【記事40260】高浜運転差し止め 大津地裁決定(要旨)(毎日新聞2016年3月9日)
 
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高浜運転差し止め 大津地裁決定(要旨)

高浜原発3、4号機の運転差し止めを命じた大津地裁の仮処分決定の要旨は次の通り。

■安全性の主張立証責任の所在

 関西電力において根拠や資料などを明らかにすべきだ。主張及び疎明が尽くされない場合は、電力会社の判断に不合理な点があると事実上推認される。

 福島第1原発事故を踏まえ、原子力規制行政が大幅改変された後の事案だから、関西電力は原子力規制行政がどう変化し、本件各原発の設計や運転のための規制が具体的にどう強化され、関西電力がこの要請にどう応えたかについて主張及び疎明を尽くすべきだ。

■過酷事故対策

 福島第1原発事故の原因究明は建屋内の調査が進んでおらず今なお道半ばの状況で、本件の主張状況に照らせば津波を主たる原因として特定できたとしてよいのか不明。その災禍の甚大さに真摯(しんし)に向き合い、同様の事故を防ぐ見地から安全対策を講ずるには原因究明を徹底的に行うことが不可欠。

 この点について関西電力の主張が不十分なのに、この点に意を払わないのならば、そしてこのような姿勢が関西電力ひいては原子力規制委員会の姿勢とするならば、新規制基準策定に向かう姿勢に非常に不安を覚えるものといわざるを得ない。

 地球温暖化に伴い、気象に経験したことのない変動が多発するようになってきた現状を踏まえ、災害が起こる度に「想定を超える」と繰り返されてきた過ちに真摯に向き合うならば、十二分の余裕をもった基準とすることを念頭に置き、常に他に考慮しなければならない要素や危険性を見落としている可能性があるとの立場に立ち、対策の見落としにより過酷事故が生じたとしても、致命的な状態に陥らないようにすることができるとの思想に立って、新規制基準を策定すべきものと考える。関西電力の主張の程度では、新規制基準及び本件各原発の設置変更許可が、直ちに公共の安寧の基礎となると考えることをためらわざるを得ない。

 関西電力は相当の対応策を準備していると言えるが、新規制基準以降に設置されたのか否かは不明(空冷式非常用発電装置や号機間電力融通恒設ケーブル及び予備ケーブル、電源車は新たに整備)。

 ディーゼル発電機の起動失敗例は少なくなく、空冷式非常用発電装置の耐震性能を認めるに足りる資料はなく、電源車などの可動式電源については地震動の影響を受けることが明らか。非常時の備えが完全であることを求めるのは不可能としても、また原子力規制委員会の判断で意見公募手続きが踏まれているとしても、このような備えで十分との社会一般の合意が形成されたといってよいかちゅうちょせざるを得ない。

 新規制基準で義務化された原発内の補完的手段とアクシデントマネジメントとして不合理な点がないことが相当の根拠や資料で疎明されたとは言い難い。

 使用済み燃料ピットの冷却設備も基本設計の安全性に関わる重要な施設として安全性審査の対象となるというべきだ。使用済み燃料の処分場さえ確保できない現状はあるが、使用済み燃料の危険性に対応する基準として新規制基準が一応合理的であることについて、関西電力は主張及び疎明を尽くすべきだ。

■耐震性能

 関西電力は調査から、本件各原発付近の既知の活断層15個のうち、FOーA〜FO−B〜熊川断層及び上林川断層を最も危険なものとして取り上げ、その評価で原子力規制委員会の審査過程を踏まえ、連動の可能性を高めに、断層の長さを長めに設定したとする。

 しかし、関西電力の調査が海底を含む周辺領域全てで徹底的に行われたわけではなく、それが現段階の科学技術力では最大限の調査ならば、その調査結果によっても断層が連動して動く可能性を否定できず、あるいは末端を確定的に定められなかったのだから、このような評価をしたからといって、安全余裕をとったとはいえない。

 関西電力がこのように選定された断層の長さに基づき、その地震力を想定するものとして選択した方式が、地震規模想定に有益であることは当裁判所も否定しないが、その基となったのはわずか14地震だ。サンプル量の少なさからすると科学的に異論のない公式と考えることはできない。

■津波への安全性能

 新規制基準の下で特に具体的に問題とすべきなのは1586年の天正地震の震源が海底であったか否かだが、これが確実に海底であったとまで考えるべき資料はない。しかし、海岸から500メートルほど内陸で津波堆積(たいせき)物を確認したとの報告もみられ、関西電力の津波堆積物調査やボーリング調査の結果によって、大規模な津波が発生したとは考えられないとまでいってよいか疑問は残る。

■テロ対策

 通常想定しうる第三者の不法侵入などについては安全対策をとっている。大規模テロ攻撃に有効な対応策を有しているかは判然としないが、新規制基準で対応すべき範ちゅうを超えている。

■避難計画

 福島第1原発事故を経験した国民は、事故時に影響の及ぶ範囲の圧倒的な広さと避難に大きな混乱が生じたことを知っている。地方公共団体個々によるより、国家主導での具体的で可視的な避難計画が早急に策定されることが必要で、この避難計画も視野に入れた規制基準を策定すべき信義則上の義務が国家に発生しているといってもよいのではないだろうか。このような状況を踏まえるなら、関西電力は万一の事故発生時の責任は誰が負うのか明瞭にし、新規制基準を満たせば十分とするだけでなく、避難計画を含んだ安全確保対策にも意を払う必要がある。その点に不合理な点がないか相当な根拠、資料に基づき主張する必要があるが、尽くされていない。

■差し止めの必要性

 本件各原発については、福島第1原発事故を踏まえた過酷事故対策についての設計思想や外部電源に依拠する緊急時の対応方法に関する問題点、耐震性能決定における基準地震動策定に関する問題点について危惧すべき点がある。津波対策や避難計画にも疑問が残るなど、住民の人格権が侵害される恐れが高いのに、その安全性が確保されていることについて関西電力が主張を尽くしていない部分がある。3号機は1月29日に再稼働し、4号機も2月26日に再稼働したので差し止めの必要性が認められる。

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