戻る <<前 【記事61480】反省なき“見切り発車” 伊方原発(大分合同新聞2016年8月13日) 次>> 戻る
KEY_WORD:_
 
参照元
反省なき“見切り発車” 伊方原発

15日から発送電へ
 四国電力は12日午前、伊方原発3号機(愛媛県伊方町、出力89万キロワット)を再稼働させた。同日午後、制御棒を段階的に引き抜くとともに、核分裂を抑えるホウ素の濃度を調整する作業を進めた。13日午前6〜7時ごろに、核分裂反応が安定的に持続する「臨界」に達する見込みで、15日に発電と送電を始める予定。
 安倍政権は原発活用路線を継続し、原子力規制委員会による新規制基準の適合性審査に合格した原発は再稼働させる方針。これまでに合格したのは3原発7基で、いずれも加圧水型と呼ばれるタイプ。
 一方、全国で原発の運転差し止め訴訟などが起こされ、新基準の妥当性が問われる場面も増えている。
 大分県に最も近い原発が再び動きだした。東京電力福島第1原発の反省が生かされたとは到底言えない“見切り発車”だ。
 「3・11」の前、日本では「原発事故は起きない」ことになっていた。いわゆる安全神話だ。規制当局が電力会社に取り込まれて骨抜きになり、世界標準となっている国際原子力機関(IAEA)提唱の多重安全対策「深層防護」も講じられていなかった。
 二度と福島のような事故は起こしてはならないと、多くの国民が思ったはずだ。だが5年余りたち、政府は福島を忘れたかのように原発回帰を進めている。
 福島事故後、政府が「世界一厳しい」と自負する新規制基準が導入された。だが、欧米などと比べどう厳しいのか、経済産業省の担当者は取材に言葉を濁す。深層防護で求められる住民の避難・被ばく対策は再稼働に必要な審査の対象外で、事実上、自治体に丸投げしている。
 伊方原発は細長い佐田岬半島の付け根にあり、事故時には原発以西の伊方町民が孤立する恐れがある。大分に船で逃げる計画もあるが、「机上の空論だ」と実効性を疑問視する声が相次ぐ。熊本・大分地震では多数の家屋が倒壊し、屋内退避ができるのかも疑問符が付いた。こうした計画を合理的とする行政の評価は、「もう重大事故は起きない」との意識の表れではないか。
 原発再稼働の旗を振る国に決定的に欠けているのは、真摯(しんし)な姿勢だ。福島事故の対応を見れば「不都合な事実は隠す」「誰も責任を取らない」という姿は変わっていないように見える。大事故を経ても、日本は何も変わっていないのかもしれない。
 政府は伊方に限らず「原子力規制委員会が基準に適合すると認めた原発の再稼働を進める」とのスタンスだ。一方、当の規制委員長は「適合しているからといって安全とは申し上げられない」と繰り返す。結局、責任はあいまいで、どこが安全第一なのか分からない。井戸川克隆・元福島県双葉町長の「いざという時に政府は逃げる」との言葉は重い。
 伊方原発近くの海域には国内最大の活断層「中央構造線断層帯」が走り、熊本・大分地震が波及する不安も根強い。事故が起きれば広範囲に放射能被害が及ぶ可能性は否定できない。
 原発のために住民にリスクを負わせる正当な理由はどこにあるのか。再稼働後も国民が関心を寄せ続けなければ、国の無責任さを助長してしまうことになる。

理解と納得不可欠
 広瀬勝貞知事のコメント 国や電力会社の責任で徹底的に安全性を検証し、その上で安全対策を強化し、地域住民はもとより国民全体に明確かつ責任のある説明をして、理解と納得を得ることが不可欠だと申し上げてきた。こうした一連のプロセスを経て再稼働に至ったと承知している。県としては、今後の運転、国や電力会社の徹底した安全性の確保を注視していく。

安全の徹底検証を
 佐藤樹一郎大分市長のコメント 原発は国策として総合的に検討していかなければならない課題。再稼働の大前提として安全性の徹底的な検証と安全対策に万全を期してもらいたい。

戻る <<前 【記事61480】反省なき“見切り発車” 伊方原発(大分合同新聞2016年8月13日) 次>> 戻る