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社説 [川内原発抗告審] 住民の不安は消えない


 住民の不安や危機感をしっかりと受け止めた決定だったのか疑問が残る。

 九州電力川内原発1、2号機(薩摩川内市)の周辺住民らが再稼働差し止めを求めた仮処分申請の即時抗告審で、福岡高裁宮崎支部は申し立てを退ける決定をした。

 原子炉の耐震安全性について、「原子力規制委員会が新規制基準に適合するとした判断に不合理があるとは言えない」として妥当と判断した。昨年4月の鹿児島地裁と同様の決定である。

 原発の運転差し止めを巡っては、大津地裁が3月に関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)の差し止めの仮処分決定をし、国内で稼働中の原発は川内原発だけとなっていた。

 原発再稼働の是非を巡り司法判断が割れる中、高裁が住民側抗告を棄却したことで、国内の全原発が再び止まる事態にはならなかった。九電は決定を歓迎し、政府は新規制基準に適合した原発はこれまで通り再稼働を進める方針だ。

 しかし、これで原発の再稼働に無条件でお墨付きが得られたと思うのは早計ではないか。住民の不安は依然消えない。

 主な争点は三つあった。耐震設計の目安となる地震の揺れ(基準地震動)の妥当性、火山の危険性の有無、避難計画の実効性だ。

 基準地震動の策定や耐震安全性などについて、決定は「極めて高度の合理性を有する」と指摘した。その一方で、予測を超える事態が起きるリスクがあると認めた。

 それこそが住民の訴えの核心だろう。日本では原発の過酷事故は起きないという安全神話が刷り込まれてきたが、東日本大震災による東京電力福島第1原発事故で崩れ去った。

 住民側が主張した火山の危険性も退けた。破局的噴火について、「発生の可能性が相応の根拠をもって示されない限り、施設(原発)が安全性に欠けるとは言えない」とした。火山学者の多くが破局的噴火の可能性が「十分に小さくない」と考えているのを考慮すれば、軽々には納得できない。

 避難計画についても「住民が主張するように合理性、実効性を欠くとしても、それだけで住民の人格権を違法に侵害するとは言えない」と判断した。

 先に大津地裁が差し止めを認めたのは、ひとたび事故が起きれば原発から遠く離れた住民にも被害が及ぶ恐れがあるからだ。

 差し止めの訴えが却下されたからといって、安全が確保されたわけではない。電力会社や国などは「再稼働ありき」に走らず、住民の不安や疑問に向き合うべきだ。

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