[2020_11_30_03]【原発漂流】第3部 共生の宿命(7完)福井・敦賀 夢の炉に幕、次の道模索(河北新報2020年11月30日)
 
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【原発漂流】第3部 共生の宿命(7完)福井・敦賀 夢の炉に幕、次の道模索

 切り立つ半島の隅で「夢の原子炉」が眠る。
 福井県敦賀市白木地区にある日本原子力研究開発機構の高速増殖原型炉「もんじゅ」。相次ぐ事故やトラブルで満足に稼働できず、2016年12月に廃炉が決まった。
 「ちゃんと動かして、見返してやりたかった」。元機構職員で地区住民の坂本勉さん(65)は唇をかむ。15年に定年退職するまでの8年間、もんじゅの保守管理を担当。国策への貢献を誇りに生きてきた。
 高速増殖炉は使用済み核燃料を再処理し取り出したプルトニウムとウランの混合酸化物(MOX)燃料を使い、発電しながら消費した以上の燃料を生み出す。もんじゅは青森県六ケ所村の再処理工場とともに、準国産エネルギー資源確立のための要だった。
 投じられた国費は1兆円超。東京電力福島第1原発事故で原子力を巡る環境が一変し、もんじゅは成果の上がらない「負債」とみなされた。初臨界から22年、あっけない幕切れだった。
 廃炉決定の際、白木地区の住民は蚊帳の外だった。「当時は気持ちが荒れたが、もう過ぎたこと。今後は後始末が大事だ」。坂本さんは静かに語る。
 「原発銀座」と呼ばれる福井県南部の嶺南地方には敦賀など4市町に計15基の原発が軒を連ねる。福島事故後の新規制基準への対応に費用がかさみ、もんじゅなど採算性の低い7基は廃炉が決定。少しずつ「店じまい」が進む。
 県が今年3月にまとめた地域振興計画は廃炉産業の育成が柱の一つだが、課題は想像以上に多い。
 一般的な原発の廃炉費用は数百億円。作業に20〜30年かかるため、年単位で費用を割ると大手の下請けに入る地元企業は薄利だ。特殊な構造のもんじゅの廃炉費用は30年で3750億円に上るが、必要な設備投資や人材教育の面で地元企業参画のハードルは高い。
 福島事故後の敦賀市は、原発の長期運転停止などで多くの作業員らが去った。今年9月末の人口は約6万5000人で、11年時から4000人減った。
 「廃炉産業は大事だが、どこも人手不足で準備に手を回す余裕がない」。敦賀商工会議所常務理事の伊藤敬一さん(47)は事故後、原子力に愛憎相半ばする地元の雰囲気を感じている。
 原発頼みだった地域経済は疲弊し、底打ち状態が続く。伊藤さんは「今からでも、もんじゅを動かしてほしい」と半ば本気で思う。
 多くの市民が国策を応援し、外野からの批判と風評に耐えてきた。「しっかり実績を残し、原子力を誇りに思ってきた地元に報いてほしかった」と残念がる。
 数年内に予定される北陸新幹線の金沢−敦賀延伸開業を控え、手薄だった観光産業に地域の新たな道を見いだそうとする人もいる。
 敦賀半島で観光民宿を営む山本敬子さん(47)は「原子力施設が多い青森も新幹線開業で観光が潤ったと聞く。敦賀も工夫次第で成功できるはず」と信じる。
 原発と共に生きる時代は過ぎ去ったと感じている。「ありのままの敦賀から魅力を掘り起こしていけばいい」と今後を見据える。
河北新報
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