[2020_03_25_05]福島震災から9年 いまの喫緊の課題は何か−5つ 福島第一原発の耐震性と津波問題 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)(たんぽぽ舎2020年3月25日)
 
参照元
福島震災から9年 いまの喫緊の課題は何か−5つ 福島第一原発の耐震性と津波問題 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)


 あの震災から9年が経った。
 福島第一原発事故では最大約17万人が避難した。
 現在も「帰還困難区域」を中心に避難は続く。
 この9年間、何が課題だったのか。原発事故にフォーカスして問題点を記載する。
 言うまでもないことだが「残された問題」ではなく、当時から今も変わらぬ、むしろ深刻さを増して存在し続けている問題といった方が良い。

1.福島第一原発の耐震性と津波問題

 東日本大震災で損傷を受けた福島第一原発では廃炉作業が続けられている。
 しかし原発として運転をしているわけではないので、新規制基準適合性審査の対象にならない。
 そのため、震災以前の耐震基準である基準地震動600ガルを基に耐震評価がされている。稼働中ではなくても、炉心溶融し圧力容器内に崩れ落ち、圧力容器下のペデスタルにも落下したガレキを地震や津波の影響から守られなければ再び大規模放射性物質の拡散事故が起きる。
 東電原子力センターに対して耐震性に問題はないのかを繰り返し問うているが、過去の耐震モデルについての説明を繰り返すにとどまっている。
 しかし、再稼働原発の審査を見れば分かるとおり、新しい知見で耐震評価をやり直している。それが新規制基準のルールだ。廃止した福島第一原発、さらに東海再処理工場でも、それが適用されていない。
 核燃料や廃棄物が全て抜き取られて安全性が確保されているのならばまだしも、核燃料の形も失った溶融燃料、つまりデブリという不安定な状態にある炉心の耐震評価が、破壊されボロボロになった原子炉建屋に格納されている状態で、破壊されていない原発よりも基準が緩いのは問題だ。
 東電が今の段階で不安視していることが明らかなのは、格納容器に繋がっているサプレッション・チェンバー(※)の健全性である。
 ここには高濃度汚染水が溜まっているので、地震により格納容器が揺れると、サプレッション・チェンバーとのつなぎ目が破壊される恐れがある。それは大規模放射性物質拡散事故につながる。
 水を抜いて密封し、耐震性を高めたいところだが、抜く方法が定まっていない。
 事故から9年も経って、このような状態である。
 津波対策も進んでいない。
 10メートル盤にある建屋の防水工事は終わっていないので、敷地が浸水すれば3・11と同様に大量の海水が流れ込み、汚染水となって放射性物質を海に流してしまう。
 例えばタービン建屋の地下はおおむね水を抜き取り床が見えるところまできている。
 その後にモルタルなどを充填するのかと思えば、そういうことはしないという。充填してしまうと放射性廃棄物が増えるからだ。
 しかし津波はもちろん、大雨などでも再冠水すれば汚染水は増える。
 充填しておけばその体積には水は浸入しない。
 いずれにせよ建屋の撤去が可能な段階は未だ遠く、汚染物が増えるどころか汚染物の体積すら分からない現状では、東電の説明は無理な言い訳にしか聞こえない。
 原子炉建屋を含め建屋の地下空間を全てモルタルや樹脂などで充填していけば、少なくても耐震性の強化にもなり、放射性物質に汚染されたものが地下や地盤に侵入するのを抑える効果はあるはずだ。

(※)サプレッションチャンバー(S/C:Suppression Chamber)
 D/W(ドライウェル−フラスコ型の容器)とベント管でつながっている格納容器下部のドーナツ型の容器。1号機で1,750トン、2〜4号機で2,980トンという大量の水を蓄えている。
 「福島第一原子力発電所の概要」より
http://pub.nikkan.co.jp/uploads/book/pdf_file50d10a39cba91.pdf

2.福島第一原発の汚染水問題

 「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」は2020年1月31日、国への意見書で汚染水については海水と混ぜて希釈して排出するか蒸発させて大気に放出する方式を「提言」している。
 これを受けて国が汚染水対策の方針を決定するようだが、800兆ベクレルを超えるトリチウムなどに汚染された水を、海や大気に放出することは人為的放射性物質の拡散に他ならない。
 事故により90京ベクレル(ヨウ素とセシウム)を放出した後にも放射性物質の放出は続いており、東電によると2019年には年間10億ベクレル(セシウム換算)に達している。まだ環境を継続して汚染している。
 トリチウムなどの海洋・大気放出は、これに付け加わるので影響を加算して考えなければならない。
 また、汚染水にはトリチウムだけでなくセシウムもストロンチウムも含まれており、海洋に放出する場合、その前に多核種処理施設等に通して告示濃度以下に下げることはできると東電は言うが、言い換えれば汚染水対策として告示濃度程度の放射性物質を放出するという意味だ。
 ちなみに告示濃度はセシウム137で90ベクレル/リットル、ストロンチウム90で30ベクレル/リットル。
(*)告示濃度;この濃度の水を公衆が生まれてから70歳になるまでの期間飲料水として飲み続けたとき、平均線量率が1年当り1ミリシーベルトの実効線量限度に達するというモデルに基づいて計算された濃度のこと。
 2016年11月から始まった小委員会の議論は、結局「海洋放出」へのお墨付きを与えるだけの役割だった。珍しく市民の声を聞く「公聴会」も開いたというのに、そして公聴会では圧倒的に放出反対の声が多かったのに、結論がこれでは意味がない。
 次の段階では経産省による意見聴取が4月から実施される。ここで反対意見が強ければ撤回するべきだが、そうするだろうか。
 国も東電も何かと言えば「地元に寄り添う」という。しかし実行不可能ではない汚染水対策程度の対応でさえ、地元の声を踏みにじって排出へと方針を固めていく。これを許してはならない。

