【記事46210】文明を断絶させた大噴火(島村英紀2016年8月19日)
 
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文明を断絶させた大噴火

 6世紀の中世ヨーロッパに「暗黒時代」と呼ばれる時代があった。社会的な衰退と混乱が長く続いた時代だった。現在までの過去2000年間で最も寒い10年間だったのが影響したと思われている。
 これが、地球の反対側にある火山の噴火に起因するものだという発表が行われた。この春、オーストリア・ウィーンで開かれた欧州地球物理学会。会議は欧州各地で持ち回りで開かれるもので私も会員になっている。
 このとき「謎の雲」が欧州の空を覆った。当時ローマにいた歴史家プロコピウスが次のように書き残している。「その年中ずっと、太陽が発する光に明るさはなく、月のようだった。終わらない日食のようだ」。
 欧州の平均気温が2℃下がり、農耕に壊滅的な影響を与え、欧州の大半とその隣接地域に大規模な食糧不足をもたらした。北欧の木には、この数年間だけ木の成長が悪くて年輪の間隔がつまっていることも明らかになった。
 これは「カルデラ噴火」という大規模な火山噴火が起きて、日光をさえぎる硫黄の粒子が成層圏に充満し、突然気温が低下したことによるものだった。この硫黄粒子は世界中に降ってきて、グリーンランドや南極の氷河の下からも発見された。
 発表では、この噴火は2回あったという。だが北半球のどこかと熱帯地方のどこかとしか言及されていない。だが、ほぼ間違いなくインドネシアのクラカタウ火山とメキシコのエルチチョン火山ではないかと考えられている。
 クラカタウ火山の地元であるジャワ島西部にはカラタンと呼ばれた高度の文明が栄えていたが、この噴火で姿を消してしまった。またエルチチョン火山の噴火でマヤ文明も崩壊したと言われている。
 クラカタウ火山は近年にも大噴火している。1883年に起きたカルデラ噴火は海面近くで大噴火したので大津波を発生し、地元での死者は36000人にも達した。2004年に起きたスマトラ沖地震までは世界最大の津波被害だった。
 この噴火のときにも世界の気候が変わってしまった。舞い上がった火山灰は世界の気候を変えた。
 ノルウェーの有名な画家ムンクの「叫び」の絵の背景には異様な色の夕焼けが描かれている。1883年に起きた噴火による世界的な気候変動で引き起こされたノルウェーでの異様な夕焼けを描いたのでは、という学説がある。
 他人事ではない。日本でもこの種のカルデラ噴火は、過去10遍以上も起きている。いちばん近年のものは7300年前の鬼界カルデラの噴火だった。この噴火は鹿児島市の南約100キロの九州南方で起きた。
 このときの噴火で放出されたマグマは東京ドーム10万杯分にもなった。
 この鬼界カルデラの噴火で九州を中心に西日本で先史時代から縄文初期の文明が絶えてしまったと考えられている。縄文初期の遺跡や遺物が東北日本だけに集中しているのはこのカルデラ噴火のせいだと考えられているのである。
 火山の大噴火はたびたび文明の断絶を引き起こしているのだ。

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