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熊本地震での地盤増幅

 日経ホームビルダーに『地盤増幅 揺れが2倍以上に増幅した地域も』という記事があった。
 防災科研の先名重樹・主幹研究員は、地震後に益城町の50カ所以上で実施した極小微動アレイ調査のデータを収集し、建物の被災度と表層地盤増幅率や卓越周期の傾向を解析した(下図参照)。表層地盤増幅率は台地上部から南に向かって徐々に増し、台地低部が1.6〜2倍、秋津川沿いが2.8倍以上となった。被害が軽微だった秋津川沿いのほうが、増幅率は大きい。
 先名氏は、「増幅率が大きいからといって被害が大きくなるとは限らない。今回は地震によって表層地盤が壊れて非線形化したことで、台地低部の増幅率は1.6〜2倍よりもっと大きくなり、逆に秋津川沿いは増幅が抑えられた可能性がある」と指摘する。非線形化とは、強い地震動によって地盤のひずみが大きくなり、柔らかくなる現象だ。
 産業技術総合研究所(産総研、つくば市)の長郁夫・主任研究員も、S波速度断面図から非線形化の可能性を指摘する。台地低部の表層に軟弱層が10m程度あり、秋津川に向かって徐々に厚く柔らかくなり、工学的基盤(支持層)が深くなっている。長氏は「この地盤構造なら秋津川沿いの被害が一番大きくなるのが自然だがそうならなかったのは、非線形化したからだと思われる」と話す。
 吉見氏は「台地低部では、卓越周期がちょうど1秒程度になるように表層地盤が非線形化し、周期1秒付近の地震動が増幅して大被害につながったと考えられる。一方、秋津川沿いでは表層の軟弱層が台地低部より厚かったため、非線形化によって地盤の卓越周期がさらに長周期側にシフトし、周期1秒程度の波の増幅が抑えられた」と推定する。

 建物の地震被害を評価するには、建物自体の耐震性に加え、地盤の特性にも影響される。地震動の地盤増幅を検討するには、地盤構造が明らかになる必要がある。益城町では地震後多くの微動観測が行われているが、地盤構造を明らかにするために異なる研究機関・研究者によって得られたデータは統合されたりするのだろうか。個々の研究者のレベルにとどまっているなら、もったいないことだ。
 地盤の非線形と簡単に書かれているが、どのように非線形化するのか、その非線形性をどのように評価したらいいのか。この地域のボーrングデータをみると地表から10mくらまいまではN値は10以下であり、非常に軟弱といえる。こうした地盤が地震時にどういう挙動をするのかなど課題は山積みというところか。
 ちなみに、上の図では住宅の被害判定が全壊から無被害まで示されている。このデータはどこから得られたものだろうか。日本建築学会の悉皆調査エリア以外のデータも含まれているので、建築学会以外の調査データを用いていると思われるが。

コメント一覧

1. うさじい 2017年03月08日 08:13
 地震は動的な問題なので、微動観測で地盤の揺れや耐震問題を解明しようという手法はそれなりに意味があると思います。それは、多くのデータを取るのに地震が頻繁にある訳ではないし、何時どこで起きるかわからないので常時起こっている微動を研究対象としている訳です。しかし記事の中にもある様に微小変形領域と大変形領域では線形・非線形の問題が付いて回るので定性的な事はわかっても大地震時の挙動までも定量的に推定するという事には限界があります。
 そんな中、熊本地震の前震(2016.4.14)直後に大阪大学大学院の秦吉弥氏が強震計を益城町内に複数設置し、本震(2016.4.16)の揺れを捉えたものが公開されており、それらとKik-net益城、益城町役場の地震波をスペクトル解析した結果が発表されています(※1)。これらの地震計を包含する円を描いてみると直径1,040mになります。最大応答加速度を比べてみると大きいもの(5,700gal)と小さいもの(3,000gal)では倍-半分近い開きがあります。最大応答速度も大きいもの(850kine)と小さいもの(390kine)では倍-半分以上の開きがあります。
 ※1 日本建築学会構造委員会木質構造運営委員会『2016年熊本地震による木造建築物の被害調査報告会』2017年1月 p.87

2. うさじい 2017年03月08日 08:14
 現在では、強震記録はK-net、Kik-net(約20km四方のグリッドに設置)に頼らざるを得ないのですが、それはその位置(ピンポイント)での記録であって、約20km四方の範囲でも同様な揺れが起こっていたとは思わない方が良いという事がはっきりしました。この事は中小地震では観測されてきた事(※2)ですが、震度7の地震では初めて観測されたのではないでしょうか。半径僅か500mの範囲内でも地盤の成り立ちによって揺れは全く違う と考えるべきだという事です。
 ※2 土木学会地震工学委員会ローカルサイトエフェクト小委員会『地震動のローカルサイトエフェクト―実例・理論そして応用』 2005年4月 p.99 
補足)ローカルサイトエフェクトに関しては、2009年8月28日のコメント(3〜5)でも議論させていただいています。

3. TKYM 2017年03月08日 09:33
 コメントありがとうございます。
 局所的な地盤増幅をどう評価し、設計に反映するのか、が必要となりますが、その評価方法はいまだ十分確立されているとはいえないと思います。結局は、建物側である程度余裕を見込む必要があるということになるでしょうか。

4. うさじい 2017年03月08日 11:13
 ローカルサイトエフェクトには地震波の重複反射による影響も含まれていると思われますので、波の到達方向のバリエーションまでを考えると予測不能です。
 熊本地震では耐震等級3の住宅に大した被害は無かったという報告でしたが、それはたまたま地震動が大きく増幅したエリアに建っていなかったと解釈すべきだと思います。
 中川貴文先生(国総研)が阪大の波(TMP-3 EW)で個別要素法で時刻歴応答解析した結果では基準法レベルの壁量(=壁倍率×壁長さ)の2.2倍(耐震等級6?)無いと倒壊は免れないという結果を発表されています。
https://youtu.be/Cu6lapI3LOk

5. TKYM 2017年03月08日 12:36
 現在、耐震等級は3までですが、等級5くらいまであった方がいいと思うのですが。そうすると等級3はちょうど真ん中になって、これが普通?とならないかと。通信簿でも3あればまぁまぁと思えるのと同じ感覚ですが、お金の問題などもあり簡単ではないでしょうね。

6. うさじい 2017年03月10日 03:22
 うさじいはそれを見届けられないかも知れませんが、おそらく30年後くらいには耐震等級3が普通(基準法も改正)になっていると思います。
 だって世界から「クール(賢い)ジャパン」とか言われている日本人が、数年に一度日本のどこかで起こっている大地震の度に大量の仮設住宅を建てることを余儀なくされ、何千、何万人の「地震難民」を作っているなんておかしい(賢くない)でしょう。


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