるのは管台(ノズル)付近か枝分かれ部かエルボ部(屈曲部)のどこかだろう。
 一番最後まで生き残ることを要求される非常用配管が、公表されている限りでは最も厳しい数値なのだから信じられない世界だ。
 具体的には地震力と温度、圧力の合成(一次+二次応力)が発生値845メガパスカルであるが、この配管に許容される応力値は344メガパスカルである。
実に許容応力の2.5倍もの力が掛かる。これでは間違いなく塑性変形を起こす。
 実際に許容値さえも弾性範囲を超えた値を採っているのだから当然だ。
 さらに問題なのが累積疲労係数だ。これは1を超えると破壊する危険があるが、一回の地震で0.555、2回になると単純に2倍すれば1.12になって破損の危険性が一気に高まる。熊本地震のように同程度の揺れが2度襲うと想定したら、この場合は持たないことになる。弾性範囲ではないことがリスクを急激に上げるのだ。

◎ ご都合主義の耐震計算

 原発の配管類は、これまでは弾性範囲で作られてきたと記録されている。旧耐震設計審査指針に基づき地震応答解析をしていた時代またはそれ以前に、今の原発は全て建てられている。(旧耐震設計審査指針策定は1981年6月12日)
 基準地震動S2は372ガルであり、この値で十分耐えられる設備ならば合格した。この値で計算した弾性範囲に設備のほとんどは収まっていた。
 しかし2006年に耐震設計審査指針が改定され、その後川内原発は基準地震動が540ガルに引き上げられた。
 その後、新規制基準に基づく規制委員会の適合性審査の中で、影響を受ける地震の見直しなどを経て620ガルが基準地震動の値になった。
 基準地震動を上げ続けていたが、設備の本質は変わっていない。計装系を含む配管類を強化しようと思えば厚みを増すのが手っ取り早いが、配管が1ミリでも太くなると構造を通せない。特に冷却系配管は断熱材を巻くので太くすると定められた隙間を維持するため建屋の配管口を大きくせざるを得なくなり大規模工事になる。つまり配管を通せないことになる。
 そのためもともとの設計で作った配管が、620ガルでも耐えられるという作文をし続けてきたのが工事認可申請の姿だった。強度不足に陥っているのを隠すために、「商業上の秘密」を口実に白抜き黒枠にしたとしか思えない。
 配管や建屋には普段から重さや圧力がかかるので、一定の強度が求められる。それに加えて地震の影響を受ける。
 常時高温高圧の冷却水が流れる主配管は、元の強度が高いので、地震の力を大きくしても「余裕」の中に収まる。しかし通常でも脆弱な蒸気発生器の細管やECCSのように口径の小さい配管などはもともと余裕が少ないのでたちまち厳しくなる。
 蒸気発生器の細管は許容値492メガパスカルであるが、応力は563メガパスカルに達している。地震の揺れで変形する可能性がある。もともと傷があれば破断するかも知れない。

◎ 地震で破壊される場所

 最初に何が壊されるかを知るには、工事計画認可申請に書かれた地震解析の資料を読むしかない。
 最も脆弱なのが「安全注入設備配管」で、他に応力が許容値を超えている設備としては「主給水設備配管」「蓄圧タンク注入管台」「充てん管台」がある。なんと一次冷却材系統が全滅だ。さらに驚くべきは累積疲労係数が0.5を超える設備が「加圧器サージ管台」「一次冷却設備配管」である(いずれも1号機)
 特に加圧器サージ管台は累積疲労係数が0.723である。
 2度のマグニチュード7クラスの地震で破損する設備は、上記設備群である。もちろん外部電源系統や内部電源設備(メタクラ等)も破壊されるだろうから、電源喪失状況下でこういった配管類が破壊される。
 特に深刻なのは、加圧水型軽水炉特有の加圧器と蒸気発生器だ。これらは脆弱な配管の上に載っていたり10000本を超える肉厚の薄い配管群で構成している。大きな力が2度、3度もかかれば、破損する危険性が極めて高く、かつ破損して一次冷却材喪失事故に至ると止める術がないのである。

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