[2018_09_20_01]私設原発応援団たちによる、間違いだらけの「泊原発動いてれば」反論を斬る 牧田寛(ハーバービジネスオンライン2018年9月20日)
 
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私設原発応援団たちによる、間違いだらけの「泊原発動いてれば」反論を斬る 牧田寛

 9月10日に、北海道大停電について、泊発電所の稼働問題は無関係であって、泊が動いてい「れば」「たら」論は、完全に無関係且つ無意味であると指摘しましたところ、たいへんな反響となり、100万PV超となっただけでなく様々な方から内容についてお問い合わせ頂きました。(参照:『北海道胆振東部地震「泊原発が動いていれば停電はなかった」論はなぜ「完全に間違い」なのか』)

 前回、高校卒業程度の知識で理解できるように執筆しましたところ、たいへんに分かりやすかったと言うお褒めの言葉を頂く一方で、隔靴掻痒であり、もっと説明して欲しいと言うお言葉も頂きました。また、なぜか全く理解できない方、読まずにご批判される方もお見かけしました。なかには、私に見えないようにした上で誹謗中傷行為に及ぶ随分ご立派な経歴の方も見受けられ、たいへんに驚きました。幸か不幸か、複数の知人がすべてを記録して提供してくださっていますので、その後こっそり消された分も含めて完璧に証拠として保全してあります。親方日の丸でリスク完全無視の言説にはたいへんに驚いています。
論理学の基礎問題として全面否定される泊「たら」「れば」論

 さて前回、泊発電所が震災時に稼働してい「たら」「れば」論について、その仮定自体が全く無意味であり、根本的に誤っていると指摘したところ、「コロラド先生のデマ」なる珍妙な反論が現れました。内容は、乾電池に見立てた発電所をエクセルで組み合わせるだけのもので、前回の拙稿を読んでいれば、恥ずかしくてとても人前には出せない稚拙なものでした。実際、私の目に入る前に複数の人物から発電所の組み合わせとしても基本的に誤りの単なる辻褄合わせであると厳しい指摘が入り、論旨が二転三転しているようです。

 三相交流同期広域発送電網の過渡現象はたいへんに難しい問題で、私の出身である大阪大学大学院工学研究科電気工学専攻でも、電力系の一つの研究室が成り立つもので、となりの研究室ではSX-3(1990年代のスーパーコンピュータ)でなんとかシミュレーションしている人物がおりました。落雷による超高圧送電網の挙動とレーザー導雷を関西電力と共同研究されており良く深夜まで話し込んだものです。最近のコンピュータはSX-3など遥かに凌駕しますので、経産省か電中研秘蔵の凄いエクセルマクロでもあるのかと期待していたのですが、実際にはエクセルで乾電池の組み合わせをされているだけでしたので、私は1日寝込むほどにがっかりしました。発電所はお小遣いの少ない小学生のプラレールやラジコンの乾電池ではありません。
泊原発は「公道走行不可能な野良自動車」

 さて泊発電所は、現在適合性審査がきわめて難航しており、今後1年は審査合格が出る可能性はありません。これは原子力規制委員会(NRA)と北海道電力の間の問題であって、他者が介入する余地はありません。(参照:泊発電所の審査状況 北海道電力)
 適合性審査に通っていない原子力発電所と言うのは、車に例えれば形式承認が得られておらず、車検どころか仮車検証すら給付されない、絶対に公道を走ることの出来ない野良自動車です(前回、整備不良の無車検車と例えましたが、Twitterのフォロワーさんから、そんな甘いものではない、形式承認すら得ていない野良自動車だという指摘がありましたので、ここに訂正します)。

 泊発電所3号炉(泊3)の現在の審査状況は絶望的に遅滞しており、今後問題なく迅速に審査が行われたとして、審査終了まで1年はかかるでしょう。その後運開準備に1〜3か月かかりますので、最速でも来年の冬に間に合うかどうかと言う状況です。

 実際には、泊サイト内の活断層疑惑が払拭できず、原電敦賀2や北陸電力志賀発電所と同じく泊も審査不適格で二度と運開することなく全炉廃炉となる可能性があります(参照:火山灰での証明、北海道電が断念 泊原発「活断層なし」, 朝日新聞, 2018年2月3日05時00分、【原発最前線】活断層否定の火山灰が見つからない! 再稼働へ苦難続く北海道・泊原発, 産経新聞, 2017.12.12 17:00)

