[2020_05_01_02]<東海第二原発 再考再稼働>(14)最も危険な原発、廃炉に 元京大原子炉実験所助教・小出裕章さん(70)(東京新聞2020年5月1日)
 
参照元
<東海第二原発 再考再稼働>(14)最も危険な原発、廃炉に 元京大原子炉実験所助教・小出裕章さん(70)

 東海第二原発を運転する日本原子力発電(原電)はこの九年間、一ワット時も発電していないのにつぶれることのない不思議な会社だ。
 日本で最初に原発を始めようとした時、電力会社はどこも怖くて引き受けなかった。大手電力十社が「赤信号、みんなで渡れば怖くない」と別会社をでっち上げ、毎年「基本料金」を出し合って支える仕組みにした。それが原電だ。
 原電の原発は現在、東海第二と敦賀2号機(福井県)の二基。原子炉直下の活断層が指摘される敦賀2号機はもう動かないだろう。それでも電力十社は原電にお金をつぎ込み続けている。東海第二を動かすためにまた何千億円かの投資が必要だが、東京電力などが全部請け負うという。仮に東海第二がこのまま動かなくても、原電は不健全な状態で生き延びると思う。
 私の同僚だった瀬尾健(たけし)さん(一九九四年に死去)が生前、東海第二で深刻な事故が起きたときの被害の試算を出している。米国の原子力規制委員会が一九七五年に公表した報告書の計算手法に基づくものだ。
 被ばくによる急性死者は水戸市で二十一万人、日立市で二十万人、勝田市(現ひたちなか市)で十万人(いずれも当時の市域)に上り、がんによる死者は南西方向の首都圏を中心に八百万人。周辺地域の人口密度が非常に高く、百数十キロのところに東京があり、日本で最大の危険を抱えた原発だという結論だった。
 原発は古いから危険、新しいから安全というものではない。チェルノブイリは当時のソ連きっての最新鋭の原発だった。事故は予測できないから事故と呼ばれる。とはいえ、古い原発で相対的に危険が多いのは争えない事実だ。
 東海第二は、原則四十年の運転期間の延長が認められた。ポンプや配管などの部品は不具合があれば取り換えられるが、原子炉圧力容器だけは交換できない。その寿命は四十年くらいだろうということで始めているのだから、四十年でやめるのが賢明な選択だ。

 東京五輪についても言っておきたいことがある。

 福島第一原発事故の悲惨さを多くの皆さんは忘れているようだが、二〇一一年三月十一日に発令された「原子力緊急事態宣言」は今も解除されていない。
 不都合なことを忘れさせようとする時、昔から取られてきた手段は、お祭り騒ぎに人々を引きずり込むことだ。私は「原子力マフィア」と呼んでいるが、原子力ムラにとって、それが今回は東京五輪なのだろう。安倍晋三首相は初めからそのつもりで「福島事故はアンダーコントロール」だとうそを振りまき、五輪を誘致したと思う。
 新型コロナウイルスの感染拡大で延期が決まったが、福島を忘れさせるための五輪の利用には徹底的に抵抗するつもりだ。(聞き手・宮尾幹成)

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 次回は八月上旬に掲載予定です。

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<こいで・ひろあき> 1949年、東京都台東区生まれ。東北大大学院工学研究科修士課程修了(原子核工学)後、京都大原子炉実験所(現・複合原子力科学研究所)に入所。原子力の危険性を世に問う研究に取り組む同僚とともに、実験所の所在地(大阪府熊取町)にちなみ「熊取六人衆」と呼ばれた。41年にわたり助教を務め、2015年に定年退職。現在は「仙人宣言」し、長野県松本市で、太陽光発電や野菜の自家栽培による自給自足の生活を送る。
KEY_WORD:有識者調査団_規制委の敦賀2号機直下に「活断層」を了承_:TOUKAI_GEN2_:FUKU1_:TSURUGA_: