【記事26921】当社の津波対策の経緯と津波試算の位置付け(東京電力2011年12月2日)
 
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当社の津波対策の経緯と津波試算の位置付け

【1】 当社の津波対策の経緯と津波試算の位置付け

 [報告書本編 3.4 津波評価について (1)及び(2)]

 平成23年3月11日、14時46分、三陸沖を震源とする東北地方太平洋沖地震が発生し、その後、福島第一原子力発電所に史上稀に見る津波が襲来した。
 当社では、これまで津波対策を実施してきたが、結果として、想定を遙かに上回る津波の襲来となった。
 当社の津波に関する検討の参考として、地震に関する研究機関等の主張に対して、仮定に基づく試算をしていたことをもって、当社が津波を想定していたにもかかわらず、対応を怠ったという指摘がある。
 しかしながら、当社は津波に関して様々な検討を進めてはいたものの、あくまで仮想的な「波源」に基づく試行に端を発するものであり、実際に対処すべき津波として想定していたような事実はない。
 以下に、これまでの当社津波対策の経緯を調査すると共に、その位置付けについて確認を実施したので下記に記載する。

【津波対策の経緯】

○ 福島第一原子力発電所の各号機は昭和41年〜昭和47年に設置許可を取得している。当初、津波に関する明確な基準はなく、既知の津波痕跡を基に設計を進めていた。具体的には、小名浜港で観測された既往最大の潮位として昭和35年のチリ地震津波による潮位を設計条件として定めた。(O.P. ※ +3.122m)
 ※ O.P.:小名浜港工事基準面(東京湾平均海面の下方 0.727m)

○ 昭和45年に安全設計審査指針が策定され、考慮すべき自然条件として津波が挙げられており、過去の記録を参照して予測される自然条件のうち最も過酷と思われる自然力に耐えることが求められている。同指針を踏まえた国の審査においても、チリ地震津波による潮位により「安全性は十分確保し得るものと認める」として設置許可を取得している。設置許可に記載されているこの津波の高さについては、現状でも変更されていない。しかしながら、実際には以下に述べるように様々な機会をとらえて津波評価を行うとともに、対策を含めた内容については国へ報告しており、それらが実質的な設計条件となっている。

○ 平成14年2月に、日本で初めて具体的な津波評価方法を定めた「原子力発電所の津波評価技術」※1 が土木学会から刊行された。以降、この「津波評価技術」は、日本全国の原子力発電所の津波評価において使用されている。

 ※1 「津波評価技術」では、津波が発生する領域ごとに、過去に発生した最大の津波の波源モデル※2 が設定されており、この波源モデルの位置、方向、角度等の不確実さを考慮した多数の数値シミュレーションにより、想定される最大規模の津波を評価する。
 ※2 波源モデル:津波をもたらす地震の発生位置、規模、すべり量等

○ 平成14年に、この「津波評価技術」に基づいたO.P.+5.4m〜5.7mとの福島第一原子力発電所の津波水位の評価結果を踏まえ、ポンプ電動機のかさ上げなどの対策を実施した。これらの評価結果については、同年3月に国へ報告し、確認を受けた。

○ 平成19年6月、福島県の防災上の津波計算結果を入手し、福島県が想定した津波高さが、当社の津波評価結果を上回らないことを確認した。

○ 平成20年3月、茨城県の防災上の津波波源について評価し、算出した津波高さが当社の津波評価結果を上回らないことを確認した。

○ 平成18年9月に耐震設計審査指針が改訂され、この新指針に基づき耐震性について再度確認する(以下、耐震バックチェックという)よう国の指示が出された。耐震バックチェックにおいては、既に地質調査等を終え、基準地震動を策定するとともに主要設備の耐震評価を中間報告として国へ提出している津波については、地震随伴事象として最終報告書で評価する必要があることから、その最終報告に向けて最新の海底地形と潮位観測データを考慮し、平成21年2月「津波評価技術」に基づき津波水位を再評価した。
 福島第一原子力発電所:O.P.+5.4〜6.1m
となり、津波高さに応じた対策を講じている。

