戻る <<前 【記事50141】社説 大震災5年 高浜運転差し止め 国は脱原発にかじを切るべきだ(愛媛新聞2016年3月10日) 次>> 戻る
KEY_WORD:_
 
参照元
社説 大震災5年 高浜運転差し止め 国は脱原発にかじを切るべきだ

 立地県以外の住民の不安を正面から受け止めた重い判断といえる。関西電力高浜原発3、4号機(福井県)の運転禁止を滋賀県の住民が申し立てた仮処分で、大津地裁が運転を差し止める決定をした。停止中の4号機は再稼働できず、運転中の3号機は停止させることになる。
 山本善彦裁判長が重視したのは、東京電力福島第1原発事故を踏まえた過酷事故対策の不十分さだ。「設計思想や外部電源に依拠する緊急時対応、耐震基準策定の問題点がある」と指摘し、津波対策や避難計画にも疑問が残ると断じた。
 3、4号機の事故対策が原子力規制委員会の審査に「合格」していることを考えれば、政府が「世界一厳しい」と強調する新規制基準に疑問を呈したとも映る。避難計画の実効性を含めて全国の多くの原発に当てはまる可能性があり、原発回帰の動きに対する司法の警鐘だと肝に銘じるべきだ。政府は原発に依存しない社会へと、速やかにかじを切らねばならない。
 決定は、事故の懸念について「環境破壊が国外に及ぶ可能性さえある」と述べた。住民らは放射性物質の拡散で琵琶湖が汚染され、近畿一帯の飲み水に影響が出ると訴えていた。ひとたび事故が起きれば、立地県も隣接地域もないのは当然だ。立地か隣接かで再稼働の同意手続きなどに差をつけてきた姿勢を、政府や原発事業者は真摯(しんし)に省みるとともに、周辺住民の不安に向き合う必要がある。
 福島の事故後、原発の再稼働や運転を禁じた司法判断は3例目だ。昨年4月には福井地裁が「新規制基準は合理性を欠く」などとして高浜3、4号機の再稼働を認めない仮処分決定を出し、12月に別の裁判長が取り消した。今年1月には3号機が再稼働。4号機も先月再稼働したが、原子炉が緊急停止するトラブルで運転を止めていた。
 未曽有の原子力災害から、あすで5年になる。教訓を未来に生かすことは、国策として原発を推し進めた政府や電力会社はもちろん、社会に突きつけられた重い課題のはずだ。
 ところが政府は今、まるで事故がなかったかのように原発回帰を加速させている。エネルギー基本計画では、将来にわたり重要なベースロード電源と位置付けた。避難計画の実効性向上や事故対応拠点整備を棚上げして再稼働を急ぐ政府や電力会社の姿勢からは、教訓を生かそうという意思が感じられない。
 山本裁判長は「単に発電の効率性をもって甚大な災禍と引き換えにすべき事情だとは言い難い」とも指摘した。経済性に重きを置くのは関電だけではあるまい。「安全性の確保について説明を尽くしていない」と批判されたことを、電力業界全体で受け止めてもらいたい。
 差し止めを申し立てた住民からは「福島に学んだ判断」と決定を評価する声が上がった。政府は福島の教訓に鑑み、脱原発への道筋を早急に示すべきだ。

戻る <<前 【記事50141】社説 大震災5年 高浜運転差し止め 国は脱原発にかじを切るべきだ(愛媛新聞2016年3月10日) 次>> 戻る