【記事19422】原発の耐震安全性を考える_柏崎の教訓を踏まえて_立石雅昭(都市問題_第100巻・第11号_2009年11月号2009年11月1日)
 
参照元
原発の耐震安全性を考える_柏崎の教訓を踏まえて_立石雅昭

※引用者注:参照元はPDF形式のファイル7ページ
2007年の中越沖地震で被災した柏崎刈羽原子力発電所。
それは世界で初めての、原発の地震被災であった。
多数の原子力発電所を抱える「地震国日本」。
原発の耐震安全性について、現状と課題を検証する。
(中略)
3 原子力発電の耐震設計に関する新たな課題
 柏崎刈羽原子力発電所は、中越沖地震によって、想定していた地震動を遥かに上回る地震動を受け、3,100件を超える不適合事象が発生した。東京電力は、この「想定」を遥かに超えた震動に見舞われた要因を解析するとともに、中越沖地震の10カ月前の2006年9月に改訂された国の「耐震設計審査指針」に沿って、改めて柏崎刈羽原子力発電所の耐震設計を再検討した。全国のほかの原子力関連施設についても、中越沖地震による柏崎刈羽原子力発電所の被災の教訓と「新耐震設計審査指針」に沿って耐震設計を見直した結果が、2008年3月末までに全電力事業者から報告された。これらの報告は、原子力安全・保安院と原子力安全委員会で、その内容のチェックが行われている。
 原子力関連施設の耐震設計を行う際の基本となる地震動が基準地震動であり、これは原子力関連施設に最も影響を与えると考えられる断層や地震によって、施設の直下の仮想的な解放基盤面に入力される地震動である。この解放基盤面は、ふつうは横波の地震波伝搬速度が概ね700m/secの岩盤に仮想される。
 柏崎刈羽原子力発電所では、この解放基盤面は原子炉建屋の下150m〜180mと、かなり深い。このことは、柏崎刈羽原子力発電所が比較的軟弱な地盤の上に立地していることを意味し、解放基盤面に達した地震動はその上位の厚い軟弱な地層中で大きく減衰する。柏崎刈羽原子力発電所では、この深い解放基盤面でも、その地震波の伝搬速度がおよそ500m/secと遅く、軟弱な地層が厚く分布している地域ということになる。
 ほかの多くの原子力発電所では、横波伝搬速度700m/secの解放基盤面はせいぜい深さ20m〜30mである。中には数mというのもある。すなわち、これらの施設では、解放基盤面から原子炉建屋最下階(基礎版)などに至る過程での減衰が小さいことを意味する。
 原子炉建屋やタービン建屋、又各機器の耐震設計は、この解放基盤面に入力する基準地震動をもとに、原子炉建屋やタービン建屋の各階・各設備が受ける地震動を推定し、それに耐えうる設計を施すことになる。
 2008年3月にすべての電力事業者から出された耐震設計見直しの結果報告では、柏崎刈羽原子力発電所はもとより、すべての原子力発電所で、基準地震動を大幅に引き上げた(表1)。しかし、これらの報告では、稼働している全原子力発電所について、古い基準地震動に従って設計されていた原子炉格納容器など重要施設の耐震安全性は、新しい基準地震動に照らしてもその許容値内に収まっているので安全だと主張している。一部、耐震補強するところもあるが、そのほとんどは、古い基準地震動であっても余裕を持って設計していたので、基準地震動が大きくなっても大丈夫だという結論を導いているのである。
 しかし、これでは新しい耐震設計審査指針に基づく基準地震動とは何なのか、という原子力行政に対する国民の不信を増幅しかねないであろう。中越沖地震による柏崎刈羽原子力発電所の被災の教訓を真摯に生かすという姿勢が欠落していると言わざるを得ない。
(後略)

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