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次の大地震は伊予灘・薩摩西方沖を警戒せよ 予測のプロ・村井俊治氏が語る「熊本の次」


 測量工学の第一人者である村井俊治・東大名誉教授(76)が顧問を務める民間企業、地震科学探査機構(JESEA、橘田寿宏社長)は、人工衛星から見た、国内約1300カ所ある国土地理院の電子基準点の水平・上下の位置変動データを震度5以上の地震予測に活用。週刊のメールマガジンでその情報を発信してきた。最近はNTTドコモの支援を得て迅速に状況が把握出来る基準点を増やし、予測精度の向上に努めている。
 ただ、熊本地震については、2年前から予測していたものの、発生直前に注意情報を解除してしまい、批判を浴びる羽目になった。この「空振り」の真相や、今後の警戒ポイントや地震発生予測の課題などを聞いた。

――地震学の専門家ではないのに予測を始めた経緯は?

 定年退職2年後の2002年に、先輩の荒木春視・工学博士から、測位衛星のデータを使って地震予測ができそうだから一緒に研究しないかと誘われ、第二の人生のテーマだと考えた。2人で申請した「地震・火山噴火予知方法」の特許が2006年に認められた。そして2000〜2007年に発生したマグニチュード6以上の地震162個全てを追跡調査した結果、期間はバラバラだが、地形に何らかの前兆が必ず起きていたことが判明した。
 東日本大震災でも前兆を認めていたが、情報発信できないまま2011年の発生を迎えた。歯がゆさもあって2013年1月17日、阪神・淡路大震災の記念日に橘田氏とJESEAを立ち上げ、同年2月にメルマガ配信を開始。その後も大地震の発生を言い当て続けて評判を呼んだ。当初24人だったメルマガの個人会員数(月額料金は200円プラス消費税)は現在、5.5万人に達した。

熊本地震では「気持ちがブレた」ため直前で解除

――だが、熊本地震では2年前から危険性を指摘し続けたものの、間の悪いことに発生の約1週間前に注意情報を解除してしまった。

 「気持ちがブレた」と言うしかない。異常があったら必ず地震が来るという信念を持っていたはずなのに、揺らいでしまった。2014年5月から出し続けてきた熊本・鹿児島周辺での地震発生注意情報は今年1月末まで、2月末まで、と何度も延長を続けたが、メルマガの4月6日発行号で解除した。
 熊本県にある国土地理院の電子基準点22カ所のうち、明確に異常な変化を示し続けたのが2つしかなかった点も理由の一つだ。何度も延長した後で「このまま注意情報を出し続けても」と考えて取り下げてしまったのだが、その1週間後にドーンと来てしまった。これにより、数多くの暴言をネット上などで浴びた一方、励ましもいただいた。

――熊本地震は発生1カ月を経て落ち着いたようにも見えるが。

 熊本地震後の周辺地体の変動観測図。色は上下方向、三角形の矢印は水平方向をそれぞれ示す (JESEA提供)
 落ち着いてはいない。地震の日を起点に地面は動く。東日本大震災の際も、日本列島全体が動きに動き、国土地理院がその後半年間、電子基準点の座標を固定できなかったほどだ。世界の電子基準点の動きを見ると、地球がいかに柔らかいか分かる。
 プレートを細かく区分けした存在である「地体」は、海の上に乗っている大きな船のようなもので、沈降と隆起を繰り返しながら絶えず、個別に方向を変える。東日本大震災の時には、地震がないと言われる韓国や北京、グアムの周辺でも、事前に動いていた。

伊予灘や薩摩半島の西方沖は引き続き要注意

 熊本地震でも、周辺の地体が引きちぎられるように東西南北に動いた。四国の足摺岬と室戸岬周辺の地体の動きは熊本地震によって逆方向に変わっており、歪みが溜まっている。特に中央構造線の延長線上にある伊予灘は要注意。熊本から見て逆方向に当たる薩摩半島の西方沖などでも、大地震が起きる可能性がある。
 また、阿蘇山が噴火しない保証はない。江戸時代の巨大地震だった宝永の大地震(1707年)の49日後に富士山が噴火した例もある。尋常ではない動きをしていると思っている。 

――愛媛県の佐田岬半島には休止中の伊方原発、薩摩半島の西岸には稼働したばかりの川内原発があるが、大丈夫なのか。

 原発の安全性は地震予測と異なる次元の話なので、コメントは控える。

――予測精度を高める方策は?

 国土地理院がネット上で無料公開している電子基準点のデータは、2週間遅れで精度の良いものと、最短2日遅れで精度が粗めな「速報」の2種類。ただ、東日本大震災に関しては被害が大きかった基準点で、3日前から位置データに異常が出ていた。
 このため、自前の電子基準点を持って補完すれば、発生の数日前の注意喚起をできると考えた。熊本でも自前の電子基準点があれば、もっと詳細に動きをつかめたはずだ。
 国土地理院は実は秒単位で基準点の変動を捕捉している。しかし、地図作成用の測量が使用目的のため、われわれが欲しいデータ形式では提供されていない 。

基準点を100カ所程度まで増やす

――ドコモによる支援の詳細と今後の展開は?

 村井俊治(むらい しゅんじ)/東京都生まれ。 1963年東京大学工学部土木工学科卒。1983年に東大生産技術研究所の教授となり、1992〜96年に国際写真測量・リモートセンシング学会(ISPRS)会長。2000年に東大を定年となり名誉教授に。2007〜2015年に公益社団法人である日本測量協会の会長を務めた。2013年から地震科学探査機構の顧問(撮影:梅谷秀司)
 ドコモには現在、伊勢志摩サミットが開かれる三重県の賢島と、神奈川県の三浦半島の2カ所にある基地局に、実験として電子基準点を置いてもらっている。データ電送は高速回線経由だ。これ以外にJESEA自社の基準点を、神奈川県内の小田原と、関東大震災の震源に近い大井松田に設置。以上4カ所のデータをリアルタイムでウオッチしている。
 ドコモは今年中に、基準点を14カ所ほど追加してくれる計画で、JESEA自社の基準点と合わせて18カ所になる。将来的にはこの数を100カ所程度まで増やしたい。そうなれば予測の体制は盤石になる。2020年には衛星による位置観測の精度がミリ単位に達すると言われており、大きな成果が見込めるはずだ。

――南海トラフ地震などでは「何年後の発生確率が何%」などの予測がささやかれているが、こうした形での情報提供はしないのか。

 地面の状態は刻々と変わる。1回行った予測がそれで固定できるわけではない。人工衛星によって日々観測を続け刻々と地面の異常変動を分析して地震発生の可能性を予測できる点が、他にはない、われわれの持ち味だ。
「何十年に何%」という予測方式は、40年くらい前に確立された「グーテンベルグ・リヒター則」という原理に基づいている。しかし、これは過去に地震が観測された場所でなければ通用しないし、計算の根拠を知っている人はほとんどいない。いつかはそこに大地震が来る、という程度にしか意味をなさないと考えている。

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