○ 以上のとおり、福島第一の津波の評価については、土木学会の「津波評価技術」に基づく評価をベースとしながらも、自治体の行う防災評価上の津波に関する情報も踏まえて確認するなど、自主的な対応を進めてきている。このような評価以外にも、津波に関する知見・学説等が出された場合は、試算も含め、自主的に検討・調査等を行っており、その一環として、津波評価に必要な波源モデル等の知見が定まっていないなか、以下の2つの主張について検討を進めていた。

<1.明治三陸沖地震(M8.3)に基づく試算>

○ 平成14年7月に国の調査研究機関である地震調査研究推進本部(以下、地震本部という)が、三陸沖から房総沖の海溝沿いのどこでも地震が発生する可能性があるという地震の長期評価(以下、「地震本部の見解」という)を公表。地震本部の見解は、有史以来大きな地震が発生していない領域(福島沖から房総沖の日本海溝沿い)でもM8.2前後の地震が発生する可能性があるとしていた。但し、地震本部においては、今回のような連動した大規模地震は想定していなかった。また、有史以来大きな地震が発生していない領域の津波評価に必要不可欠な波源モデルまでは示していなかった。

○ 土木学会の「津波評価技術」でもこの領域における地震発生を考慮しておらず、波源モデルを設定していない。

○ 一方、土木学会では、元々、平成15年度から新たな取り組みとして確率論的評価手法の検討を予定していた。この地震本部の見解についても、この評価手法のなかで取り扱うこととした。津波評価における確率論的評価は先駆的な取り組みであったことから、当社としても土木学会の検討を注視するとともに、土木学会の確率論的評価手法の検討結果※を踏まえて、手法の適用性と改良を目的として、福島での評価を1つの事例として計算した。確率論的評価では、専門家による投票意見なども考慮される結果、評価結果に幅が出てくる。このため実際の運用では、これらの評価値をどのように扱うか(例:米国では1年あたりの確率を平均値で評価するのが一般的)も含めて対応を決定していく必要がある。当社は、計算事例を記載した論文について、平成18年に発表している。
 ※ 当社が発表した確率論的評価手法の論文の結言でも述べているが、当時紹介した確率論的評価手法は開発途中のものであり、土木学会において平成18〜20年度に引き続き検討されているが、現段階でも津波の評価手法として用いられるまでに至っておらず、試行的な解析の域を出ていない。

○ 平成20年4月〜5月頃、今後の耐震安全性評価(バックチェック)において地震本部の見解の取り扱いを社内検討するなかで、検討の参考として明治三陸沖地震(M8.3)の波源モデルを仮定した計算を実施。福島沖の日本海溝沿いでは、過去に大きな地震が発生していないため波源モデルがなく、波源モデルも定まっていないため、このときの試計算では福島サイトに最も厳しくなる明治三陸沖地震(M8.3)の波源を福島沖の日本海溝沿いにもってきて津波水位を算出したものである。福島第一において、津波水位O.P.+8.4〜10.2m、浸水高は15.7m(※かけ上がりを含む敷地南側での津波水位)との試算結果となった。

○ 平成20年夏頃、地震本部の見解の取り扱いについて検討した結果、
 @電気事業者が津波評価のルールとしている土木学会の「津波評価技術」では、福島沖の海溝沿いの津波発生を考慮していないこと
 A津波の波源として想定すべき波源モデルが定まっていないことから、試算はあくまで具体的根拠のない仮定に基づくものに過ぎず、地震本部の見解に基づき津波評価するための具体的な波源モデルの策定について、土木学会へ審議をお願いすることとした(土木学会では平成21年度から審議が行われているが、現在に至るまで、福島沖の波源モデルは確定していない)。

○ 平成23年3月7日(東北地方太平洋沖地震発生の4日前)、地震本部の長期評価が見直される動きについて、保安院からの説明要請があり、当社の津波評価の対応状況等と併せてこの津波試算結果についても耐震安全審査室長及び審査官等に資料をお渡しして説明した。また、この打合せの場において、今すぐ対策を実施するようにとの指示は受けていない。