 NRAによる適合性審査には批判も多いのですが、所内の断層評価と基準振動の評価については世界的に見てもかなり厳しい高水準で、これは旧基準時代に断層や地震の評価で横行した著しい過小評価(断層カッターや年代偽鑑定)への反省の上にあります。

 大阪大学理学部物理学科には、かつて池谷元伺博士(故人・阪大名誉教授・工学博士)がご在職で、この方は大阪大学工学部原子核工学科(原子力工学科)出身という変わった経歴の方でしたが、地層の年代測定でも活躍されていました。池谷博士がよく主張されていたのは、「原子力発電所の立地評価での地層の年代測定は、お金の力でねじ曲げられていて、仮に再評価が行われれば多くの原子力発電所が稼働不能になる。」と言うものでした。

 池谷博士は、すでに物故者となっていますが、30年を経て、多くの原子力発電所が断層再評価によって再稼働不能や審査大遅延に陥っているのを見ると、池谷博士の主張は当事者として偽らざるものだったのだと思います。

 こと、断層の再評価による適合性審査の難渋は、電力事業者に最大の責任があり、そのような不適切な行為に迎合した旧原子力規制当局にも同等の責任があります。電力事業者は不服があるのならば国家賠償請求訴訟を起せばよいだけで、規制そのものは情実で動かすことがあってはなりません。

 ここまでで自明なのですが、「泊発電所が動いていたら」という仮定は、適合性審査に合格してない、今後1年、場合によれば永久に審査合格の可能性がないと言う事実の前には、論理学の初歩問題として成立し得ません。

 要するに憂さ晴らしの言葉遊びか八つ当たり、乾電池遊び以外のなんの意味も持たず、こと電力供給の議論に関しては完全に無意味であり、有害無益そのものです。

 原子力・核産業は「規制の上に成り立つ産業」です。この言葉を誰が言ったのかその原典は現時点ではわかりませんが、フランスCEA(フランス原子力庁)か合衆国NRC(合衆国原子力規制委員会)で要職を務める人物の発言だったと記憶しています。元NRC委員長ヤツコ氏のインタビューではないかという記憶があるのですが、現在調査中です。

 原子力・核技術は、得られる利益が巨大である反面、内包するリスクも巨大であって、工学的に確率をどんなに下げても一度でも大事故が起これば一国家が破滅するほどの損害となりかねないものです。例えば、ソ連邦が崩壊した原因の一つとしてチェルノブイル核災害(Chernobyl Nuclear Disaster)が挙げられます。また福島核災害(Fukushima Nuclear Disaster)でもその被害、損失は国家を揺がすほどに激烈なもので、これらのような核災害を二度と起してはなりません。この為、「厳しい規制を厳格に遵守し、厳正に運用すること」が原子力・核技術利用の大前提となります。これを表した言葉が「原子力・核産業は規制の上に成り立つ」というものです。

 規制、基準が厳しいから緩和しろ、旧基準に戻せと言う主張は、規制の上に成り立つ原子力・核産業にたいして、後ろから機関銃を撃ち込むに等しい、最も愚かなものです。私は、原子力・核工学を愛するものとして、このような行為に強い怒りを抱きます

 さて、冒頭で触れた「コロラド先生のデマについて」という珍妙な反論は、「宇佐美典也のブログ」において2018年09月12日付けで公表されたのです。その前から、Twitterにて宇佐美典也氏(@usaminoriya)という方が、私を罵倒していると言う指摘が私のTwitter TL(タイムライン)上に現れていました。しかしながら、9月11日7時34分10秒時点でのスクリーンショットが示すように宇佐美氏は私をブロックしており、何を言っているのか当方には全くわかりませんでした。

 知らない人が何か言っているらしいことはわかりましたが、過去に私が失礼なことでもしたのかと過去ログを調べてみたところ、直接の関与は見当たりません。なお、私は過去ログを原則として消しません。Typo(打ち間違い、誤脱字)などによる差換の際は、稀にその旨明記した上で削除差換をすることはありますが、論旨が変わるような削除行為はしません。

 但し、例外として私が他者の人権を傷つけるような発言をした場合と、私によるPC(Political Correctness:政治的正しさ)を大きく逸脱する発言があった場合は、過去に遡って注記した上で削除しています。

 宇佐美氏については、当方がそのような過去ログ削除をした可能性はありません。なにしろ、知らない人です。削除対象になるような発言の応酬になった場合は、必ず覚えていますし、備忘録をTweetに残す習慣があります。

