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社説 原発基準地震動 安全性の論議を徹底せよ

 今までの震度想定は一体何だったのか。多くの人がこんな不安や疑問を覚えたのではないか。

 東京電力は柏崎刈羽原発の新たな基準地震動を発表した。将来起こり得る最大地震の揺れの強さだ。設定の最大値は現在の約五倍の二二八〇ガル(ガルは加速度の単位)だという。国内の原発で最も大きい。
 柏崎刈羽原発は昨年七月の中越沖地震で被災した。基準地震動はこの地震の観測データや地震後の地質調査を踏まえて決めた。中越沖の揺れは最大一六九九ガルと推定されている。
 基準地震動を見直したのに伴い、七基ある原発の主要設備に影響を与える場所の地震動は約五四〇−八三〇ガルとした。東電はこれを受け、全機で一〇〇〇ガルの揺れにまで耐えられるよう補強工事を行う方針だ。

 震災により、柏崎刈羽原発は全号機停止に追い込まれた。対策を施すのは当然だ。だが裏を返せば、地震が起きたからこその変更であり、泥縄の基準とも受け取れる。
 国や東電は地震の発生前、反原発団体が原発の耐震性への疑問を指摘するたびに「安全性は確保されている」と繰り返してきた。あの判で押したような答えは何だったのか。
 原発の安全は地元住民の最大の関心事である。確かな根拠もなく、前例を踏襲して「心配はない」と言い続けてきた怠慢は許されない。

 今回見直された基準地震動はあくまで東電が設定した数値だ。その妥当性については経済産業省原子力安全・保安院の審議会などで話し合う。
 震源断層の長さに関する議論が続いている段階で東電が基準地震動を示したことに、反原発団体から批判が出ている。国の審議会や県の技術委員会には、原発の安全性を徹底的に論議するよう強く望みたい。

 注意したいのは、さまざまな事情を背景に柏崎刈羽原発の早期運転再開を求めるムードがあることだ。
 七月には環境がメーンテーマの主要国首脳会議(洞爺湖サミット)が開かれる。原発は火力発電に比べ、二酸化炭素排出量が少ない。温暖化防止に有効とされる。環境重視を旗印に運転再開を望む声が高まる可能性がある。
 東電も運転再開を急ぎたいのが本音だろう。夏場に首都圏電力需要が逼迫(ひっぱく)する恐れや、赤字決算問題があるからだ。柏崎市などは運転停止の影響で頼みの税収が落ち込んでいる。
 だが、原発の安全性論議は丁寧に進めるべきだ。原発は柏崎刈羽地域にとって基幹産業である。住民が安心して原発と共存するためにも、議論を通して原発への不信感をきちんと解きほぐさなければならない。

[新潟日報5月24日(土)]

 

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