3.福島第一原発の廃炉事業全体は何年遅れか

 工程表に基づく廃炉事業については、最も明確に時期を決めていた「各号機からの使用済燃料移送」でも、現時点で最大5年の遅れを出している。4号機以外は、ほとんど進んでいないといった方が良い。
 原因のひとつは人が滞在できない高線量環境であることで、3号機からは遠隔操作で燃料体移送を行う計画としたものの、トラブル続きでうまくいかないことと、1、2号機についてはガレキの撤去も線量を下げる作業も進まず、移送方式や工程の作成すら出来ないためだ。
 特に炉内調査やデブリの取り出し準備、建屋の汚染水処理などが同時並行で進められているため、狭隘な現場では相互に影響をし合い、作業人員も資金も分散していることも問題として指摘できる。
 「あれもこれも」ではなく、どれを最優先すべきか精査し、人員と資金を集中すべきだ。優先第一は止水と防潮堤、第二が燃料体の取り出しだ。

4.福島第一原発「廃炉」の姿(形)が決まっていない

 ロードマップでは廃炉の完了目標は「30年−40年」とされている。これは大きな問題だ。
 そんな時間では出来ないという以前のこととして、そもそも「廃炉の姿」が決まっていないのだ。
 一般に原子力施設の「廃止措置完了」とは、施設設備を全て撤去し更地にすることを意味する。しかし福島第一原発の場合はそうではなく、決まっていないと東電は説明する。これは、一般原子力施設とは異なる「特定原子力施設」として福島第一原発が指定されたためでもある。
 特定原子力施設とは、原子炉等規制法第64条の2に規定された「災害発生により応急措置を講じた後に、特に管理が必要と認める場合は国が指定する。」に基づく。2012年に福島第一原発事故を受けて一般の原発の廃止措置と同様に扱えないことから条文が追加された。
 第64条第4項には「特定原子力施設については、その実施計画による保安又は特定核燃料物質の防護のための措置の適正な実施が確保される場合に限り、政令で定めるところにより、この法律の規定の一部のみを適用することとすることができる。」とも規定されており、通常の原発の廃炉の根拠法、第43条の3の33とは異なる廃止計画の策定が容認されている。
 そのため、一般の原発では「解体撤去」が廃止措置完了の姿だが福島第一原発はそれが「決まっていない」となっている。
 しかし最終形が決められないのに「廃止措置完了まで30−40年」を決められるはずがない。
 通常の原発でも40年で解体撤去完了は極めて難しい。日本で最も進んでいる東海原発の廃炉処理でも2001年から廃止処理を開始し30年間で全行程を終わらせるとし、2030年度つまり後10年後に終了予定だが、それまでには到底終わらない。
 はるかに困難な福島第一原発は、廃炉の姿も決まらないまま30〜40年で廃止措置が終わることはない。
 まず、廃炉の形を議論することから始めるべきだ。所要時間は、安全を第一に考えながら、その中から見いだしてゆくほかはない。おそらく100年を超えることは覚悟してかかる必要がある。
 このことが整理されないため、汚染水も30〜40年後にはなくさねばならないとか、およそ無茶な話になってしまうのだ。

5.東海第二原発資金支援の問題、耐震性も津波対策も問題
  日本原電の体質はウソで規制委の審査を乗り切ろうというもの

 東海第二原発を所有する日本原電は資金が不足しており、再稼働に必要な安全対策費用を調達することが出来ないため、他の電力からの支援を前提として再稼働の認可と20年の延長認可を規制委から受けている。
 資金問題では、規制委が原子炉等規制法第43条3の6第一項第2号に規定する「経理的基礎」の審査を行う際に、前例にない「資金支援者の意思を確認する」行為として、東京電力などの電力会社への支援申し込みと回答を具体的に示すよう求め、それに対して日本原電は東京電力小早川社長などからの2018年3月30日付の回答書を規制委に提出した。
 しかしこの時点では社長の個人的な意志表明に過ぎず、社内手続きはされていないのに規制委は審査を通してしまった。この時の安全対策費用は1740億円であり、申請書にも明記されていた。
 その後、安全対策費用は膨れ上がり、報道では「3500億円」とされ、日本原電も2018年9月に提出した特重の設置費用を610億円と明記した。審査になかった新たな資金調達が必要なばかりか、審査で見込まれた「1740億円」が実際の半分以下で、裏付けもない過小な金額であったことも明らかになった。
 敦賀原発2号機の断層図面を勝手に書き換えていた事件が発覚したように、日本原電の体質はウソで審査を乗り切ろうというもの。
 このような会社の審査は打ち切るべきであり、東海第二原発の審査書も「ウソで塗り固めていないか」第三者による検証が必要である。
 資金問題だけでなく耐震性も津波対策もだ。
 また、規制委は少なくても、経理的基礎についての審査は改めてやり直す義務がある。(了)
KEY_WORD:FUKU1_:TOUKAI_GEN2_:TSURUGA_:ROKKA_:HIGASHINIHON_: