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高浜差し止め 福島踏まえた合理的判断だ

 東京電力福島第1原発事故から5年を前に、原発の再稼働を進める政府と電力会社の姿勢に、司法が重大な疑義を呈した。
 大津地裁が、関西電力高浜原発(福井県)3、4号機の運転を差し止める仮処分を決定した。山本善彦裁判長は「福島の原発事故を踏まえた過酷事故対策についての設計思想や耐震基準策定に問題点があり、津波対策や避難計画にも疑問が残る」と指摘した。
 原発の再稼働や運転を禁じた司法判断は事故後、3例目になる。特に今回は、原子力規制委員会の新規制基準に合格して再稼働した原発に対する初の判断となった。
 決定は直ちに効力を持つため、関電は営業運転をしている3号機を停止する。稼働中の原発を仮処分で停止させるのも初めてだ。
 新基準への重い疑義
 政府は、規制委の新規制基準を「世界一厳しい」と強調して、合格した原発を再稼働させる方針を掲げてきたが、新規制基準そのものに疑問が投げかけられたといえる。その意味は重い。
 福島の事故はいまなお収束が見通せず、多数の被災者が長期にわたって避難を続ける甚大な被害をもたらした。大津地裁はその過酷な事実から、事故の原因究明も道半ばの状態で原発を再稼働させるならば、極めて厳しい新規制基準が必要だと指摘している。納得のいく合理的な判断といえよう。
 高浜3、4号機をめぐっては、福井地裁が2015年4月に再稼働を認めない仮処分を決定した。その後、関電が異議を申し立てて同地裁が12月にこの決定を取り消し、今年1月に3号機が再稼働した。2月には4号機の運転を始めたが、原子炉が緊急停止するトラブルが発生、冷温停止状態になっている。
 これほど司法判断が分かれる状態では新規制基準や再稼働方針の妥当性も揺らぐ。規制委による原発審査を中断して、再検討する必要があろう。
 仮処分は、滋賀県の住民が、事故が起きれば原発立地県以外の広域にも被害が及ぶ恐れがある、と主張して申し立てた。
 大津地裁は、原発の危険性の立証責任は住民側にあるとしたが、関電側が原発の資料を保持していることなどを考慮して、関電に対し「事故を踏まえた原子力規制行政の変化や、原発設計、運転規制がどう強化されたかを具体的に説明すべき」と求めた。
 そのうえで、緊急時の電源確保や、使用済み燃料ピットの冷却設備、原発の耐震性能などに問題があると指摘し、「住民の人格権が侵害される恐れが高いにもかかわらず、安全性確保について関電は説明を尽くしていない」と判断。運転差し止めを命じた。
 避難計画は国の義務
 さらに、注目すべきは、避難計画についての判断だろう。
 関電の直接の義務ではないとしながら、避難計画は個々の自治体がつくるのではなく、「国家主導での具体的で可視的な避難計画が早急に策定されることが必要であり、避難計画をも視野に入れた幅広い規制基準が望まれる」と指摘している。
 しかも、国には「そのような基準を策定すべき信義則上の義務が発生しているのではないか」とも述べている。
 高浜原発では避難計画が必要な半径30キロ圏に福井、京都、滋賀の3府県が入る。対象人口は福井の約5万4千人に対し、京都は約12万5千人だ。
 昨年12月、政府は周辺自治体の避難計画を了承したが、バスの確保や高齢者ら要支援者への対応もめどがつかず、実効性が確保されているとはいえない。
 こうした状況に対し、事故の重大性を踏まえた問題提起がなされたといえる。政府は謙虚に受け止めるべきだ。
 関電は10日に3号機の停止作業を行うとしているが、決定に対し、「極めて遺憾。到底承服できるものではない」として、速やかに不服申し立ての手続きを取るという。
 政府方針揺るがす
 ただ、4月の電力小売り全面自由化を前に、高浜3、4号機を再稼働させ、5月から電気料金を値下げするとしていた戦略は見直しを迫られよう。
 運転開始から40年を超えた高浜1、2号機について、規制委は先月、新規制基準に適合しているとの見解案をまとめた。関電は2基の運転延長を目指すが、新規制基準や同社の安全対策の説明を疑問視した今回の決定を踏まえれば、ハードルはさらに高くなったと考えなければならない。
 菅義偉官房長官は記者会見で、「規制委が専門的見地から十分時間をかけて世界最高水準と言われる新規制基準に適合すると判断した。政府としてはその判断を尊重する」と強調し、原発の再稼働を進める方針に変わりはないと述べたが、司法からの警告はこれで3度目だ。説得力のある言葉とはとてもいえまい。
 脱原発を望む国民世論に反して安倍政権は原発をベースロード電源に位置づけてきた。その方針を揺るがす事態といえる。司法判断を軽視してはならない

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