 フォロワーさんが採取してくれた宇佐美氏語録の一部(採取自体はほぼ100%網羅されている)を見ると、私に波状的にいちゃもん付けてきた人たちがすべて宇佐美氏の受け売りであったことが分かり、がっかりしました。

 現時点で採取されたものは、500前後の発言ですが、採取者の報告によると、宇佐美氏は、9/13迄に「反原発」「デマ」「コロラド」それぞれを含むツイートを消したようだとのことです。

 宇佐美氏による一連の採取されたTweetは、この執筆時点(9/18 10時頃)に初めて閲覧していますが、ただひたすら罵倒するだけで、さすがに伝え聞くかつてのインターネッ党の広報担当者です。宇佐美氏の取り巻きの方々の中にも今回、私をとても失望させる方が一人います。心底がっかりです。本当に、本当に残念です。

 これらの一連の宇佐美氏の発言に特徴的なのは徹底した誹謗中傷です。まず、拙稿は、「牧田寛」という実名で執筆しています。同時に、Twitterでの名前もHiroshi Makita Ph.D.としています。もちろん、私を「コロラド先生」という愛称で呼ぶ人は実名公開後も増え続けており、とてもありがたいことですが、私自身は「コロラド先生」という筆名を使っておりません。ところが、「宇佐美典也のブログ」において、「コロラド先生のデマについて」という表題記事が掲載され、そのなかで“コロラド先生なる人が<北海道胆振東部地震「泊原発が動いていれば停電はなかった」論はなぜ「完全に間違い」なのか>という記事を書いていて、これがデマだ、ということを指摘したらいわゆる反原発の人に噛み付かれて仕方ないので簡単に反証しておく。”という既述が冒頭になされています。

 宇佐美氏はなぜ、私が使ってもいない「コロラド先生」なる筆名をわざわざ使うのでしょうか。これは暴力型PA(パブリック・アクセプタンス:原発などの建設について、社会的合意を形成するための広報活動を指す。しかし、ほとんどの実態はカネと権力をつかった強権的詐術と言ってよいもので、極めて強い批判を浴びている。玄海原発九電やらせ事件などが記憶に新しい。福島核災害などの原子力重大事故の根本にもPAによる原子力従事者の自己暗示=安全神話の一種が見られる。「暴力型」というのは筆者による分類で、現在研究途上)の典型技法と同じです。

 宇佐美氏のブログの読者が、拙稿を読まないことを前提として、私を匿名化するという印象操作をした上で、デマ、嘘、反原発、(反原発で)飯を食っているなどのパワーワードを散りばめます。私が知る限り高木仁三郎氏が初期の被害者で、氏は「反原発で飯を食っている」という中傷に深く傷ついていたと氏の死去後しばらくして聞き及んでいます。私は文筆で飯を食っていますので、宇佐美氏の言う「(反原発で)飯を食っている」の後半は正しいです。頭と腕で飯を食って何が悪いのでしょうか。そして、反原発、脱原発を主張している方で私を自陣営と考える人は余りいません。私は、原子力と核を愛する原子力・核の狂科学者だったからです。残念ながら力及ばずでしたが、私が少年時代から目指したのは、合衆国のエドワード・テラー博士です。

 こうした暴力型PAによる被害者には、近くは故Study2007氏(※原子核物理の研究者(Ph.D.)であり、雑誌『科学』などにも論文を寄稿。福島第一原発の事故以降、Study2007というTwitterアカウントで積極的に情報発信を行い、岩波科学ライブラリーから『見捨てられた初期被曝』を上梓する。2015年11月病没)への誹謗中傷もありました。匿名の卑怯者、みんな嘘、でたらめ、嘘つき、放射脳と罵声を浴びせ続ける大学教授まで現れ、私はたいへんにたいへんに幻滅しました。

 Study2007氏は、実名での学術論文の投稿についても公表されており、その実名は誰でも知ることができたものです。氏は不治の癌に侵されており、病没されましたが、その際、F.D.ルーズベルト氏が病没した際にヒトラーが全世界に投げつけた罵声と寸分変わらない罵声を浴びせかける立派な経歴の人物など、凄まじい呪いの言葉の応酬には心底辟易されたものです。Study2007氏は公人ではありません、心優しく聡明な一私人でした。

 今回の私への人格攻撃も含め、これらは、私が暴力型PAと命名している典型技法です。私自身は、この技法を熟知していますので、屁の河童ですが、こういう害悪極まりない言論が世を汚すことはよろしくありません。今後も粛々と採取し、記録し、世に告発して行く所存です。

