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新規制基準「適合」でも川内原発の安全性は確認されていない


原子力規制委員会は、9月10日、九州電力川内原発が新規制基準に適合しているとの審査書を決定しました。

新規制基準とは
 まず押さえておかなければいけないことは、新規制基準は福島原発事故のような過酷事故を未然に防止するものではなく、過酷事故が一定の確率で起こることを前提に、その影響をできる限り緩和しようというものでしかないことです。原子力規制委員会田中委員長は「安全だとは言わない」と繰り返し述べています。

火山審査の論理破綻
 川内原発は、半径160km圏内に5つのカルデラを持ち、過去に火砕流が敷地周辺に到達していたことが分かっています。九州電力は、巨大噴火の「平均発生間隔は約9万年」であり、最新の噴火が約3.0〜2.8万年前であるから、原発の運用期間中の噴火の可能性は十分低いとしていました。しかし、平均が9万年というだけでは、当面発生しない根拠にはならないとの指摘を受け、海外論文を根拠に継続的な火山の監視で噴火の予測が可能と主張して、規制委も受け入れました。
 しかし、規制委の審査には火山の専門家はおらず、審査書案を取りまとめた後になって開催した「原子力施設における火山活動のモニタリングに関する検討チーム」の会議では、火山の専門家から、海外論文の一例をカルデラ噴火一般に適用できないと、根本から批判されました。
 規制委が新規制基準とともに定めた火山評価ガイドでは「対処を講じるために把握すべき火山活動の兆候と、その兆候を把握した場合に対処を講じるための判断基準」を対処方針として定めておくことを求めていて、九州電力は判断基準をマグマの供給速度0.05m3としていますが、根拠とした海外論文が崩れれば、審査は一からやり直すべきなのです。
 会議では、中田節也東大教授が「巨大噴火の時期や規模を予測することは、現在の火山学では極めて困難、無理である」とも述べています。規制委は、「モニタリングは、噴火可能性が十分小さいことを継続的に確認することを目的としており、噴火の時期や規模等を予知・予測することを目的としていません。」と、パブコメの見解で述べて、開き直った形になっています。
 また、火山評価ガイドは、火山活動の兆候を把握した場合に原子炉の停止と「適切な核燃料の搬出等が実施される方針」を要求しています。川内原発にはすでに約2千体の使用済み核燃料がありますが、仮に再稼働すれば使用中の核燃料も生じることになります。炉心から取り出して冷却し、火山の影響が及ばない遠方に搬出先を確保して、7〜12体しか収容できない輸送容器を大量に確保して…と考えるだけでも大変な作業であることはわかります。
 今から具体策を考えておいても、数年で終わる作業ではなく、噴火の予知が仮に可能であったとしても間に合わない可能性が高いのです。ところが、九電は申請書で「破局的噴火への発展の可能性がある場合は、発電用原子炉の停止、適切な燃料体等の搬出等を実施する」としか書いておらず、規制委はそれでOKというのです。火山評価ガイドを正しく適用すれば、川内原発は立地不適とすべきなのです。

安全審査の実態は?
 基準地震動は従来の540ガルから620ガルに、想定する津波高さは約4メートルから約6メートルに引き上げられました。ところが、想定計算において地震動では入倉・三宅式、津波では武村式を用いています。武村式で地震動を計算すれば約2倍の想定が必要になります。また、1997年5月13日鹿児島県北西部地震で観測評価された5機関のうちの最小の値を用いて想定しており、過小評価になっていることは明らかです。これらの意見に対して規制委は「安全側であることを確認している」「値の大小で判断するのではなく、評価結果が概ね観測結果と整合するから妥当と判断」などと見解を示しています。
 審査書の説明不足を如実に示すのが、事故解析です。九電は解析をMAAPというコードで実施し、過酷事故シナリオでは電源喪失から約19分で炉心溶融開始、1.5時間で圧力容器破損としています。しかし、解析コードには不確かさがあり、従来、原子力安全委員会は、事業者とは別にクロスチェック解析を行っていました。原子力規制庁は別の解析コードMELCORを整備、保有しているのですが、独自の解析で確かめる作業をやっていないのではないかと指摘されました。
 福島1号炉の圧力容器破損時間について東京電力がMAAPにより約15時間としたのに対し、原子力安全・保安院がMELCORによるクロスチェックを行った結果約5時間、3分の1になった例もあります。川内原発でも圧力容器破損1.5時間を前提に対策が有効とされていますが、クロスチェックの結果によってはこの前提が成り立たない可能性があるからです。
 規制委員会は、パブコメの見解で「MELCOR による解析を実施しており、MAAP解析結果と同様の傾向を確認しています。MELCOR を用いた解析事例はNRA 技術報告2014-2001 で公開しています。」としています。それだったら、なぜ審査書に記載しないのでしょう。
 審査書案はパブリック・コメントに付され、約1万7千件の意見が集まりましたが、一部表現の修正が行われただけでした。結論ありきの「儀式」でしかないのでしょうか。
 鹿児島県は、規制委の審査書について10月9日から県内5か所で説明会を開催し、その後、議会の議論を経て、薩摩川内市長、知事が再稼働に同意するという段取りです。知事は地元を薩摩川内市に限定する意向ですが、被害が及ぶから避難計画の策定が義務付けられたいちき串木野市などの意見も踏まえて判断されるべきです。

実効性のない避難計画で安全は保障されない
 規制委田中委員長が、新規制基準と並ぶ車の両輪と例えてきた避難計画については、鹿児島県知事が10キロ圏外の病院・介護施設の計画を作らなくていいと公言するなど、実効性がないことが明らかです。
 規制委が避難計画を審査しないことに対する批判も大きいのですが、私は自治体の計画を国の機関である規制委が審査することには反対です。知事や市長が自ら作った避難計画を自画自賛して再稼働に同意する仕組みを変えていかなければなりませんが、どうあるべきかは悩ましいところです。地方自治の趣旨からは県や市に審議会が設けられて、第3者の視点で避難計画を検証すべきでしょう。

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