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社説 複眼思考でエネルギー政策進めよ

 政府は中長期のエネルギー政策の指針となるエネルギー基本計画を閣議決定した。原子力発電を「重要な」電源と位置づけ、安全性を確認したうえで原発を再稼働させると明記した。
 東日本大震災による電力の供給不安は拭えていない。原発が停止し発電量の9割を火力に頼り、化石燃料の輸入費が膨らんでいる。それらを考えれば、民主党政権が掲げた「原発ゼロ」を転換し、原発について一定の位置づけを示したのは現実的といえる。
将来像欠く基本計画
 ただ「基本計画」と呼ぶには欠けている点が多い。エネルギーは暮らしや産業を支え、日本の進路を左右する。この計画で安定供給ができるか、産業競争力や国民の生活水準を維持できるか、温暖化防止への配慮は十分か。説得力をもって将来像を描けていない。
 東京電力福島第1原発事故を踏まえ、原発への依存度を下げつつ一定数を維持するのか、原発ゼロ社会をめざすのか、世論はなお二分している。そんな二項対立を乗り越え、現実を見据えて計画を具体化していかなければならない。
 私たちはエネルギー政策の「調整と点検」の期間が必要と訴えてきた。安定供給だけでなく経済性、環境、安全保障などの複眼的な視点から、5年程度かけて方向性を決めよという主張だ。
 これはいまも変わらない。新計画を出発点に、政府は直面する課題への対応策をひとつひとつ詰める必要がある。
 まず原発再稼働の手続きを明確にすべきだ。原子力規制委員会は九州電力川内原発の安全審査を優先的に進め、6月にも審査を終える。安全性の確認は再稼働の大前提であり、規制委の判断を尊重すべきことはいうまでもない。
 あわせて地元の理解が欠かせない。東京電力柏崎刈羽原発では地元が再稼働に反発している。事故に備えた住民の避難計画づくりも多くの自治体で遅れている。
 電力会社や規制委だけにまかせず、国の役割や責務をはっきりさせる必要がある。避難計画づくりでは防災専門家を派遣するなど自治体への支援を強めるべきだ。英仏のように原発ごとに住民らを集め、安全性などの情報を提供する常設の場があってよい。
 再生エネルギーの導入拡大でもやるべきことは多い。民主党政権は「発電量の比率を約2割に高める」としたが、新計画は「さらに上回る水準をめざす」と上方修正した。この点は評価してよい。
 再生エネルギーの買い取り制度は導入拡大に効果をあげてきた。だが太陽光発電に偏り、買い取り費用が電気料金に上乗せされて国民負担が増している。
 風力、地熱を含めてバランスよく伸ばすには全国規模の送電網が要る。送電網に多くの事業者が接続すれば、競争や創意工夫でコストが下がる可能性がある。
 将来の原発、火力、再生エネルギーの割合について、基本計画は温暖化防止の国際交渉をにらんで「速やかに示す」とした。
 国連は日本を含む各国に、2020年以降の温暖化ガス削減目標を15年3月までに示すよう求めている。電源構成が定まれば目標を決めやすいのは確かだ。温暖化ガスを大量に出す石炭火力が突出して増えないよう歯止めも要る。
 一方で、原発がどれだけ再稼働するか不透明ななかで、電源の割合を先に決めるのはおかしいという指摘もある。そもそも電源構成は政策目標として必要か。そこから議論を始めるべきだろう。
産業や雇用創出の芽に
 エネルギー分野で起きている技術革新の成果をいち早く取り入れ、便利で快適な社会を築く政策づくりも欠かせない。
 都市ガスを給湯のほか発電にも使う燃料電池が普及し始め、電気自動車と家庭を結んで電気を融通する実験も始まった。電気やガスの使い方は様変わりするだろう。
 政府は電力市場の自由化に動き出し、ガス市場の自由化論議も始まった。16年にはすべての利用者が電力会社を選べるようになり、省エネ指南など新たなサービスが生まれる期待も大きい。
 もう一段の規制改革に踏み込んでほしい。たとえば電力とガスの垣根を払い、「総合エネルギー企業」が生まれれば、燃料を輸入する際の価格交渉力が強まる。電気、ガス料金の低下を通じて恩恵は消費者に及び、新しい産業や雇用も生まれるだろう。
 震災後のエネルギー政策は、安定供給の確保という守りの姿勢にならざるをえなかった。そこから早く脱し、成長を先導する政策に舵かじを切りたい。

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