 なお、この暴力型PAで一番愚弄されているのは、そのPA媒体の読者です。

 繰り返し述べますが、私にPAの技法は通用しません。むしろ大喜びで採取、記録し、PA研究の題材にします。また、暴力型PAは、司法リスクの塊ですので、濫用はなさないことを強くお勧めします。世の中には、泣き寝入りする人ばかりではないでのす。

論旨の土台も枝葉も間違ってる宇佐美氏の反論

 なお、宇佐美氏の私への反論は、そもそも論理的に泊発電所の稼働というものはあり得ないという拙論に対して、乾電池の組み合わせの如く「送電網」の状態や性能、各発電所の特性を無視して組み合わせ、辻褄を合わせるものですので、論旨の土台も枝葉も誤っています。

 土台については拙稿で繰り返し繰り返し指摘してきています。まずきちんと拙稿を読んで理解しましょう。参考文献・資料などは可能な限り提示しています。

 枝葉については、既に多くの方から誤りや矛盾点の指摘がありますが、私からも簡単にその誤りを指摘します。

 大前提として、北海道電力が泊3の適合性審査を合格させることが出来た異世界を想定します。

●宇佐美氏による第一案(発災前)
原子力 泊3   900MWe
石炭  厚真4  700MWe
重油  知内1,2 700MWe
重油  伊達1,2 700MWe

 第1に、深夜早朝の電力需要閑散期に、重油を全出力で焚いていると言う想定がおかしいです。北海道電力にとって苫東厚真2、4号機は最大の稼ぎ頭であって、苫東厚真2を止めて重油を2か所全出力で焚いていることはあり得ません。また、この想定では、石油火力の出力追従余力を使い切っていますので、苫東厚真4が震災停止した途端に泊3は停止します。被災後17分間動き続けた苫東厚真1が停止中ですので中央給電司令所が対応する間もなく、ほぼ同時に全道停電します。この場合、泊3は外部電源を直ちに喪失したことになります。(現実の震災では、中央給電司令所が泊3への最優先の送電を試みていたと見られる。)
 第2に、宇佐美氏は“「この組み合わせが不自然で経済性を考えれば厚真は130万kwのはずだ」という人もいるかもしれないが、そもそもそのようなことは断定しようもないので、反証としてはこれで十分であろう。”と述べていますが、とんでもない屁理屈です。

 電力会社はその時々で最適の経済効率を求めて発電します。宇佐美氏の案の前提条件ならば、苫東厚真の定検周期にもよりますが、苫東厚真1、2、4の最低限、どれか2つの組み合わせまたは全てで発電します。余剰電力は揚水発電所(揚水)で蓄電します。石油火力の発電原価は石炭火力の概ね2倍です。現在は、原油価格が高騰していますので、更に高くつきます。そんなものを深夜にフルパワー運転する大手電力会社はこの世に存在しません。正当な理由なくそのようなことをすれば、株主代表訴訟を提起される前に経産省によって制裁的行政指導を受けるでしょう。

 第3に、宇佐美氏は調整余力が不足した場合には“出力が足りないというならば、奈井江35万kwを加えてもらっても結構だ。結論は変わらない。”と記しています。確かに結論は変わりません。奈井江発電所は起動できず、北海道は3時10分ごろに一挙にブラックアウトするでしょう。理由は簡単です。奈井江発電所は石炭火力です。北海道電力は、本来出力調整に向かない石炭火力を、旧式のものについては出力調整に用いています。これは北海道電力のベースロード向け電源偏重と言う電源構成の為です。そして石炭火力は、即時起動が出来ません。即時起動ができるのは一般水力と揚水で、次いで連系線です。石油火力や天然ガス火力は負荷変化率が5〜10%/分と、出力追従性に優れますが、それでも起動には時間を要します。そして石炭火力は起動にたいへんに時間を要します。おおまかにはこうなります。

●各発電方式による一般的な起動時間(点火→全負荷)
一般水力   数分
揚水     数分から十数分(運転状況による)
石油火力   60分前後
天然ガス火力 60分以上
石炭火力   6時間程度
原子力 一週間程度(条件によっては三日程度)
(参考文献:山地康博 火力発電の技術動向 日立評論, Vol.69 No.10 pp.891- 1987/10 ほか)

