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社説 [熊本地震・きょう1週間] 被災者支援に政策を総動員すべきだ

 熊本県を中心に甚大な被害をもたらした熊本地震から、きょうで1週間になる。

 10万人以上の住民が不自由な避難生活を強いられている。支援に全力を挙げるとともに、復旧・復興に向けた取り組みを息長く後押ししたい。

 14日夜に震度7を記録したマグニチュード(M)6.5の地震の後、揺れが減る傾向が続いていたが、16日未明の震度7(M7.3)の本震を境に予測のつかない動きを見せている。収束が見えない余震にも最大限の警戒が必要だ。一連の激しい揺れで多数の家屋やビルが倒壊し、土砂崩れや橋の崩落などが相次いだ。死者はきのうまでに48人となり、行方不明者の捜索も続いている。

 九州自動車道の損壊や九州新幹線の脱線の影響などで、物流や人の往来に重大な支障を来している。復旧を急ぎたい。

 全国で唯一稼働している九州電力川内原発(薩摩川内市)についても、地震を心配する声が上がっている。国や九電は住民の不安に向き合うべきだ。

■避難生活は長期化も
 一連の地震で損壊した建物は、熊本県を中心に九州5県で9000棟を超えた。新たな被害への不安やプライバシーを確保するため車中泊する人が増えている。

 これに伴い、エコノミークラス症候群で亡くなる住民が出るなど「震災関連死」をはじめ、被災者の健康被害は深刻だ。行政は駐車場などで寝泊まりする人を避難者として数えておらず、避難所での対応を優先している。

 大勢の住民が身を寄せる避難所での対応は当然としても、車中泊する住民へのケアなど、早急な取り組みが求められる。

 政府は、お年寄りや障害者といった避難に配慮が必要な人の受け入れ先として、熊本県や九州各県でホテルや旅館約1500人分、公営住宅約2200戸などを確保したという。被災者の不自由な生活の解消に向け、住環境の整備に万全を尽くしてほしい。

 避難生活が長引けば、仮設住宅の建設も必要になる。住民の意向に寄り添いながら、きめ細かな対応が重要だ。

 水や食料など生活物資も十分行き届いていない。自治体に救援物資が到着しても仕分けが追いついていないからだ。ニーズを把握して避難所へ直接送るなど、輸送の円滑化を図るべきである。

 九州新幹線は鹿児島中央−新水俣が6日ぶりに再開した。だが、熊本駅南側で脱線した車両の撤去作業や、熊本県内の高架橋などに多数の損傷が見つかり、全面開通の見通しは立っていない。

 九州自動車道は道路の陥没や陸橋の崩落などで、熊本県内の一部区間で通行止めが続く。大型連休への影響も懸念されている。災害時の代替ルートなどを確保しておきたい。

 政府は、地震の復旧事業への国の補助率を引き上げる激甚災害の早期指定を目指すが、あらゆる政策を総動員すべきだ。

■高まる原発への不安
 地震活動の拡大につれ、川内原発の運転に反対する地元市民団体が原発への影響を懸念し、運転停止を九電に申し入れた。不安は理解できる。

 九電は、14日以降の観測値は最大でも数ガルで、自動停止の設定値までには余裕があるため運転を継続していると説明している。

 地震を受けて開かれた原子力規制委員会の田中俊一委員長も「今の状況で安全上、問題があるとの判断はしていない」と、川内原発の予防的な運転停止の必要性を否定した。

 しかし、これで不安が解消されたわけではない。むしろ高まっていると言うべきだろう。

 地震は、「日奈久(ひなぐ)断層帯」から隣接する「布田川(ふたがわ)断層帯」へ広がり、さらに離れた阿蘇地方や大分県域へ拡大した。日奈久は鹿児島県内に影響が大きい活断層の一つである。震源が南下し、南端の「八代海区間」で起きれば、長島町で最大震度7を観測すると予測されている。

 鹿児島と熊本の県境付近には日奈久以外にも、川内原発に影響が大きいとされる市来断層帯や甑断層帯、さらに出水断層帯などがある。専門家は活断層の位置を正確にはつかめておらず、最大震度7程度の地震はどこで起きてもおかしくないと警鐘を鳴らしている。

 これらを踏まえれば、地震の収束が予測できない現段階での原発の停止も選択肢の一つである。

 地震の影響は四国にも広がった。愛媛県松山市の市民団体が、7月下旬にも見込まれる四国電力伊方原発3号機(伊方町)の再稼働について、「危険極まりない」と訴え、再稼働を断念するよう愛媛県と四国電に申し入れた。

 大分県の対岸にある伊方原発の近くには、中央構造線断層帯がある。田中委員長は「審査で十分検討した」と説明しているが、住民の不安は拭えない。

 国は規制委や電力会社任せにせず、責任ある判断と説明をするべきだ。

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