【記事71080】詳報 東電刑事裁判 「原発事故の真相は」 第18回公判(NHK2018年6月20日)
 
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詳報 東電刑事裁判 「原発事故の真相は」 第18回公判

 国の機関の見解に沿って、巨大津波を想定し対策が必要だと、上司とともに元副社長に報告した東京電力の社員。しかし、時間をかけて検討するという元副社長の判断に対しては「経営判断には従うべきと考えた」と証言しました。
 元副社長の判断が妥当だったのかが争点となる中、対策を進めようとした担当者の証言に注目が集まりました。
 この日の証言したのは東京電力で津波対策を担当するグループに所属していた社員です。
 これまでの裁判では津波対策を統括する当時のグループマネージャーとその下で対策に中心的な役割を担った課長が証人として呼ばれていて、今回証言した社員は、2人の指示を受けて、津波の高さの計算や他の電力会社との連絡などの実務を担っていました。
 社員は、平成18年に、国の指針が改定され、原発の地震・津波対策を見直すよう、国から指示されたことを受け、平成19年から福島第一原発で想定すべき津波について、検討を始めました。その過程で、東京電力のグループ会社で津波の計算を行う「東電設計」の社員から、平成14年に政府の地震調査研究推進本部が発表した「長期評価」を取り入れるべきと、助言を受けたということです。
 「長期評価」では、福島県沖を含む三陸沖から房総沖にかけての領域のどこでも巨大な津波を伴う地震が発生する可能性が指摘されていて、この見解を津波対策に取り入れるべきだったかどうかが、裁判の大きな焦点になっています。
 この「長期評価」について社員は「著名な研究者らが集まった国の組織の見解であり、津波対策に取り入れずに国の安全審査で妥当と認められることは難しいと思っていた」と証言しました。
 こうした考えは、これまでに証言した上司のグループマネージャーや課長も同様で、現場レベルでは「長期評価」を取り入れるべきという認識が共有されていたことが、あらためて示されました。
 そして、平成20年3月に、「長期評価」に基づいて最大15.7メートルの津波が襲うという計算結果がまとまると、浸水を小さくするために沖合に防波堤を設置した場合などの効果を検討した上で、その年の6月、武藤元副社長に上司と共に報告したということです。
 武藤元副社長に対しては、「長期評価」の見解を取り入れることや、どのような対策を取るか、方針を決めてほしいと考えていたと言います。
 しかし翌7月、武藤元副社長は、「さらに研究を続ける」と告げ、津波対策を保留する判断を示したということです。
 この時の心境について述べたのが冒頭の言葉です。
 なぜ社員は対策を取る必要があると考えながら、「経営判断には従うべきだ」と考えたのか。
 その理由について社員は、「長期評価では、福島県沖の巨大津波を伴う地震は、絶対に起きるというものではなかった。津波の高さや対策に加え、安全審査に通らないリスクも伝えたつもりだったが、起きるかどうかわからないものについて、経営者として判断したのだと思ったので我々は従うべきと考えた」と述べました。
 結局、「長期評価」を取り入れるかどうかについては、専門の土木学会に研究が委託されます。しかし社員は、「いずれ対策は必要になる」と考えていたということです。
 平成21年には、同じく津波対策の必要性を感じながらなかなか進まない状況に危機感を持っていた上司の課長とともに、対策を進めるための体制作りを上層部に進言したと述べました。
 ところが、「作らなくてよいと言われた」ということで、「正直、なんで早く進まないんだとフラストレーションがたまっていた」と当時の心境を証言。津波対策がいっこうに進まないことに不満を募らせていた様子をうかがわせました。
 ただ、指定弁護士からの「対策を取っていれば東日本大震災の津波を防ぐことができたか」という質問に対しては、「震源の範囲が長期評価と違いすぎて、リンクしないなと思った。あとで解析したが、遡上(そじょう)するパターンが全然違うので、長期評価の津波に対策を取っていたからといって防げたかというと違うだろう」と被告側の主張に沿った考えを示しました。

「長期評価」ほかの電力会社の取り扱いは

 この日の裁判でもうひとつ注目されたのは、「長期評価」の取り扱いが、同じ太平洋側に原発を持つほかの電力会社にとっても、重要な関心事だったことがうかがえる資料が示されたことです。
 証言した社員は津波対策の実務担当者として、他社とは「何度もやりとした」と述べ、頻繁に情報交換していたことを明かしました。
 このうちの1つが指定弁護士側が証拠として示した平成19年12月に開かれた会合の議事録だといいます。この中で、証言した社員が巨大津波を伴う地震は三陸沖から房総沖の領域のどこでも起きうるとしている「長期評価」について、「明確な否定材料がないとすると取り入れざるを得ない」という方針を説明したとされています。
 これに対し、宮城県に女川原発をもつ東北電力の担当者は、社内での検討の結果、地震が三陸沖と福島県沖にあたる2つの領域をまたいで起きるとNG、つまり、津波の想定が大きくなり、対策を迫られる可能性があるとして「(2つの領域を)またぐような波源モデルは考慮しないと言えれば助かる」と述べたことが書かれていました。
 これについてこの社員は「それは難しいと伝えた」と述べ、電力会社の間で長期評価の取り扱いが議論になっていたとみられます。
 また、平成20年に茨城県に東海第二原発をもつ日本原子力発電の津波対策の担当者が東京電力の担当者に送ったとされるメールも示されました。メールには、「主要施設設置建屋も浸水」「当社も非常に厳しい結果」などと書かれ、防潮壁の設置や建屋の水密化などの対策を検討していることも記載されていました。
 その後、東京電力が対策を保留したことを受けて、各社は共同で土木学会に研究を委託しますが、東京電力以外の電力会社が、長期評価をどのように取り扱っていたかは、今後の裁判でも注目点のひとつになりそうです。
 この社員は、次回7月6日にも出廷し、弁護側の質問に答える予定です。


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