 なぜ、火発が瞬間起動できないかは、ボイラーの特性に依存しています。いろいろと書籍は出ていますが、一番簡単で宇佐美氏でも良くわかるのは、汽車のえほん(きかんしゃトーマス)シリーズ(ポプラ社)でしょう。正確さと言う点で絵にはいろいろと問題がありますが、ウィルバート・オードリー牧師の記述はたいへんに正確です。

 次に宇佐美氏による第2案です。これは神戸大学の牧野淳一郎博士(@jun_makino)によって第1案の誤りが指摘された後、宇佐美氏による数多くの罵倒の後に差し替えられたものです。

●宇佐美氏による第2案(発災前)
原子力 泊3    900MWe
石炭  厚真4   700MWe
石炭  奈井江1,2 350MWe
重油  知内1,2  700MWe
重油  伊達1,2  700MWe

 これは数字があっておらず、答案却下なのですが(実は、第一案でも石炭火力が合計2GWeという表記があり本来はこれで答案却下)、善意に解釈して、奈井江、知内、伊達を出力調整運転していたと仮定します。

 第1に、北海道電力で最高の経済性を誇る苫東厚真1、2、4のうち4号機だけ運転して、旧式で経済性に大きく劣る奈井江1、2を運転している。これはあり得ない。

 第2に、経済性で最も劣る石油火力の知内1、2と伊達1、2を全機運転している。現実にはこれら石油火力のうち1基は停止中。出力追従運転用の石油火力を全機運転しているという状況は電力枯渇状況以外考えられない。特に9月は定検入りするユニットが多い。

 第3に、奈井江1、2は出力調整運転をしているものの、石炭火力は負荷変化率がたいへんに小さく、1〜1.5%/分でしかない。仮にタービンが中間負荷用に改良されていても5%/分発揮できるかは不明。

 したがって、第2案でも負荷変動に耐え切れずに全道停電する可能性は排除できません。そもそもこのような経済性に著しく劣る電源運用は、私企業ではありえず、公営電力でもあり得ません。ただ、未来予知によって地震を予知していたならば、あり得なくもないですが、その場合はもっと別の手を考えます。

 これら第1案と第2案は、泊3を動かす為に電気事業を行うという手段が目的化している(犬のしっぽが犬を振り回す)思考によるもので、結果として辻褄合わせの為にあり得ない想定を積み重ねているのです。故に私は、「宇佐美氏の乾電池エクセル」と呼称するのです。

 同様の指摘は既に神戸大学の牧野淳一郎博士(@jun_makino)も繰り返しその誤りを指摘されていますので、そちらもご参照ください。(参照:牧野の公開用日誌9月12日)

 きわめて基本的な誤りですので工業高校卒業生や高専3年生ならすぐに誤りに気がつくと思います。

 宇佐美氏は更に“追記;この記事を書いた動機についてだが、私は「泊原発を動かせ」という気はない。それは最終的には道民が決めることだ。ただこの機に乗じてデマを広げようとする人が許しがたいだけだ。“と述べられています。宇佐美さん、あなたは、鏡を見ておられるのですよ。

宇佐美氏の発言で唯一「謝辞」を述べたい箇所

 さて、これらの宇佐美氏の発言は、既述の通り、論理学的基本問題として門前払いされるのですが、その中で一つ強く目を引くものがあります。PWR(加圧水型原子炉)発電所における外部電源喪失時の所内単独運転に関するものです。これは原子力安全の根幹に関わりますので、敢えて言及します。(参照:宇佐美典也のブログ)

 まず、私は宇佐美氏が持ち出したと聞くまで、PWR発電所で所内単独運転が実施されていることを把握していませんでした。なぜなら、所内単独運転による運転継続は、原子炉を運用する電気事業者は強く実現したがってきたことですが、原子炉を不安定な過渡状態に置くことは多重防護の第一層を壊す行為であるため、多重防護の第一層を守ると言う原則から、逸脱運転である所内単独運転で運転継続するのではなく、まずは原子炉を停止すると言う共通認識があったからです。(参考文献:原子炉の暴走―SL‐1からチェルノブイリまで 石川迪夫 日刊工業新聞社 1996/04)

 原子炉は、送電線への落雷により外部への送電が出来なくなると、直ちにタービントリップし、原子炉もトリップ(PWRの“方言”。BWRではスクラム。緊急停止のこと)します。この際、非常用DGにより電源を供給しますが、原子炉は自動的に止まります。原子炉は超低出力運転や停止直後、核毒(中性子を吸収し連鎖核反応を阻害する)Xe(ゼノン、キセノン)が発生し、臨界の維持が困難な過渡状態になります。

