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最新の住宅も倒壊の危険

 大地震のあとで、壊れた家を丹念に調べている人たちがいる。建築関係者たちだ。
 その結果、4月の熊本の地震で恐ろしい事実が明らかになった。耐震基準が最高という最新の住宅でさえ壊れていたのだ。
 阪神淡路大震災(1995年)以降は、新たに「2000年基準」が適用されることになった。この基準で柱や梁(はり)の接合部の接合方法や耐力壁のバランスなどの規定が厳格化された。それゆえ、それ以後に建てられた家は、以前のものよりも地震に強いはずだった。
 2000年以降に完成した木造住宅の被害で、なかでも衝撃的だったのは、性能表示制度の「耐震等級2」で設計していたある住宅で、1階が潰れてしまったことだった。「耐震等級2」とは、2000年基準よりもさらに強い1.25倍の強さに相当する。
 それよりもっと前、1981年以降で「2000年基準」が導入される前に完成した「新耐震基準」の住宅被害はもっと大きかった。約100棟のうち、6〜7割が倒壊したり大破してしまっていたのだ。これは同じマグニチュード(M)7.3の阪神淡路大震災以上の壊れ方だった。
 もともと九州は大地震がないと信じられていた。毎年のように襲って来る台風が一番の自然災害で、地震は二の次だったのだ。このため、熊本の場合は、地震に耐えるという施工の慣習が甘かった。
 たとえば外装に使われている「サイディング下地」に「構造用」という強い合板が使われていない。それゆえ耐震性能は「筋交(すじかい)」だけに頼っている。筋交とは柱や梁の間に斜めに入れる補強材だ。
 だが筋交には樹種、無節などの使用規定がない。そのうえ筋交の中間部が固定されていない建物が多かった。それゆえ筋交が挫屈して、建物が大破してしまった例が多かったのだ。
 しかし九州には限らない。日本人の多くが住んでいる2階建て木造住宅のほとんどは、構造計算をしないで建てられている。
 「建築基準法」では3階建ては構造計算が義務だが、2階建てまでは、しなくても、違法でも手抜きでもない。
 つまり家を建てる「耐震基準」は大地震のたびに強くなってはいるが、実際の施工は構造計算を行わず、地震に対する強さは建築した業者にまかされているのである。
 「基準」では、建物の大きさによって筋交や耐震壁の量や金物の使い方は決まっている。だが、それで本当に足りているのかとか、柱や梁の大きさは大丈夫かの検証はされていないのである。
 最新の基準だったこの地震で壊れてしまった熊本の家の設計を構造計算にかけてみたら、ほとんどの項目でアウトになった。
 構造計算をしないで建てた建物でも、構造計算するとアウトになる。そして、本当に倒壊してしまった、というのが、この熊本での倒壊なのだ。
 さて、あなたの家は大丈夫なのだろうか。

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