[2020_03_25_06]「原発の闇」を利用した関西電力首脳の罪と罰(東洋経済オンライン2020年3月25日)
 
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「原発の闇」を利用した関西電力首脳の罪と罰

 関西電力の原子力発電事業でのおびただしい不正行為が、同社の第三者委員会の報告書(3月14日付)で明らかになった。
 同報告書によれば、原子力発電所が立地する福井県高浜町の助役に対し、関電が長年にわたって不祥事のもみ消しや原発反対派の切り崩し工作を委ねてきた。そして助役が退任した1987年以降は、元助役と緊密な関係にある業者を工事案件の発注で優遇。その見返りとして関電や子会社の幹部が、元助役本人や元助役の関係する企業から多額の現金などの金品を受け取ってきた。
 報告書によれば、金品受領者の総数は75人、総額は約3億6000万円にのぼる。電力業界のみならず、日本の経済界でも前代未聞の不祥事はなぜ起きたのか。
 原子力事業のコスト問題に詳しい龍谷大学の大島堅一教授に、同事業特有の「不正の構図」について聞いた。

■読みごたえがある調査報告書

 ──報告書を読んでどのような印象をお持ちになりましたか。

 関西電力と高浜町元助役の森山栄治氏との間で、原発の立地や増設時点にまでさかのぼって不正な関係が築かれていた事実の一端が明らかにされた。
 第三者委員会が実施したデジタル・フォレンジック調査によって、関電社内の電子メールの中身などが解析され、とくに原発再稼働のための新規工事に森山氏の息のかかった業者が群がっていることや、そうした企業に関電が受注できるように約束したり、随意契約などの便宜供与が繰り返し行われてきたことが判明した。
 また、関電の豊松秀己・元副社長をはじめとする原子力事業の上層部3人に集中的に金が流れており、社内のルールを曲げて受注を得られるように森山氏と親密な企業に便宜を図ってきた実態も明るみに出た。調査結果は相当踏み込んだ内容で、読みごたえがある。
 他方、国(経済産業省)や政治家、福井県、地元自治体、県内外の有力企業との金のやりとりや口利きの実態はほぼ調査対象外となっている。福井県や高浜町の職員も森山氏から金品を受け取っていたことが判明したが、今回の報告書ではそれらの不正の実態は解明されていない。また、電気料金を原資とした電源三法交付金にかかわる公共事業についても調査の範囲外となっている。

 ──不正の構造をどのように捉えますか。

 関電は地元対策と称して、森山氏と親密な工事会社に多額の発注をしている。その原資は電気料金だ。その一部が業者や森山氏を経由して関電の首脳や幹部に還流していた。電気料金からにじみ出た甘い汁を、みなで吸っている構図だ。
 関電の社内調査報告書では、過去の原発立地にまつわる「闇の部分」を材料に、関電の幹部らが森山氏の恫喝に苦しめられてきた被害者であるかの書きぶりになっているが、今回の第三者委員会の報告書で共犯関係と記述されていることが注目される。

 ──こうした癒着の構図は、原子力事業に特有のものだと言えますか。

 電力業界において、原子力事業ほど多額の金が落ちる分野はない。工事単価を高めに設定したり、地元対策と称して特定の企業を優遇していると言われてきた。こうした仕組みそのものが不正の温床になっている。関電に限った問題ではない。

 ──関電の役員は、会社に損害を与えていることになりませんか。

 役員や幹部に原発マネーが還流しているということは、不必要な金が払われているという観点で捉えると、会社に損害を与えていることに等しい。

■原発ビジネスは成り立たなくなる

 金品授受という不祥事が社内で発覚した後、森詳介相談役、八木誠会長、岩根茂樹社長(いずれも不祥事が社内で発覚した2018年当時の肩書)は社内調査の内容を隠蔽することを取り決め、取締役会や翌2019年の株主総会でも報告されなかった。
 これは株主や電力の消費者、一般社会に対する重大な背信行為だ。関電にはコーポレートガバナンスそのものが存在しておらず、コンプライアンスよりも原発事業を優先している。不正が蔓延し、責任感が欠如している。関電は、重大事故の危険の防止が何よりも求められる原子力運営を担う企業としての資質を欠いており、社内処分だけでは不十分で、電気事業法に基づく厳正な処分が必要だ。

 ──今回の不祥事は今後、原発事業の推進にどんな影響を与えるのでしょうか。

 原子力事業が不透明で不正な金によって支えられていることが認識され、信頼は根底から崩れた。一方、事業の透明性を高めなければならなくなると、原発の新設やリプレース(建て替え)はいっそう困難になる。というのも、これまでのような不透明な金の流れが断ち切られると、地元としても新たに原発を受け入れるメリットがなくなるからだ。
 今後、原発は普通のビジネスと同様の扱いをすべきだが、そのことにより原発はビジネスとして成り立たなくなるだろう。

岡田 広行 :東洋経済 記者

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