 この過渡状態での原子炉の把握と制御に失敗したのがチェルノブイル4号炉の爆発事故です。チェルノブイル核災害はRBMK(高出力圧力管型原子炉;現在はLWGR軽水冷却黒鉛減速炉への読み替えが推奨されている)の、低出力動作時に核反応度に正のフィードバックがかかり、緊急停止を試みると核暴走するという致命的欠陥によって引き起こされたもので、LWGR特有の核暴走事故でした。とは言え、同条件で核暴走の起こり得ない軽水炉(LWR)ではあっても大型商用原子炉を不安定な状態に置くことは基本的な約束事として「しない」事になっているはずです。

 勿論、PWRでは、全出力領域において核反応度には負のフィードバックがかかっており、固有安全性が確認されています。一方でBWR(沸騰水型原子炉)では低出力域での核反応度の正のフィードバックが疑われ、合衆国ではBORAX(BOiling ReActor eXperiment)という原子炉暴走・破壊実験が行われました。SPERT(Special Power Excurtion Test)とBORAXという二大原子炉破壊実験により、LWR(軽水炉)での原子炉暴走の条件は究明され、BWRでもPWRとは異なる機序で低出力領域でも核反応度には負のフィードバックがかかることが判明し、固有安全性が確認されています。特にBWRは、合衆国のたいへんな努力の上に今日があります。SPERTとBORAXという二大プロジェクトがなければ、BWRはこの世に存在し得なかったでしょう。
 原子力は徹底した実証主義の学問であり産業です。日本は、合衆国の過去の莫大な努力の上に乗っているのです。

 原子力安全の大原則として、多重防護の第一層を破壊する行為である低出力所内単独運転は禁じ手とされてきました。何か異常があれば「止める」です。多重防護の第二層です。

 なぜ、このようなことをするのでしょうか。それは落雷にあります。関西電力の原子炉銀座から関西へ伸びる超高圧送電線は「雷銀座」を通過する為に落雷による送電停止は避けられず、結果として原子炉はトリップしその後三日ほど営業運転ができなくなります。これはゼノンオーバーライドによるもので、人間には制御不能の物理現象です。

 ここで、私が阪大電気にいたときに隣の研究室がレーザー導雷の研究をしていたことを思い出してください。この方は、河崎善一郎博士です。現在は阪大の名誉教授でシンガポール在住とのことです。この研究のスポンサーは関西電力で、関電は原子炉を止める落雷を、レーザー導雷してでも阻止したかったのです。商用大型軽水炉が三日も止まれば経営上、辛いものがあります。その気持ちはよくわかります。

 ですが相手は雷様、レーザーを使っても防護覆域を外れたところに落ちてきます。ですから、原子炉運転にあたり、落雷による数分から10分間の送電停止の間、Xeの濃度が上がるまでの十数分の間だけ非常用DGでなく発電用タービンの超低出力運転によって、綱渡り運転をし、外部電源復旧後、低出力運転に移行、数十時間で定格出力に戻すと言うものです。これによって1日か2日程度の運転日数は稼げます。

 これは確かに可能ではありますが、多重防護の原則からは明らかに逸脱しています。多重防護の原則に則れば、短時間であっても外部電源の喪失や送電停止は、原子炉をとめねばならない重大インシデントです。新規制において、このような綱渡り運転が認められているのかに強い興味を持ちます。

 ここまで読めばお分かりと思いますが、PWRにおける所内単独運転は、今回の北海道大停電とは全く無関係です。但し、宇佐美氏のお陰でこのような原子炉操作が過去20年間ちかく行われてきたことが市民の知るところとなりました。宇佐美氏の貢献はきわめて大です。深く御礼申し上げます。私は油断していました。

 原子力技術が今後も存続し、発展するには市民にたいし謙虚であり隠し事をしないことが第一です。原子力・核工学をこよなく愛するものとして、原子力業界人士が社会の中で健全な業界をつくることを切に望みます。

 次回、前回記事からアップデートされた情報を含めて、今時震災において北電管轄内で何が起きていたのか、再度検証し、今後どうあるべきかの一私案を提示します。

『コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」』番外編2-2

<文/牧田寛 Twitter ID:@BB45_Colorado>
まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題についてのメルマガを近日配信開始予定
牧田寛

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