【記事88870】福島原発判決 対策取らなかった責任は(信毎WEB2019年9月23日)
 
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福島原発判決 対策取らなかった責任は

 一時は16万人以上が避難し、8年以上が経過しても、約4万2千人が戻れない。
 東京電力福島第1原発の事故である。業務上過失致死傷罪で強制起訴された旧経営陣3人に、東京地裁が無罪判決を出した。
 事故を防ぐ義務を怠った過失はなかったという判断である。
 原発事故は住民や国土に多大な影響を与える。判決はこの特殊性をどこまで考慮したのか疑問だ。原発を運用する責任を軽視しているのではないか。
 裁判の争点は主に二つだった。
 事故を予見できたか、被害の発生を防げたか―である。判決はいずれも否定した。
 争われたのは、国が2002年に公表した地震予測「長期評価」を基に、東電が得た試算の信頼性だ。原発の敷地を最大15・7メートルの津波が襲うという内容である。
 旧経営陣は報告を受けていたのに対策を講じなかった。
 検察官役の指定弁護士は「長期評価は専門家が十分議論して公表したもので信頼できる」と主張。弁護側は「具体的な根拠が示されておらず、信頼性がなかった」と反論していた。
 指定弁護士が論告で強調したのは「情報収集義務」だ。3人には安全を確保する義務と責任があったのに、報告を受けた後も積極的に情報を集めず、的確な判断をしなかったという指摘である。
 原発事故が甚大な被害をもたらすことは、チェルノブイリ原発事故などで明白だった。指定弁護士の論理構成は納得できる。
 判決は、長期評価は「十分な根拠があったとは言い難い」とし、情報収集義務も「担当部署から上がってくる情報に基づいて判断すればいい状況にあった」と退けた。従来の枠組みで過失責任を判断したといえる。
 避難者らが国や東電に損害賠償を求めた民事訴訟では、東電は津波を予見できたと判断し、電源の高台移転などの対策を取らなかった過失を認めた判決も出ている。
 今回の裁判は、東京地検の不起訴処分を受け、検察審査会で強制起訴が決まった。原発事業者に高い注意義務を求める市民感覚の表れといえるだろう。深刻な被害を出した事故の刑事責任をだれも負わないことは、ほかの原発事業者や経営陣に甘えも生みかねない。
 刑法は個人に処罰を科す。今回の判決は、組織の決定に対する個人の責任を問うことの難しさを改めて浮き彫りにした。企業や法人に対する組織罰の導入を検討しなければならない。
(9月20日)
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