○ なお、中央防災会議は、国の防災基本計画や地域防災計画の作成・推進の役割をもつが、過去に実績のある地震等を検討対象としていたため、過去に大きな地震が発生していない福島県沖や房総沖の海溝沿いの地震までは検討の対象とはしていない。このため、中央防災会議で地震本部の見解が具体的な防災につながってはいない。
(後述の貞観津波に係る知見も同様。)

<2.貞観地震(M8.4)に基づく試算>

○ 平成20年10月、産業技術総合研究所 佐竹先生の論文「石巻・仙台平野における869 年貞観津波の数値シミュレーション」(投稿前)を受領。論文では、貞観津波の発生位置及び規模等は確定できておらず(すなわち、波源モデルは未確定)、2つの波源モデル案が示され、確定のためには福島県沿岸等の津波堆積物調査が必要とされていた。

○ 平成20年12月、未確定ではあるものの波源モデル案が示されたことから、この論文において提案されている2つの波源モデルの案を用いて津波計算を実施。福島第一における試算結果は、津波水位O.P.+8.6〜8.9m。

○ 平成20年12月、産総研 佐竹先生の論文において福島県沿岸等の津波堆積物調査が必要とされていたことから、津波堆積物調査の実施を計画した。

○ 翌平成21年4月、正式に論文が発表される。当該論文には、貞観津波の前述のとおり波源モデルが記載されていたが、仙台平野及び石巻平野での津波堆積物調査結果に基づく波源モデルであり、発生位置及び規模等は未確定とされていた。確定のためには、福島県沿岸等の津波堆積物調査が必要とされていた。
○ 平成21年6月、地震本部の見解、貞観津波の波源モデル等について土木学会へ審議を依頼した。
○ 平成21年6月、総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会耐震・構造設計小委員会 地震・津波、地質・地盤合同WG(耐震バックチェックを審議する国の審議会)において、委員である産総研 岡村氏から、貞観地震について(津波評価の観点から)検討する必要があると指摘された。

○ このWGでは、当社の地震評価に関する中間報告書が審議されたが、津波評価は最終報告書での報告事項としており、そもそも中間報告書には津波に関する記載がなかった。
また、「このWGは地震評価に関する中間報告書の審議の場であり、津波評価は最終報告書での報告事項である」旨を保安院から回答がなされた。

○ 平成21年7月、保安院が福島第一5号機、福島第二4号機の耐震安全性に係る中間報告の評価が妥当と判断。保安院の報告書には「現在、研究機関等により 869 年貞観の地震に係る津波堆積物や津波の波源等に関する調査研究が行われていることを踏まえ、当院は、今後、事業者が津波評価及び地震動評価の観点から、適宜、当該調査研究の成果に応じた適切な対応を取るべきと考える。」と記載された。

○ 平成21年8月、保安院からの要請を受けて、貞観津波の検討状況等を審査官に、同年 9 月にはこの津波高さの評価結果を耐震安全審査室長及び審査官にそれぞれ資料をお渡しして説明した(平成23年3月7日には、満潮位の考慮方法を変更した津波水位O.P.+8.7〜9.2 mを地震本部の見解と併せ再度説明を行っている)。
○ 平成21年度冬(農閑期)に福島県沿岸において津波堆積物調査を実施し、福島県北部では標高4m程度まで貞観津波による津波堆積物を確認したが、福島県南部(富岡〜いわき)では津波堆積物を確認できなかった。
 また、津波堆積物調査結果と提案されていた波源モデル案に整合しない点があることが判明したことから、波源の確定のためには、今後のさらなる調査・研究が必要と考えた。

○ 堆積物調査の結果については、平成23年1月に論文投稿し、同年5月に日本地球惑星科学連合 2011 大会で発表。
○ なお、現時点でも貞観津波の発生位置及び規模等(波源モデル)は確定できていない。
以 上

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